第一王子視点2 リアの所に何故か王弟が来て助けてくれました
その後、女の子のお供をして、薬草採取を手伝った。
そして、驚くべきことに、少女は前に現れる魔物たちを次々に吹っ飛ばして行ったのだ。少女の前に敵なしだった。
そもそも、少女の音痴な鼻歌を聞いた瞬間に魔物たちは逃げ出していたのだ。たまに、間違って反対方向に逃げようとして少女にぶつかって弾き飛ばされる可哀そうな魔物がいるという具合だった。
このダンジョンではこの少女がいわゆるラスボス的存在になっていたのだ。
俺はただ、その少女を見ているしか出来なかった。
つくづく自分の実力の無さを思い知らされた。
そして、この女の子を見ていると、自分はなんて下らないことで悩んでいたんだろうと馬鹿らしくなった。
だってこの少女は自分よりも何倍も大きい魔物を次々に弾き飛ばしていくのだ。前に立ちふさがる障害など何も無いみたいに。
グチグチ悩む前に、せめてこの少女に負けないくらい強くなろうと俺は心に決めた。
俺はそのまま、少女の家に連れて行かれた。
そして、俺を前に7歳の少女が料理を始めたのだ。
俺も見様見真似で野菜の皮むきをしたが、全然出来なかった。
「あなた本当に使えないのね」
俺は7歳の少女にそう馬鹿にされても絶句するしか無かった。
いらない王子と侍女らに言われて反発したのだが、この少女に同じような言葉で言われたら、本当に何も出来ない自分だということを思い知らされただけだった。
何しろ、この少女は7歳なのに、母の代わりにご飯を作っているのだ。味は大雑把だったが。
俺は剣術も魔術ももう一つだ。7歳の少女ににダンジョンで、助けられる始末なのだから。
今までは教えてもらっていない。3流の教師しかつけられていない。装備がボロっちい。他人や物のせいにしていた。
でも、7歳の少女は一人で魔物を弾き飛ばしながら、薬草を採っているのだ。俺が手も足も出なかった魔物たちを相手に。自分の魔術だけを頼りにやっているのだ。持っている薬は確かに規格外だったが、後は自分の魔術だけだ。言い方は悪いが、裸一貫でやっているのだ。
このご飯にしても全部自分で切って煮て、曲がりなりにも食べられる食事になっていたが、全て一人でやっていた。俺は一人ではこんな食事は作れない。というか、悪口を言われていた侍女たちに給仕してもらわないと食べることも出来なかったのだ。
それに対してこの少女は母親が研究室に籠もっている間に家事や雑用は全てやっているのだ。
俺は自分が恥ずかしかった。
そうこうしているうちに、何故か叔父の王弟ヴァージルがこの家に遊びに来たのだった。
何故、王弟で大将軍の叔父がこんな平民の家に遊びに来ているのだ?
俺には訳が判らなかった。
叔父は確か北方に第一師団を率いて蛮族共に睨みを利かしているはずだった。
「何故、お前がここにいるのだ!」
叔父は俺を見て固まっていた。叔父にとっても俺がここにいるのは想定外だったのだ。
「ジルおじちゃん」
と喜んで駆け寄る少女に、何故俺がここにいるか聞くと、慌てて俺を連れて王宮に戻った。
俺は途中で頭を叔父にゲンコツでしばかれて、ボロクソ叔父に怒られた。
「一人で黙ってダンジョンに潜るとは何事だ」と。
今まで誰にもされなかった王子の心構えを延々と教えられた。
俺は頭を下げて淡々とそれを聞いていた。
俺に対してこんなふうに怒ってくれる人は初めてだった。
最もその後、叔父は俺の周りの出来ない奴らを一掃してくれた。
無気力になっていた父にその後呼ばれて今まで放っておいて悪かったと謝られた。何故か、その国王の頬は腫れていた。
近衛も一新された。俺の周りの近衛は、そのままそっくり叔父の管轄する北方へ転属させられた。そこで一から鍛え直されるらしい。貴賤の別なく全員第一師団に転属させられたのだ。大将軍の一言で高位貴族や王妃も沈黙した。
生意気な侍女や教師たちも王宮から翌日にはいなくなっていた。
俺の周りは完全に一新されたのだ。
俺はそれに胡座をかくこと無く、今までもう一つだった。魔術も剣術も死にもの狂いで練習し出した。
勉強も自ら進んで必死に取り組むようになった。
絶対にその少女に負けないようにというか、認めてもらうようになる為に。
俺は死にもの狂いですべての事に取り組みだしたのだ。
次は今夜更新予定です。
次までが第一王子視点です。




