二人の戦い/Double Trouble
「もうランクマッチやりたくねぇ。」
水曜日。
一と『ペガサス』に向かっている途中につい本音を出してしまう。
「もう飽きたのか?この程度で弱音吐いてたら空帝戦までモチベーション持たないぞ。」
「別にテツソラに飽きたわけじゃないんだよ。ただ戦ってる相手の動きがワンパターンすぎて、全然面白みがないんだよ。」
ここ二日間、俺はひたすらにランクマッチをやり続けていた。
初心者帯に比べ、中級者帯はかなりランクが上がり辛く設定されているらしい。一昨日と昨日で既に百戦以上対戦を行っている。
しかし、問題は対戦相手だ。
俺が現在使っている機体は俺の需要に合わせて作られた専用の高スペック機体だ。さらに、理論上最強の武装と元帥さんが言っていたARWも使用している。練習した甲斐もあり、それらをちゃんと運用できるだけの実力も持っている。
これらが合わさった結果、俺のやる試合は中級下位帯のプレイヤーを一分ほどで処理するものが大半を占めている。
もちろん最初の方はそれでも楽しくプレイできていたが、さすがに何戦も同じことをやっていると味気なくなってくる。色々工夫してより面白い試合を行おうとしたが、そもそも機体スペックが違いすぎる場合が多く、似たような試合結果ばかりだった。
面白みもない試合をひたすらやり続け、昨日やっと中級中位帯に到達したが、さすがに限界を感じ始めてしまった。
「ここのところずっと同じような展開の試合しかできてないんだよ。分かるか?どんな相手と戦っても同じ試合展開にしかならない辛さを。」
「まあ中級者帯のプレイヤーに『ARWを対策しろ』っていうのも酷なことだし、最低でも中級中位帯から抜け出すまではその展開が続くだろうな。」
「どこかないのか?もっと手応えのある人と対戦できる場所。」
一は歩きながら少し考え込む。だが、すぐに何か思いついたのか俺の方を見る。
「あるぞ。少し対戦形式は異なるけど、確実に対戦相手のレベルが高いところが。」
「マジで?聞いてみたけどあると思ってなかったわ。でも対戦形式が違うってどういうことだ?」
「今俺達がやってる一対一じゃなくて、二対二の形式の『タッグファイト』だ。個人能力に加えてチーム戦ならではの戦術とかが必要になるから、下位でもそれなりにうまい人が多いんだ。それに、少しレベルが足りていないと感じても、二対一であればやりがいのある戦いができるだろ?気分転換にはちょうどいいと思うぞ。」
一の提案はかなり魅力的だ。しかし、一つだけ問題がある。
「でも二対二をやるにしても誰とやればいいんだ?知らない人と組んで勝手に行動しまくったらそれはそれで迷惑だろ?」
一は俺を不思議そうに見る。
「別に俺と組めばいいだろ。俺が適当な支援特化機体を使って、龍斗が一人で相手を全員片付ければ目的は達成できるだろ?」
「いいのか?他にやらないといけない作業があるんじゃないのか?」
最近一がずっとロビーで何かの作業を行っているのは知っている。それがテツソラに直接関係あるものなのか動画投稿関連の事なのかは知らないが、かなり大事な作業ということはわかる。
しかし、一は笑顔で答える。
「今やってる作業に関しては家でもできるし、そんなに気にしなくていいよ。それに、せっかく一緒のゲームをやるようになったんだ。一緒に出来るモードをやらなきゃもったいないだろ?」
そこまで言われたら断る理由もない。
「よし、なら今日は遠慮なくタッグマッチで暴れてやる!試したい連携とかもあるし、久しぶりに本気出して対戦するぞ!」
「まあ一応普段とは別の対戦形式だから気を付けないといけない点はいくつかあるけどな。」
タッグマッチの詳細について話しながら、俺達は『ペガサス』への道のりを進んでいった。
◇
「ルールは大体こんなもんだ。分かった?」
「大体は理解した。それで、どうやってその『貢献度システム』を欺くんだ?」
すっかり慣れ親しんでしまった『ペガサス』のベンチに座り、俺達は出撃前の最終確認をしていた。
一対一の対戦と二対二の対戦には様々な違いがあるが、一番大きく違うのは「貢献度システム」の存在だ。
このシステムは、対戦中に機体が武装を使用した頻度やその威力を数値として計測するものである。対戦終了時、ペアの内貢献度ポイントが低かった方の値を基準にランクポイントが配られるようになっているらしい。
一曰く、このシステムはキャリーや寄生プレイを咎めるために作られたものらしい。確かに、以上に強い人が一人で暴れまわっただけでその相方も一緒にランクが上がるのは少しおかしいし、このシステムの必要性は理解できる。
しかし、今回俺達がやろうとしていることはこのシステムに確実に引っかかることだ。
俺だけが暴れまわった場合、一には貢献度ポイントは入らず、結果もらえるランクポイントは微々たるものになってしまう。もっと強い相手と戦うという俺の目的からは遠ざかってしまう。
なので、俺が一人で敵を相手と戦える状況を作りつつも、一が貢献度を稼げる状況を作らないといけない。
それをどうやって実現するのか気になって聞いてみると、一はニヤリと悪い笑みを浮かべる。
「貢献度ポイントに関係する要素は武装の使用頻度と威力。逆に言えば、どちらかがあれば問題ないんだ。」
それを聞き、一が考えていることが大体予想着く。
「要するに、威力が低くて滅茶苦茶撃てる武装か一発だけ超威力の弾を撃てばいいってことだな?」
「そう、そして今回やりたいことを考えれば、選ぶのは威力の方だ。開幕俺がドデカいのをぶちかまして、あとはお前が何とかする。最初の弾でやられるような奴だったら戦う必要ないし、ちゃんと対応出来る相手だったら最低限の能力は保証される。効率良いだろ?」
確かに一の言う通りだ。
そもそも最初の一発に対応できなければ、恐らくARWにも対応できない。その様な相手と戦っても、一人でランクマッチをやっていた時の二の舞になる。そして、最初の一発を避けられても、それだけで一の貢献度ポイントは溜まる。
俺は一に頷く。
「うん、いいと思う。その戦術で行こう。それで、タッグマッチをするにはどうすればいいんだ?」
「どちらかがタッグ申請をして、承認した状態で一緒にログインすれば準備完了だ。今回は俺から申請を送るから、そっちのユーザーページから承認してくれる?」
俺は携帯でテツソラのユーザーページを開く。
すると、通知音が鳴る。
ユーザーからタッグ申請が送られました!
PN: エンシェント
>承認
>拒否
俺は迷わず承認ボタンを押す。
すると再び通知音が鳴り、「プレイヤー『エンシェント』とタッグを組みました!」という表記が現れる。
「よし、承認したぞ。」
「分かった、じゃあさっそくログインするか!」
俺達はベンチから立ち上がり、ゲーム内で再び会うためにそれぞれ別のポッド型筐体に入っていった。
対戦ゲームが一番楽しいのはやっぱり実力が同じくらいの人と対戦しているとき。割とどの実力帯でもそうだと思います。
ちなみに、初めて一対一以外の対戦方式が出てきましたが、他にも五対五ともう一つイベント限定のルールがあります。そのルールに関しては後々出てくる予定なのでお楽しみに!
それではまた二日後の更新で会いましょう!




