基礎訓練、再び/Basic Training Returns
あけましておめでとうございます
今年の初投稿です
「龍斗、生放送は明日だ。だから今日は基礎訓練をしよう。」
「とりあえずどういう理屈でその結論に辿り着いたか教えてもらえるかな?」
金曜日の夕方。
一の唐突な提案を聞いた俺は、思わず説明を求めてしまう。
今日は使用する筐体が正常に作動しているか確認するために『ペガサス』に来た。
その用事自体は少し前に終わったが、そのまま帰ろうと思っていた時に一に止められた。
「昨日放送内容について話しているときに思ったんだけど、明日新武装を使ったエキシビジョンマッチをやらないといけないだろ?その時ちゃんと武装を使えなかったら大問題だから、今日の内にある程度武器の使い方のおさらいをしておいた方がいいと思ってな。」
一の言い分は至極全うだ。
だが、俺からしてみれば少し不満がある内容だ。
「おさらいって言っても、一応大体の武器の使い方は分かってるぞ?それに、慣れていない武器でもある程度使いこなせる自信はあるぞ。」
一は首を振る。
「分かってないなぁ。名目上はエキシビジョンマッチだが、実際求められているのは新武装のショーケースだ。新しい武装がどういう性能で、どんなことができて、どういう場面で活用できるか。それをプレイヤーは求めているんだ。その為に運営側もプレイヤーを読んでいるわけだから、ただ戦って勝とうとするだけじゃダメなんだ。むしろ、可能な限り試合を引き延ばして、武装性能をこれでもかとプレイヤーに見せるのが目的なんだ。」
「なるほど、武装の性能を引き出す、か…」
「そう。そして、お前はここ最近ほぼARWしか使っていない。ARWの練度はどんどん上がってるけど、ARWを使う能力は全く他の武装に応用が利かない。だから今日中にある程度武器の特徴とかを叩き込んで、明日のエキシビジョンマッチで何を見せればいいのかを学んでおいた方がいいと思ったわけだ。」
「そこまで言われたら納得がいったわ。じゃあこれからトレーニングモードでやるのか?」
「うん、そうしよう。使う機体の設計図はそっちに送っておく。説明はアシスト機能を使って後ろからするけど、それでいいかな?」
「了解。じゃあとっとと準備してインするか。」
お互い端末で前準備を行い、それぞれの筐体に入りダイブを開始する。
◇
「よし、まずは割とシンプルなところからだ。この機体はバトラックコマンドIII。初心者大会の一回戦の相手が使ってきた機体だな。武装はビームマシンガン、ミサイルポッド、バルカン、ナイフ、グレネードだ。中距離機体がよく使う武装だから、割とよく相手が使ってくる武装になると思うよ。」
「確かにこの武装構成はよく見るな。さすがに戦い慣れてきたから特に戦い辛いとは感じなくなったけど、特にグレネードとかは最初の頃から苦労させられた武装だからな…」
レイドラは適当に機体を動かし始める。
「それにしてもやっぱり普通の機体に乗ると少し不自由さを感じてしまうな。プールの中で走ろうとしてるのと同じような感覚がする。」
「そりゃお前は異常な機動力を誇る機体にしか乗ってきてないからな。でもその遅い機動力にも慣れた方がいいぞ。明日乗るのは運営側に用意された機体だから、ヘパイストスみたいにちゃんと調整されてないと思うぞ。」
その言葉に俺は少し驚きを感じる。
「運営なのにその辺のデータは雑なんだ。」
「っていうより、テスト機体にそれだけの労力を割く余裕がないだけだな。機体の調整はただコピーペーストするだけじゃだめだし、細かい修正をやり始めると結構時間が掛かるんだ。それに、ほぼ毎月新情報を出してる運営からするとそんなことしてる時間なんてないし、して得することなんてないから、操作感が雑な機体を使わせるわけだ。まあ、正直に言うと初心者帯で使える機体をもうちょっとマシな調整にはしてほしいけどね。」
「まあ確かに、初心者大会とかを開いてまで新規を増やそうとしているのに一番の問題でありそうな最初に選べる機体の操作性の悪さを改善していないのはおかしいよな…」
そう言いつつトレーニングモードの設定をいじり,トレーニング用ダミーを呼び出し、逃げ回る設定にする。
「とりあえず追いかけっことでも洒落込みますか!」
しばらくダミーバルーンを追いかけ回していると、少しずつこの装備構成の特徴が分かってくる。
「どの武装も受け寄りだな…」
この武装構成の多くは迎撃用武装なのである。
主兵装であるビームマシンガンと副兵装の一つであるミサイルポッドはある程度距離が離れていても機能するが、バルカン、ナイフ、グレネードはどれも近距離での自衛用である。
いくら武装が多いとはいえ、その半分が迎撃用武装となると攻めの選択肢が単調になる。
「その武装構成が現在のテツソラの環境をよく現してるな。今の環境は『受け環境』だ。全体的に迎撃用武装が豊富揃っていて、それをいくつか装備することによって攻め寄りの機体は一気に攻めづらくなる。迎撃メインの戦い方を得意とするのは中距離タイプの機体だから、そういう機体が多くなっているわけだ。一応言った通り攻めが弱いから逃げながら引き撃ちするスナイパー機や砲撃機といった遠距離期待でメタることもできるけど、そういう機体は残ってる数少ない近距離機体に破壊されるから変な悪循環が生まれちゃってるんだよね。」
説明をしている古兵の声は,少し不満そうなものだった。
思い返してみれば,古兵が全国大会で使っていた機体は、中距離機ではあったが機体操縦技術で相手の攻撃を退け圧倒的な精度の弾幕で相手を攻め倒すという、現在流行っている中距離戦とは全くの別物だった。
だが、別にどちらかが正しい中距離戦のセオリーという訳でもない。
純粋に、中級者でも勝率が安定させやすい受けの立ち回りが流行ったというだけだ。
現に、攻めの中距離戦を自分のものにしようとしていた剣崎さんがまだいる。
使い手は少なそうではあるが、別に攻めの立ち回りが完全に廃れることはないだろう。
俺は古兵に振り向く。
「よし、この武器達の特徴は大体理解した。次の機体に移ろうぜ!」
今回から少しだけ武装説明回が続きます。
古兵の戦闘描写は序章にしか今のところありませんが,あれは少し状況が特殊だったので本来の戦い方とは異なります。
一応この章の内には古兵のガチ対戦をお披露目するつもりなので気長にお待ちください。
次回もよろしくお願いします!




