招待状/Invitation
やっと第二章開幕です。お待たせしました。
初心者大会が終了し、再び日常に戻った月曜日の正午。
昼のチャイムが鳴り、時は既に昼休み。
教室が騒がしくなる中、龍斗が俺の机に歩いてくる。
「一、相談があるんだけど。」
「どうした?なんかあった?」
初心者大会の帰り道で空帝戦に出場すると宣言した後、俺達は一度も面と向かって話せていない。
もちろん気まずいからではなく、ただ俺が日曜日に予定があって会えていないからだ。
チャットアプリで軽く話して入るし、普段と全く変わらない。
むしろ、龍斗が改まって相談を持ち掛けてきたことに少し驚いているところだ。
それでも相談を持ち掛けられているのに答えない訳にはないので、すぐに返答する。
「俺でいいんだったら話を聞くよ。とは言っても、俺に相談を持ち掛けるってことはテツソラ関連だろ?」
「まあ、そうっちゃそうなんだけど…」
自慢とはとても言えないが、現在俺が龍斗より優れていると言えるのはテツソラくらいである。なら龍斗の質問がテツソラ関係であるのは必然ともいえるだろう。
ちらりと周りを見て、誰も聞き耳を立てていないか確認してから、龍斗は声の音量を落として続ける。
「一って動画投稿とかもしてるじゃん?だからその辺も加味して聞きたいんだけど…」
「なんだ?動画投稿でも始めたいんか?」
確かに初めて動画投稿を始めた頃は俺も恥ずかしかった。自分の声を聴くのは辛いし、極力身内にバレないように活動していた。
一週間もしない内に親にバレたが。
しかし、龍斗は首を振る。
「いや、テツソラの運営から今週末にあるアップデート情報生放送に招待されたんだけど、どうしたらいいのかなって…」
「…なんて?」
「だから、公式から生放送に招待されたからどうすればいいか聞いてるんだって。」
その瞬間、俺の心臓がフラッググレネードの様に爆散する。
ふらっとよろめき、顔面から机に突っ伏す。額が机に叩きつけられ派手にドンっと音を立てる。
大きな音にびっくりした教室に残っている人達の視線が俺の机に集まる。
「は、一?大丈夫か?結構強く頭打ったみたいだけど保健室連れて行こうか?」
意識が朦朧とする中、一つの考えが脳を過った。
長年積み上げたものが一瞬で超えられる時ってこういう感覚になるんだな。
◇
「びっくりさせんなよ、全く。机に頭を打って動かなくなったときは結構焦ったんだぞ?」
保健室。
教室で気を失いかけたところを龍斗によって運び込まれ、現在俺は氷でぶつけた場所を冷やしている。
「ああ、わりぃ。さすがにちょっと動揺しすぎてたわ。」
結局大したケガではなく冷やせば大丈夫とのことだったが、一応打った場所が頭だったということで最低でも昼休み中は安静にしとけと保健室の先生には言われている。
俺達は仕方なく保健室で話の続きをすることにした。
「で、生放送に招待された話なんだけど、こういうイベントに呼ばれるのは初めてだからさ。一は実績もあって動画投稿もしてるし、呼ばれたことがあるんじゃないかと思って相談したんだけど。」
龍斗の言葉が俺の心にグサグサと刺さるが、何とか耐える。
龍斗に正直に事実を伝える。
「実は俺も呼ばれたことないんだ。だから詳しい事情とかはあまり良く知らないんだよね。」
龍斗は一瞬目を見開き、そして何かを察したのか気まずそうな表情になる。
「もしかして教室での反応は…」
「まあ考えてる通りだと思うよ。」
俺は一度深呼吸をする。割とダメージを受ける出来事だったとはいえ、龍斗が俺に相談を持ち掛けたことには変わりない。
「まあでも、放送が始まってからの事はよく分からないけど、前準備とかは他の人がやってるのを見てきたから多少分かるし、俺に出来る範囲であれば手伝うよ。」
龍斗の表情がパッと明るくなる。
「ありがとう!助かる!」
その言葉を聞き、自分の中の嫌な気持ちが洗い流される。
そうだ、活動を続けていればいつか俺も生放送に出る機会が来るだろう。それまで気長に待つだけだ。
「で、準備って具体的に何をするんだ?」
龍斗の質問を聞き、俺は何から説明するか考える。
「そうだな、やるべきことはいくつかあるが、最初にやるべきなのは許可取りだな。」
「許可取り?なんか許可が必要なことを放送でするのか?」
「いや、どちらかというと放送に参加するために許可が必要になる感じだな。テツソラの筐体で普段とは別のメタバースに接続するから、一応筐体の責任者から許可をもらう必要があるってこと。」
「なるほど、そういうシステムになっていたのか。」
納得した様子の龍斗は頷く。
「となると、誰から許可をもらえばいいんだ?責任者って聞いても心当たりがないんだけど…」
「責任者は『ペガサス』の店長だね。一応連絡入れて今日顔合わせできないか聞いておくから、放課後は時間空けててもらえる?」
「もとから行くつもりだったし問題ないよ。」
放課後の予定が決まったところで壁に掛けられた時計を見る。
あと数分したら昼休みも終わりそうだ。
「もうそろそろ時間だし、教室に戻るか。悪いな、昼飯の時間潰しちゃって。」
「気にしなくていいよ、授業中に隠れて食べるから。」
「いや、それもどうかと思うぞ。」
他愛ない会話をしながら、俺と龍斗は教室へ戻るのだった。
◇
放課後。
俺と龍斗はチャイムと共に急いで荷物を片付け、小走りで校門を出る。
既に通いなれた道を歩き、異様な雰囲気を放つ階段を降りハブへ入場する。
時間帯も早く、まだあまり人はいない。
何台か筐体は稼働しているが、ベンチやモニター前などに人はいない。
普段とかなり違う雰囲気の『ペガサス』だが、龍斗に特段気にしている様子はない。
むしろ、何か違うものが気になっているようだ。
「そういえば、この店の店長ってどんな人なんだ?外観とか自販機から変わったもの好きなのは分かるんだけど、それ以外あんまり話を聞いたことないから…」
どうやら初対面である店長の人柄が気になっている龍斗に対し、満面の笑みで答える。
「そんなに緊張する様な相手じゃないよ。ちょっとかなり変人で何を考えているか分からない時が殆どだけど、根はいい人だから心配する必要はないよ。」
「不安が解消されるどころか増えたんだけど。」
龍斗が焦った表情で俺を見ると同時に、入り口にあるカウンターの奥にあるドアが開く。
龍斗はその音に反応しそちらを見るが、誰も出てくる気配がない。
すると、龍斗の背後からゆっくり手が伸び、肩をグッと掴む。
「やぁ、はじめまして、だねぇ?」
「ギョェエエエエエエエエエエエエエエエエエエ?!」
龍斗の情けない悲鳴がハブ全体に響き渡った。
祝!第二章開幕!
と言っても割と日常パート多めですが。
一章の途中にも出てきたとおり、一君は一度も公式放送に呼ばれたことがありません。元空帝とはいえ、間に二人新しい空帝がいるので呼ばれる機会が無いのが原因です。
ちなみに他の動画投稿者の元帥さんとイッポンチャンネルは呼ばれた経験があります。元帥さんは別の初心者大会で優勝したためで、イッポン達は別の大会で結果を残したからです。
これからまた二日に一度ペースで投稿しようとは思っていますが、できなかった場合はごめんなさい...
それでは、次回もお楽しみに!




