玖之巻 使命
今回は余り進みません。
ほぼ会話ばかりになってしまいました。
天文15年初頭 伊達稙宗の本拠地奪還成功により勢いに乗った稙宗は次々に嫡子晴宗派の抑える拠点を攻略していった。
しかし晴宗派の結束も固く、降伏はせず城が落ちても後退し、頑強な抵抗を続けていた。
一方12年ごろより落ち着いていた越後では反対派が強行手段に及び主君・定実の娘の輿行列を襲撃し、下越の方で再び戦闘が始まっていた。
そんな中越後の鳥坂城では私と新兵衛、そしてこちらにおわす定実様の御姫君と共に、城主:中条越前守藤資と交渉を行なっていた。
「私めはこの戦、もう暫く長引くと考えます。また左京様が最終的に敗北致すと思います。」
目の前にいる藤資は驚いた表情を浮かべる。私はそれを見て見ぬふりをし続ける。
「まず戦が長引けば両陣営ともに疲弊しますが、最も被害を被るのが左京様の陣です。取り分け蘆名殿と田村殿等らは元より仲があまりよろしくないとお聞きします。」
続けて新兵衛が話す
「本拠を奪還された左京様側は勢いにのっておりまする。蘆名殿に西から激撃するように頼めば米澤など一溜まりもありますまい。しかしその蘆名殿が次郎殿にお味方したら如何なりますかな?」
すると藤資は焦ったように困惑した顔を浮かべる
「越後の国境が塞がり時宗丸の入府が困難になる。そして我らは挟み撃ち味方に背後を突かれると…クソッ。」
私は未来を参考にしつつ話を作る、勿論歴史通りになる保証はどこにもない、だからこそ今の内に手を打つのだ。
「私が姫様をお助け出来たのは"偶然"ですが、これから先は汝の役目、要は分かりやすく言うと落ち着きのある今の内に姫様を左京様側に引き渡すのです。」
すると今まで静かにしていた御人が口を開く
「妾は怖い。でも妾には使命が御座います。今更父上の元に戻りたいとは申しません。ですから連れて行ってくれるのであれば早うして欲しい。もう目の前で人が死ぬ所は見たくない。」
「約束せしめよ越前。必ずや姫様を無事、時宗丸様の元に届けると」
力強く言い放つ、藤資の表情が変わる、武士の覚悟を決めた目はいつ見ても迫力がある
「畏まりまして候。この越前、仕方必ずやお嬢を時宗丸様の元へお届け致します。」
こうして密約を交わし姫を授けた我らは鳥坂城を後にした。
誓った内容は以下の通り
蘆名の動きを逐一報告、姫君の体調が戻り次第出立をする事、嫡子山城守の家督相続並びに、降伏後のお家安堵等。
この後数ヶ月の療養を得て姫を封じた藤資の使節団は大森城を目指して鳥坂城を出立した。
蘆名領・二階堂領・田村領を通り遂に大森城に辿り着いた。
ー陸奥国 大森城ー
「申し上げます。時宗…あ、失礼致しました。藤五郎様、義父上様の家臣・鳥坂城主:中条越前守殿が参られました。」
「よし、お通しせよ」 「ははぁ!」
ー大森城 広間ー
甲冑に身を包む中条藤資率いる少数の軍勢が城主の登場を心待ちにしていた。
「申し訳ござらん、お待たせ致した。」
若い青年が姿を現した。この青年こそ上杉藤五郎実元。上杉家を継ぐはずだった男である。
「お恥ずかしい事に越後を統治しなければならない立場の人間がこの城の主を勤めております。いやはや兄上がお早く降伏でもしてくだされば話が早いのですがな…ははは。」
そう呟くと実元は陽気に笑ってみせた。
「致し方がない事にございます。」
藤資はそう呟くしかなかった。
「あ、すいませぬ。お名前を名乗ってはおりませなんだ。某、越後の義父上より名前とこちらにある名刀と名高い宇佐美貞光を拝領致しました、上杉藤五郎實元と申します。貴殿は如何なお人で?」
「は。某中条越前守藤資と申します。若是非とも越前とお気軽にお呼びください」と申し藤資は頭を下げた。
「いやいや若とはお恥ずかしい、所で越前殿、如何な用でこちらに参られたのです?態々戦禍の中、味方領を抜けこの大森まで来られたのには訳があるのでございましょう?」
実元からしたら本来越後に出向かねばならない立場の人間であるのにも関わらず、その越後の家臣筋が態々顔を出しに来た。
何かあると考えて当然である。
「はい、実は御義父上・現守護様より奥方様を預かり、若の元へ無事届けるよう命を賜り、本日こちらに馳せ参じた由に御座います。おい、お連れせよ。」
すると奥の襖から雅な姫君が現れ出た。正面を向き実元にお辞儀し、入られた。
「なんと」
言葉に出来ない程の衝撃、この世にこんなにも美しい女性がいたのかと実元は驚いた。
「越後の動乱・奥羽の動乱お互いが落ち着き払った時、盛大に参りたかったと私めも思いますが、姫様、若。このような形での対面、誠に申し訳ございません。」
そう申し開き、藤資は座上の実元と横に座る姫に二度頭を下げ、さぁと手を実元の方に向け姫君に合図をした。
「お初に御座います。私、越後守護・従五位下越後守藤原定實が娘、お凛に御座います。宜しくお願い申し上げます。」
「おぉあぁええ、あははは、よ、こ、こちらこそ宜しくお願い致します。」
こうして史実と違い、実元は上杉定実の娘を城に引き入れる事に成功した。歴史が少しづつ新たに作られはじめた瞬間である。
本話もご覧頂きありがとうございました。
次話にはなんとか天文の乱を終わらせてストーリーを進められるように頑張りますので、宜しくお願い致します。




