それぞれの決意/One’s Resolve
「はい、という訳でNJTの同時視聴配信に来てくれてありがとうございました!明日は動画を投稿するので楽しみにしていてください!ではまた~。」
大会の公式配信も終了し、元帥さんも自分の配信を締めくくる。それと同時に、VR筐体から出てきた龍斗がこちらへ歩いてくる。
嬉しそうな表情の裏に少し疲れが見える龍斗に歩み寄る。
「大会お疲れ。そして優勝おめでとう。」
「ありがとう。正直こんなに疲れるとは思ってなかった。」
「それは多分みんな同じ感想だよ。今回の初心者大会はどう考えてもレベルが高すぎだよ。」
実際、ライブタイムで公式配信と元帥さんの配信のコメントを見ていた俺は今回の大会を見ていた人達のリアクションを知っている。だが、あえてその内容は龍斗には伝えない。
両者の実力を褒め称え、これからの成長に期待する人が多かったのは事実だ。だが、中には何かしらの方法でサブアカウントを作り経験者が参加しているのではないかと疑う人もいた。
こういう考えをする人がいるのは無理もない。
開始して一ヶ月以内のプレイヤーしか参加できないはずの大会で、中級上位レベルの対戦が繰り広げられた。さらに、片方はこれまで使うのが現実的ではないとレッテルを張られていたARWを主力兵装として使用し、見事に優勝した。
まさに、テツソラの歴史を変える試合となったのだ。
ベンチに座った龍斗の前で考え込んでいると、配信を終わって片づけを済ませた元帥さんが缶を二つ持ち歩いてくる。
「よっ、二人ともおつかれさん。俺のおごりだ、これでも飲んで気分をさっぱりさせろ。」
俺達は元帥さんに渡された缶を受け取る。俺はラベルを確認すると、『つぶつぶ率300%アップ!超濃厚コーンポタージュ』と書かれている。横でボーっと渡された飲み物を飲んだ龍斗が想定外の味に不意を突かれ、むせる。
「これおいしいのは知ってるんですけど、さっぱりはしなくないですか?」
元帥さんは意地悪そうに笑う。
「俺が人に物をおごるのは悪戯の時だけって前から言ってるだろ。それより、これからハブの他の連中と飯にしようと思ってるんだけど、お前らはどうだ?」
携帯端末で時間を確認すると、既に日が暮れ始める時間帯だ。
俺は元帥さんに返事を返す。
「すみません、俺達はもうそろそろ家に帰らないといけないので俺達は遠慮視させてもらいます。またどこか昼に時間が空いてたら一緒に行きましょう。」
「おう、分かった。じゃあ気をつけて帰れよ!」
俺は龍斗がベンチから立ち上がるのを待ち、一緒に『ペガサス』を出る。
◇
『ペガサス』からの帰り道。
夕焼けが空を橙色に染め上げ、長い一日と短い一週間の終わりを知らせる。
「いやー、でも今日の大会楽しかったなぁ。」
多少疲れが抜けた様子の龍斗が背伸びをしながら今日の大会を振り返る。
「最初の方の試合は別に何も感じなかったんだけど、やっぱり決勝戦はすごかったなぁ。そういえば何でコロニーがちゃんと動くフィールドについて教えてくれなかったんだ?」
「まあ正直言うと忘れてた。初心者大会だからあのフィールドも採用されていたけど、普通の大会とかだと基本的に候補から外されるからな。それに、抽選される確率も低いからまさか決勝戦で出てくるとは思っていなかったよ。」
俺は龍斗に事実をそのまま伝える。
すると、龍斗は納得したかのように頷く。
「なーんだ、今後出てきた時の対策とか考えていたのに無駄だったか。」
そして少し前を歩いていた龍斗は足を止め、こっちへ振り向く。
先程までの緩い表情から打って変わり、真剣な表情で俺を見る。
「一、話したいことがあるんだけど。」
いつになく真剣な表情の龍斗。声色からも、かなり龍斗にとって大事な話だということが分かる。
「どうしたんだ?急に改まって。」
一息ついた後に、龍斗は話し始める。
「今回の大会に参加して思ったんだ。俺は一週間今までにないくらいに努力した。なのに、まだ本当に強い人たちの足元にも及ばない。まだまだ上がいるっていうこの状況が初めてなんだ。」
実際その通りだ。確かにこの一週間龍斗の実力は凄まじく成長した。だが、実際の実力としては中級上位、良くて上級下位といったところだろう。
龍斗は続ける。
「だからこそこのゲームで俺は頂点を目指したい。努力して手に入れた力でトップを取りたいんだ。」
「いいんじゃないか?とはいえこのゲームには明確な頂点は一応二つあるぞ?宇宙戦なら空帝、地上戦なら地王、どっちを―」
「俺はもう決めているよ。」
俺の言葉を遮り、龍斗は答える。
「俺は宇宙の頂点、空帝を目指す。そして一には俺のライバルになってほしいんだ。古兵として、いや―」
龍斗は首を振り、俺の目を真っ直ぐ見る。
「第二回空鉄の宇宙空帝戦を優勝した二代目空帝、エンシェントとして。」
え?
◇
俺がエンシェントという名前を出した瞬間、先程まで笑顔を浮かべていた一の顔が固まる。
気まずい数秒が過ぎる。
そして、顔が固まったまま、一は恐る恐るとしゃべりだす。
「どうしてそう思ったか聞いても?」
「昨日元帥さんにエンシェントって名前を出した時、少し気まずそうにしていたから名前を検索掛けたら一のチャンネルが出てきたからかな。」
「何でそういうときだけ勘がいいかな…」
頭を掻きながら一は苦笑する。
「で、空帝戦の事だけど、一緒に参加してくれる?一も空鉄の宇宙がすごく好きなのは分かるし、過去に一回空帝になるだけの実力がある。もう一回頂点を一緒に―」
「わりぃ、俺は参加するつもりは無いかな。」
「…え?」
一瞬理解が追いつかなくなる。
「な、なんで?一は俺より何倍も強いし、長い間テツソラをやってるじゃん。一が本気を出せばまた空帝になれるのに…」
目線を逸らし、一はバツが悪そうに答える。
「俺、さ。今はテツソラの動画投稿者としてうまくやっていけてるんだ。動画は安定した再生数あるし、登録者もだいぶ増えた。懐にある程度余裕ができる程度には収益も得ている。でもまた空帝を目指す場合、今まで通りの活動はできなくなる。練習に時間を割かないといけなくなるし、新しい機体も作る時間が必要になる。もちろん学業の方も中学の頃に比べると難しいからそこも頑張らないといけない。俺にはもう空帝を目指すために必要な余裕がないんだ。」
「でも…」
それだけ空帝までの道筋か見えているじゃないか。
空帝の座を再び手に入れたいと思っているじゃないか。
そんな考えが頭をよぎる。
それだけ考えているのに、なぜ―
「だから、悪いけど一緒に空帝戦に挑むことはできない。他を―」
「それでいいのかよ!!」
自分の中で怒りが湧き上がってくる。それが理不尽であることは重々理解している。しかし、もうこの気持ちは止められない。
そして、絶対に行ってはいけない言葉がついに出てしまう。
「お前はいいのかよ!!今まで通り、俺が空帝の座を奪っても!!!
◇
龍斗の言葉が俺に研がれたナイフのように刺さる。
言った本人も目を見開き、自分が口にした言葉にショックを受けている。
龍斗が言った事は事実だ。
小さい頃から、俺はいろいろなことに挑戦してきた。どれもやって楽しかったし、続けたいと思ったことは何度もあった。
でも、毎回龍斗という超えられない壁が立ちはだかった。いつも一緒にいた龍斗も同じ習い事をすることが多かった。そして、俺がいくら時間をかけてもできないようなことを僅か数日でできるようになる。
俺が目指すものを、辿り着く前に奪い去られる。
その度に俺は親友がうらやましいと同時に恨めしくてたまらなかった。
だから、空鉄の宇宙を始めた時龍斗を誘わなかった。
自分が一人で頑張れて、自分が一番になれる場所。
空鉄の宇宙は俺に取ってまさに理想郷だった。
でも、俺は龍斗をこの世界に呼び込んだ。
あいつを呼んだら自分の理想郷じゃなくなると分かっていても。
だって、この世界はあいつにとっても理想郷になり得る場所だから。
龍斗を誘った時、決めていたはずだ。
今度こそ、俺は本当の頂点に立つ。
都合のいい偽りの頂点ではなく。
自分が一番実力を認めた相手を超えて頂点に立つ。
俺は顔を上げ龍斗を見る。
龍斗は唇を血が出るほど噛みしめ、顔は後悔に染まっている。
俺は一度大きい溜息を吐く。
そして、龍斗に対し大きな声で宣言する。
「そこまで言われたら引き下がれねぇよなぁ?だったら俺も空帝戦に参加してやる。空帝の座は絶対お前に渡さない。」
驚いた表情で龍斗は顔を上げる。
俺の顔に自然と笑みが浮かぶ。
「ただ、やるからには本気でやる。だからお前も本気で強くなれ。俺達が決着をつける場所は空帝戦の決勝戦だ。いいな?」
俺は龍斗に向かって拳を突き出す。龍斗の表情は徐々に笑顔に変わる。
「当たり前だ!!」
龍斗は自分の拳を俺の拳とぶつけ合わせる。
こうして、俺と親友は共に最強への道の最初の一歩を踏み出した。
遂に!第一章が終わりました!
章管理は後でやりますが、一章がとりあえず完結しました。二章以降は一週間ほど間を開けてから投稿開始すると思うのでしばらくお待ちいただけると幸いです。
その間もちょっとした設定や間章もちょくちょく投稿するつもりです。
さて本編に関してですが、多分お察しの方もいたと思いますが一君がエンシェントです。これまた本名が由来のプレイヤー名ですね。
後、やっとタイトル通りの内容を掻き始めれるようになりました。一応ここまでの内容はレイドラこと龍斗君の「オリジンストーリー」ですからね。こんなに終わるまで時間かかるとは思っていませんでした。
読んでくださっている皆様、ありがとうございます!
二章からもご期待ください!




