決着/Game Set
迂闊だった。
敵の機体が腰に手を伸ばした瞬間、自分のミスに気付いた。被害を可能な限り減らそうとしたが、カグツチは俺の小さなミスでも許すつもりは無いらしい。相手の迎撃を正面から喰らって、その流れで目と足をやられた。そして、現在敵は俺達に王手をかけている。
だからと言って、諦めるわけにはいかない。
「このぉ、動けー!」
自分を鼓舞するために大声で叫ぶ。残っているスラスターを全力で動かし、機体を右に回転して移動させる。狙いを定めて撃たれた敵のビームバズーカが胸の装甲ギリギリを掠めていく。
後ろで古兵が席に必死にしがみ付きながら叫ぶ。
「ここで相手に逃げられたら勝ち目はない!勝つには攻め込むしかない!」
古兵の言う通りだ。左脚が破壊されたことにより唯でさえ難しいカグツチの制御がさらに難しくなっている。さっきは何とかバズーカを回避できたとはいえ、この状態ではまともに弾を避けられない。唯一残された勝ち筋は、カグツチの得意分野の接近戦に持ち込むことだけだ。
そう判断し、俺はカグツチの背部スラスターを起動する。幸いカグツチのメインウェポンである両手剣はまだ右手に握られている。相手はバズーカを撃った反動で仰け反っている上、さっきと違いバズーカによって両手が塞がっている。となると、警戒するべきは肩のキャノン砲のみ。俺はペダルを全力で踏み込み今出せる最大速度で相手の懐に飛び込む。
予想通り、相手のネプチューンと呼ばれていた機体はキャノン砲をカグツチに向ける。でも、今の俺にそれを回避する余力は残っていない。俺はカグツチの腕を操作し両手剣を盾のように構え、そのまま突撃する。ネプチューンの肩のキャノン砲により放たれた砲弾は、両手剣に直撃する。
カグツチのスピードは落ちる様子はないが、構えた両手剣に僅かなひびが入るのが見える。でも、このチャンスを捨てる訳にはいかない。最大速度のまま、敵との間合いを詰める。
自衛手段を使い切った相手は、少しでも距離を離そうと胸部にあるスラスターを点火する。だが、左脚が破損しているとはいえカグツチの圧倒的スピードから逃れることはできない。次の瞬間には既にカグツチが肉薄している。
俺はカグツチの両手に握られた両手剣を振り下ろす。ネプチューンは自分を庇う様にバズーカを持ち上げる。振り下ろされた両手剣はバズーカの腹に叩きつけられる。
圧倒的質量によってバズーカはひしゃげ、火花を散らす。危険を察知したネプチューンは、危険を察知し傷ついたバズーカを放り投げる。投げた数秒後、バズーカは派手な音を上げながら爆散する。
だが、両手剣も無傷では済まない。衝撃と同時に、先程までは小さかったひびが一気に剣全体に広がる。俺はもう使い物にならないと判断し両手剣を投げ捨てる。そして、僅かに開いた距離を詰めつつ相手に組みかかる。
組みつかれたネプチューンは、必死に密着したカグツチを引き剥がそうとする。だが、このチャンスを見逃せない。俺は使える武装を必死に探し、頭部のバルカン砲を起動する。カグツチの口らしき部分から、弾丸が敵に叩き込まれる。だが、至近距離とはいえ、あからさまに重装甲な相手の機体にダメージが入っている様子はない。
それに気付き敵の弱点を探すと、相手の肩のキャノン砲が目に入る。すかさずバルカン砲の狙いをキャノン砲の根元に変え接射する。十数発弾が当たるとキャノン砲は黒煙を上げた後に爆発する。
ネプチューンの攻撃手段を一つ封じた。だが、まだ勝負は決まっていない。もっと決定的なダメージを与える必要がある。相手にとどめを刺せるほどのダメージが。
考えているとふと相手の機体と目が合う。
その瞬間とある考えが脳裏を過る。
そうだ、簡単じゃないか。人型のロボットには、人間と同じ弱点を狙えばいい。
カグツチは右手でその腰に下げられたナイフを握る。そして、その異形の様に長い腕を上に掲げると、相手の首筋を目掛け振り下ろす。
派手な火花を散らし、ナイフはネプチューンの首に突き刺さる。相手の焦りはより顕著になり、抵抗がさらに激しくなる。だが、ここで逃がす訳にはいかない。ナイフをネプチューンの首にさらに食い込ませながら、カグツチのスラスターを全開にする。圧倒的なパワーにより、ネプチューンは後ろに押されていき、後方に浮いていた戦艦の残骸に叩きつけられる。
強い衝撃が効いたのか、一瞬ネプチューンの抵抗が弱くなる。その隙を逃さず、左手でネプチューンの頭部を鷲掴みにし、思い切り引っ張る。ナイフによって傷つけられた配線がブチブチと音を立てながら引き千切られ、頭部が完全に体から切り離される。左手に握られた頭部をすぐに投げ捨て、もう一つのナイフも腰から抜く。
ネプチューンは抵抗するために残されたキャノン砲を発射するが、密着状態のカグツチには当たらない。両手に持ったナイフで剥き出しになった機械を無造作に切り裂く。いかに重装甲のネプチューンでも、内側の機械類は脆い。しばらく攻撃を加えていると、怪しい火花が出始める。
それを察知し、俺はカグツチを下がらせる。数秒後、ネプチューンは火花を全身から散らし、盛大に爆発する。爆発が収まると、アナウンスが鳴り響く。
Game Set
Winner: レイドラ
「…勝ったな。」
「…ああ。」
俺達は放心状態になったまま母艦の格納庫へ強制的に転送される。
◇
正直言うと、レイドラが初戦で勝てるとは思っていなかった。
それも攻略サイトに「飛ぶランクポイント」とまで言われたカグツチを使ってだ。
それにしても、やはり印象に残っているのは相手を追い詰めた後の戦い方だ。
自分の素直な感想をレイドラにぶつける。
「最後の方の戦い方品性の欠片も無かったな。」
「親友が逆転勝利を決めた後の感想がそれかよ。」
「いやでもあんな負け方したら相手トラウマになるぞ。」
ハンガーに戻った俺達は、キャットウォークの上で先程の対戦の余韻に浸っていた。さすがにレイドラも疲れたのか、キャットウォークの手摺に寄り掛かっている。もちろんゲームなので後ろに佇むカグツチは既に修復されている。
一息ついたレイドラは、手摺から離れ背伸びをする。
「で、これからどうするんだ?」
「そうだな…せっかくならこのまま初心者帯を突破して機体が選べる中級者帯まで行ってみるか?」
レイドラはニヤリと笑う。
「いいねえ。やっとカグツチの操作にも慣れてきたんだ。このまま一気に次のランクまで登ってやるよ!」
結局、中距離機体相手にタコ負けして、何とか中級者帯に入った時の勝率は5勝7敗だった。
◇
「あのマシンガンとミサイルのコンビネーションどうやって対処すればいいんだよ…近寄るの無理だろあれ…」
『ペガサス』からの帰り道を一緒に歩いていると、龍斗はぼやく。
「ああいう状況になると何もできないのがカグツチの弱点だからな。まあ中級者帯には入れたからいいじゃないか。使える機体の選択肢が増えるから対策は簡単にできるようになるぞ。」
そもそもカグツチを選ばなければもっと簡単に中級者帯に上がれたのではと思うが、口には出さない。どうやら龍斗はカグツチをかなり気に入ったらしく、結局中級者に上がるまでずっとカグツチを使っていた。
突然、龍斗は何かを思い出したか俺に振り向く。
「そういえば途中から忘れていたけど企画の内容としてはどうだったんだ?」
「あぁ…企画内容としては満点だったんだが、少しチャット欄荒れてしまったのがな。まあとにかく、龍斗が気にすることじゃないよ。」
龍斗はバツが悪そうに俯く。
「それでも少し悪いな。結局俺が楽しむだけで終わっちまった。」
その言葉を聞き、俺の顔には自然と笑みが浮かび上がる。
「テツソラは続けたいと思ったか?」
龍斗は一瞬ポカンとしたが、すぐに笑い返してくる。
「当たり前だろ。何かをするのにこんなに苦戦したのは初めてなんだ。ここでやめるのは損だろ!」
先程までの暗い感情を振り切った龍斗を見て、自分も不思議と安心する。
「だったら今日の企画は大成功だ!これからも楽しく遊ぼうぜ!」
そして、俺は龍斗の目の前に立ち、事前に考えていた案を提示する。
「話は少し逸れるけどテツソラを始めたばかりのお前にちょうどいいイベントがあるんだ。参加してみないか?」
今回の補足
初心者帯の昇格条件は、「三連勝」です。
つまり、レイドラは最初の対戦の後負け、またどこかで勝つもまた負け、ギリギリで三連勝したわけです。
さらにいうと、勝ち試合はすべてネプチューン相手です。フレイ相手には一度も勝っていません。
何故かって?カグツチとフレイの相性がほぼ0:10だからです。
カグツチの射撃武装ではフレイに圧を掛けれない上に、相手のマシンガン程度でもカグツチはボロボロにされます。なので、一生ノーリスクで撃たれるマシンガンとミサイルから逃げることしかできないわけです。ゲームバランス悪くない?(作者)
というわけで次回はこれまで触れられてこなかった「ラブコメ」部分になります。今回も読んでいただきありがとうございました!