特訓時々高鳴る鼓動/Training with a Chance of a Skipping Heartbeat
進捗日記 古川一
土曜日
これからの方向性が決まった後にチーさんにレイドラと対戦してもらった。
最初の試合は半分初見殺しで勝利をもぎ取ることができたが、後の試合は対応されて負けた。
だが、チーさん程の実力を持つ人相手に初見殺しとはいえ一本取れたのはかなりすごい。
他の試合もかなり接戦で、対戦内容もARWを採用する前より格段に良かった。
レイドラも頑張ってるし、俺も機体作成を頑張らないとな。
日曜日
さすがに学生の身で連日朝から一日中ゲームをするのは親に許されないから、今日の練習は午後からすることになった。
レイドラは昨日の対戦でARW二機の同時使用にはだいぶ慣れたらしい。今日はほぼトレーニングモードに入り浸って使えるARWの数を増やそうとしていた。
今日の練習終わりにはギリギリ四機使えるかどうからしい。この調子なら余裕で六機同時使用できるようになるんじゃないか?
ちなみに余談だが、「オールレンジウェポン」と呼ぶのはさすがに長いと感じたので、短縮して「オレン」と呼ぶことにした。正直名前としてはあまりかっこよくないが、呼び易さの方が大事だ。
機体作成は今のところ順調だ。レイドラが一人で練習している時間が長かったから、一人でいろいろ進めさせてもらった。
とりあえず機能の試合で分かったのは、レイドラが堅実な射撃戦が嫌いということだ。別に苦手というわけではないらしいが、性に合わないとのこと。なので、機体コンセプトは複数のARWを攻撃の起点とする高機動格闘機に決定した。他の射撃兵装は付けず、近接兵装は刀身が壊れることのないビーム型から選ぶことにした。
機体の大体なイメージをとりあえず明日までに書いてみるとしよう。
月曜日
今日は学校が終わってからすぐにハブで練習に移った。
特訓を頼める人が元帥さんしかいなかったので、レイドラとの対戦は元帥さんに頼んだ。
前回と同様最初の方は初見殺しで勝てたが、途中から元帥さんが変な武器を使い始めて逆に元帥さんが初見殺しをしまくっていた。まあ元帥さんの糞武器シリーズとの対戦はテツソラのオンライン対戦における登竜門ともいえるから早めに経験しておいて損はしないだろう…
心なしか変える時のレイドラの顔がいつもより疲れている気がした。
機体のデザインは大体決まってきた。スラスターを通常より多め、武器は持たせるタイプをつけようと思ったが、スラスターの調整がしやすいように内蔵型を取り付けることにした。だいぶ極端な機体になって気がするけど、カグツチを使っていたレイドラなら使いこなせるだろう。
てかどことなく作ってる機体がカグツチに似始めているのは気のせいか?
火曜日
今日も放課後練習の為に『ペガサス』に行った。
レイドラは昨日の対戦で四機運用のコツを掴めたと言っていた。
でも明らかに目が泳いでいたし多分虚勢を張ってるだけだと思う。
例のごとくトレーンニングモードに籠って練習していたが、今日の収穫はあまり多くないらしい。五機同時運用まで行くとさすがにすぐにはできないらしい。そもそもなんであいつは複数機同時運用なんて出来てるんだ?
俺の機体作成も正直難航し始めている。分かってはいたけど、高機動型のスラスターの調整は絶対に短期間でできるものじゃない。高機動型バトラックも調整に一ヶ月かかったらしいし、どう考えても一週間は無茶だ。でも新しい機体を作ると言い出した手前、無理なんて言えない。
とりあえず今日は一緒に宿題をやるのも兼ねて龍斗の家に泊まらせてもらうことにした。と言っても自分の家の隣なので、親の了承もすぐに得られた。
多分宿題はすぐに終わるだろうし、すぐに機体作成に取り掛かろう。
◇
「ふあぁ~ わりぃ、ちょっとトイレ行ってくるわ。」
夜、龍斗の部屋。
俺が機体作成に勤しんでいる横で、龍斗が盛大に欠伸をする。
宿題を早々に終わらせた俺達は、目的であった機体作成に移った。
相談しながら機体作成できたら効率がいいのではないかと思ったが、やはり相談よりも機体作成の時間が長くなる。
最初の内は龍斗も機体作成に興味を示していたが、自分が操作をさせてもらえないことを察するとすぐに飽きてしまった。結局龍斗は俺が紹介したロボットアニメを見ており、必要な時だけ相談に乗ってもらう形になっている。
トイレ休憩に行った龍斗を見送り、機体作成に意識を戻す。作業を進めていると、後ろでドアが開くのが聞こえる。龍斗がトイレから帰ってきたのかと思い、話しかける。
「結構早かったじゃん、ちょっとここについて相談し、――」
後ろに振り向くとそこに立っていたのは龍斗ではなく、麦茶の入ったコップを載せたトレーを持った静香さんだった。
「ごめんね、龍斗じゃなくて。麦茶持ってきたけど、飲む?」
俺の頭の中が真っ白になる。
マズい、何も会話パターンができていない。迂闊だった、龍斗の家にいるのだから、静香さんとゲリラエンカウントする可能性は簡単に予想できたはずだ。
相手からこちらに来るのはさすがに想定外だったが、全く考えていなかったのは痛恨のミスだ。
とにかく会話を成立させないと。
「し、静香さん、お会いできてうれしいです、はい!む、麦茶いたただきますぅ!」
慌ててコップを受け取り、一気に麦茶を飲み干しむせかける。
変人度でいえば百点満点、ダメだこりゃ。
俺が頭を抱えていると、静香さんはクスリと笑う。
「そんなに焦らなくても大丈夫なのに。ほら、お茶零れちゃってるよ、ちょっとこっち向いて。」
俺が反応できる前に、静香さんは俺の隣にしゃがみ込むとポケットからハンカチを取り出し俺の口元を拭く。老けたのを確認すると、優しい笑顔を浮かべハンカチをしまう。
割とマジで数秒意識が飛びました。
何とか意識を取り戻し必死に静香さんに誤っていると、静香さんは何かを思い出したかのように切り出した。
「そういえば、最近の龍斗すごく楽しそうだけど、もしかして一君のおかげ?」
「な、なぜそのように?」
「うーん、お姉ちゃんの勘だけど、土曜日に帰って来た時から龍斗の雰囲気が変わってて、あの日は一君と遊びに行った日だったからかな?」
「か、勘という割には大分理論的ですね…」
俺は一息ついて、話始めた。
「そうですね、今の龍斗には明確な目標があって、俺もその目標達成のために協力しています。元々俺の都合に巻き込んだ感じだったので、家でも楽しそうにしていると聞いてちょっと嬉しいです。」
俺の回答を聞き、静香さんはフフッと笑う。
「やっぱり一君のおかげだったんだ。どんなに二人が大きくなっても、その関係性は変わらないんだね。」
「そうですか?自分からするといつも龍斗の才能に驚かされているだけの気もしますけど。」
「ふふふ、意外と見えないところでは龍斗も一君に感謝してるのよ?」
静香さんは俺の空になったコップを回収し部屋の出口に向かうが、ドアの前でふと立ち止まる。
そして、振り返ると一言だけ言い残した。
「久しぶりに一君とちゃんと話せて楽しかったよ。」
そういうと、静香さんは部屋から出て行った。
その後機体作成に取り掛かろうとしたが、全く集中できず今日の機体作成は断念した。
◇
龍斗の部屋を出てキッチンに戻った静香は、嬉しい溜息をついた。
「よかった、別に一君は私が嫌いになったわけじゃなかったんだ…」
久しぶりに話した一から受けた印象は、「嫌っている」というよりは「緊張している」というものだった。しばらく話したら話し方から緊張感が抜けていたことからも同じ結論が導き出せる。
ふと静香はポケットの中にしまっていたハンカチを取り出す。そして、口を拭いてあげた時の一の呆然とした反応を思い出す。頬を真っ赤にし、完全に目が泳いでいるその姿は、あからさまに何かに動揺している様子だった。
「あの反応はどういうことだったのかな…」
肝心なところで弟と同じ鈍感さを発揮する荒谷 静香であった。
失神してもすぐ戻ってこれてえらい(判定激アマ
次回は週の後半です。視点は龍斗君のものとなっております!




