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婚約者の誇り

その晩レイは、夜更けまで自室の机の前に座り、ナタリーの件で王様に直訴する内容を文として書き綴っていた。

時折アリアが心配して自分の様子を見に来てくれ、溜まった疲れが取れるようにと甘い香りの紅茶を入れてくれた。

そしてそのままレイは机の上で疲れて寝てしまったはずが、明るくなって目が覚めた時ベッドの上にいた。


「エヴリ王女様、お目覚めですか?」

「アリア。私、昨晩机の上で寝てしまったと思うんだけど。」

「ふふ。申し訳ありません、私エヴリ王女様が心配で夜中にもお部屋に伺ったんです。それで王女様が机で寝てるものですから、頑張って一人ベッドまで担いできたのですよ。」


アリアの優しい気遣いにレイは安堵し、窓の向こうを眺めると日の光はもう十分上にあった。


「アリア、もしかしねもう昼過ぎているの?」

「そうですよ。王女様、無理せずに少し休まれてくださいね。」


レイは養母の死刑宣告を聞いてから余計に心は休まず、そしてここ数日文献を読み漁っていて頭も使っていた。

しかしアリアのおかげで久しぶりにゆっくり眠ることができ、レイはいつもより身体がとても軽く感じた。


「それはそうと、エヴリ王女様。なんとゼロ様が昨晩から腹痛が辛いんだと言って、お仕事を休まれました。王女様は体調お変わりありませんか?」

「ゼロが腹痛ですか?大丈夫かさら?私は大丈夫です。」

「代わりに誰を護衛につけましょうか?とゼロ様がおっしゃってました。一応王女様が顔を知れる数名の騎士がお側に仕えるよう、朝から外で待っていてもらっていたのですがご案内してもよろしいですか?」

「そうねぇ…。」


レイは明日王様らが帰還した際にすぐ謁見しようと、昨晩綴った直訴文を確認してもらうためセラと会う約束をしていた。

ゼロ以外の者を護衛に仕えさせることで、自分の不可解な言動を勘づかれて先に王様らに知らされてしまっては困るとレイは迷っていた。


「アリア、私少し花園に行ってくるわ。花園に一人で行ってはダメかしら?すぐそこだから。」

「王女様、そんなことをしてはゼロ様やルーエン様から私叱られてしまいます。」

「お願い、アリア。ちょっと一人になりたいの。一時間で戻ってくるから、ちょっと護衛を引き止めておいてくれないかしら。」

「分かりました。一時間だけですよ。」


アリアはレイがよく一人で花園に行き、花の観察や世話をしたりなどして憩いの時間を過ごしていたことを知っていた。

しかし今日のレイは花園で隠れてセラと会う約束をしていたため、アリアには申し訳ないがそう信じ込ませて部屋を一人で出ることに成功した。



そしてレイは静かに花園へに到着し、セラと落ち合った。

レイに護衛はいなくとも、セラの護衛は少し遠くの場所に仕えているため危険なことは一つもなかった。


「これでいいと思います。エヴリ王女様、本当に大変でしたね。」

「ありがとうございます。セラ王子様の貴重な時間を割いていただき、本当に助かりました。」

「いいえ、クルート国のためでもあります。エヴリ様には二国の命運をかけた重い使命をしていただくことになり、大変申し訳ありません。」

「しかし王様が私と会ってくれるか、それが問題ですが。」


レイはセラの力添えのおかげで直訴文が完成できたことにより、自分が王様と謁見さえできればナタリーの罪は覆されるのではないかと自信はあった。

もちろん自分が王様と謁見できなかった後に起きてしまうだろう、大切な者達を失う最悪の事態への恐怖心は拭えなかった。


そしてベンチに座り黙り込むレイに、セラは小声で囁いた。


「私実は、花園で密かにエヴリ王女様を見ていたんですよ。」

「…もしかして、それがセラ王子様が舞踏会でお話しされていた秘密のことですか?」

「そうです。」


レイにとって花は生きていく上で重要なもので、心の支えであった。

この花園は城内でレイにとって一番落ち着く場所であり、一人笑ったり泣いたり素の自分を見せていた場所だった。

そんな光景を密かにセラに見られていた現実に、レイは照れて俯いてしまった。


「どうして声をかけてくださらなかったのですか?」

「エヴリ王女様が花を見つめる表情がとても可愛らしくて、声をかけられませんでした。」

「そんなこと…。」

「エヴリ王女様、舞踏会の際もとても嬉しそうに花のことをお話しされてましたね。」


穏やかにそう語るセラは立ち上がり、レイの前に右手を差し伸べて言った。


「実は城下町の先に小さな向日葵畑があるんです。これから一緒に見に行きませんか?」

「城外ですか…。私ほとんどこの国に来てから外に出たことはないんです。今日は信頼する護衛もいないので、控えたいです。」


レイはセラと二人で向日葵畑を見に城外へ行くことは、もちろん好奇心がくすぐられてかつ時めく行為あったが、王女としての立場が先に答えを出してしまった。


「二人とはいっても、私の護衛がいるじゃないですか。デートにお邪魔虫になりますが。」

「デート…ですか?」

「はい、そうです。明日の大切な決戦を前に二人で花を見に行きませんか?」

「分かりました。」


大切に想う人にそこまで言われたら…と、レイは王女としての自分よりも、ずっと抑えていた一人の女性としての気持ちが優り、セラの手を取ることにした。



そしてレイは持参していたケープを頭にかけて顔を隠しながら、王城から城下町への抜け道を通ってレイはセラと共に城を出た。

賑わう街を掻き分けて辺境に出るとすぐに、小さな向日葵畑はあった。


「わぁとても可愛い。向日葵ですね。」


お気に入りの王城の花園と比べたらとても質素な向日葵畑ではあったが、レイは故郷を思い出すようで懐かしい気持ちになった。

そして向日葵の花言葉を考えると、それは隣に寄り添うセラに対する自分の想いのようだった。


向日葵の花言葉は、”憧れ。あなただけを想っている。それは一生叶うことがない、想い。”


レイからのセラへの想いは募る一方であった。

例え一生、私がレイだとセラに言えず報われないとしても。

レイが叶わぬ思いに浸っていると、セラが囁くように言った。


「昔、向日葵畑に弟を連れ出したことがあるんです。」

「弟様をですか?」

「はい。弟は私とは違ってとても勉学が好きで真面目で、少し気分転換をさせようと。」


そう話すセラはいつもと違う雰囲気で、弟を懐かしむ優しい眼差しに変わっていた。


「優しいお兄様ですね。」

「そんなことはありません。私は弟が立派な王様になれるよう、少しでも手助けをしたいんです。」

「王様…ですか?」


セラはつい口を滑らしててしまったと、人差し指を口の前に添えて言った。


「これから話すことは秘密ですよ。私はこれから国に戻って王様から王位を譲り受ける約束をしています。しかし私は王様になって大切な人を見つけたら、譲位し弟を王にします。私にはただ一人、一生をかけて守たい人がいるんです。」


セラの思わぬ告白に、レイは一瞬切ない気持ちになったが、ただセラの想いを尊重した。


『セラはもう大事な人を見つけていたのね。』


レイは決して結ばれることは望めない自分の気持ちを封じ、セラが幸福になる未来を願ってやまなかった。



こうやって二人でいる時間は穏やかで、まるで明日訪れるであろう嵐の前の静けさのようだった。

そしてずっと嵐を解決せねばいけないと思って行動してきた自分に唯一に許された、最初で最後の幸福な時間ではないかとレイは思った。


しかし禁じられた関係の二人には、束の間の休息を許されていないようだった。



「よう、お前ら貴族か。高そうな羽織物を着てるな。」

「女の方も美人だ。これは金になるな。」


レイ達が突然背後からの声に振り返ると、数名の盗賊が刃物を出して立っていた。

セラはすかさずレイを庇うように腰の剣を抜き、近くにいたセラの護衛二人も駆けつけ盗賊の両隣に立った。


セラはレイに斜め後ろの小道から逃げるよう目配せしたところ、すぐにその道からも仲間の盗賊が数名現れ、レイを庇うセラは四方から包囲された。


「セラ王子様!」


味方の戦力は護衛も併せて三人、相手は十人近かった。

例えばセラ自体の武力が騎士団でも抜きん出て優秀だとしても、レイを安全に庇いながら敵を倒すことは難しい状況だった。


セラの護衛が先に一人でも多くの敵を倒そうと剣を交え合い、セラは交戦せずにレイを匿って敵の出方を伺っていた。

その時、背後から国軍の旗を掲げた騎士団が数名姿を現した。


「盗賊か?城下町に近い辺境で何をしてるんだ。」


騎士団の先頭で声を張り上げていたのはレイがよく顔を知る人物ーシーダであった。

そしてシーダ達騎士団がすかさず、セラ王子の前に立ち、言い放った。


「セラ王子様は剣を交えずにそのままエヴリ王女様を守ってください。」

「いや、私も。」

「貴方は一国の王子様です。隣国で傷が付いてしまったら、元々危うい二国間の関係がどうなってしまうのかお分かりですか?この命をかけて王族をお守りするのが私たちの役目です。」


そうシーダの言う間に、盗賊は剣を交えることもなく騎士団達に取り押さえられていた。

瞬く間の出来事であったが、自分を守ろうとしたセラがもし怪我でもしてしまったらとレイは不安で仕方なかった。


国のために非常に全うな理由で早急に対応してくれたシーダに、レイは呼吸を整えて深くお辞儀をした。


「シーダ、本当に有難うございました。」

「エヴリ王女様、そしてセラ王子様。」


真剣な眼差しをしたシーダは乗っていた黒馬から降り、レイとセラの前に立った。

そして一つ咳払いをすると、落ち着いた口調で言った。


「お二人に一つ申し上げたいことがあります。エヴリ王女様がセラ王子様と場内で頻繁にお会いしていることを存じていました。城外に出掛けるのであれば、尚更もっと多くの臣下を連れて歩くようにして下さい。」


それはまるで自分たちの非を隠してくれるような言い分だった。

そしてレイが顔を上げると、シーダは唇を噛みしめて言った。


「エヴリ王女様、貴方様の気持ちが私に無いことは重々分かっております。しかし私は一生貴方を命をかけてお守りします。」


そして騎士団の数名がそのまま残って使え、レイとセラは王城に静かに戻った。


帰り道、二人はお互いの臣下の馬に乗車し、交わした会話はなかった。

レイは自分本位の浅はかな行動をとることで、知らぬ間に傷付けていた存在のことを考えていた。

まるでシーダこそ自分を向日葵のよう大事に思っていたことをレイは気付いた。


そしてその浅はかな行動はより辛い現実をも齎していたことを、レイはすぐ知ることになった。


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