天才の証明/Proof of a Genius
ARW。
それはロボットアニメにおいてエースパイロット、もしくは主人公に試練を与える者にのみ使用が許された特殊な武装。(一によると厳密にいうとそういう訳ではないらしいが)
その正体は遠隔から操作ができる遠隔端末。ひとまとめARWと言ってもその種類は様々であり、相手に取り付いて様々な方向から射撃を行うものや機体の動作やセンサーを妨害するもの、直接突撃を掛け物理的な攻撃を行うものもある。
意外なことに、ARWの操作自体はかなり直感的でシンプルだ。
ARW操作端末を機体に取り付けることによりコックピットに新しく足される「ARW操作用ヘルメット」。それを装着することにより、ARWは自分が考えた通りに動くようになる。右に行けばと考えれば右に行き、撃てと考えれば撃つ。
複雑な操作を要求する空鉄の宇宙にしては珍しい誰でも使えそうな単純な操作。複数機を一度に操作することは難しくとも、一つであれば簡単に運用できるかと思われた。しかし、いざ実戦で使うと、ARWという武装の問題点がすぐに浮上した。
戦況とは、常に動き続けるものである。そして、それに伴いプレイヤーも機体を動かし続けなければいけない。それは自体は当たり前のことであり、どのプレイヤーもいずれはできるようになることである。
しかし、操作するものが増えた場合、話は変わる。もちろんというべきか、ARWには自動操縦の機能がない。相手に近づくにも相手の周りに取り付くにも操作を送り続けなければその場で止まってしまう。それは実質的に、プレイヤーが操作する機体が一機増えるのと同然なのである。
ARWの操作に気を取られすぎると、本体の操作が疎かになる。しかし、ARWを操作しないと装備している意味がない。
使いこなすことができればあらゆる局面で活躍できる万能武装であるが、実践的な利用を行うにはとてつもない空間把握能力と情報処理能力が必要になる。結局、ARWを使うリスクがリターンに合わないという結論が出され、日の目を浴びることなく今に至った。
元帥さんの説明は大体このようなものだった。
所々熱く語りすぎて何を言っているのかが分からなくなることがあったが、そこは急遽機体調整を行っていた一が補足してくれた。
そして、俺は今その調整が終わった機体に乗りトレーニングモードに出撃したところだ。
「てかまたこの機体か…」
俺が今乗っている機体は先程まで乗っていた「高機動型バトラック」にARW操作端末と2機のARWを半ば無理やり取り付けられた「高機動型バトラックARW訓練機」という機体である。
練習の為とはいえ、こののっぺりとした地味なデザインの機体に乗らないといけないのは少しテンションが下がる。テンションが直接やる気に繋がる俺に取っては、あまり使いたくない機体だ。
しかし、今はそんなこと言ってられない。一が俺の為に機体を作ってくれると言ってくれた。ならば、俺はその期待に応えられる程の実力を身に付けなければいけない。
俺は自分の頬を叩いて雑念を払う。そして、ARW操作用ヘルメットを被り、二機のARWを展開する。現在使っているARWはどちらも突撃型だが、練習しやすいようにと一がそれぞれ赤と黄色に色分けをしてくれた。
まず、赤色のARWから操作する。元帥さんが説明していた通り、かなり操作自体は楽だ。変に考える必要もなく、移動速度もかなり速い。見ていなくても命令さえ送れば操作ができるのはかなり評価が高い。
次に、機体と一緒に動かしてみる。最初こそ操作に手間取ったが、可能な動きを把握していたら視認できなくても大体どこにあるかが予想できる。しばらく練習したら、意外と他の操作をしながらも無意識にARWを動かすことができるようになっていた。
「意外とコツが分かればできるもんだな。せっかくだから二つ同時も試してみるか。」
意識を黄色のARWにも向ける。赤のARWを動かし続けることを意識しながら、黄色のARWをこちらに呼び寄せる。そして、二つのARWに目例を同時に出しながら、機体を動かしてみる。
「さ、さすがにこれは結構きついな…」
ただでさえ昨日覚えたばかりの機体操作に加え、二つの浮遊する物体の位置の把握と操作を同時に行わなければいけない。今にでも脳みそがパンクしそうな状況でも、必死に集中して操作を続ける。
周りのいらない情報をシャットアウトして、機体の操縦とARWの操作のみに意識を向ける。機体の振動も感じなくなり、目の前の操作にのみ集中する。
そうすると、少しずつだが操作に慣れてくる。さっきまでは厳しいと感じていた操作も、段々と出来るようになってくる。そして、集中力も切れてくる頃には、あまり意識を割かなくてもARWの操作ができるようになっていた。
「これは…いける!」
俺は一に報告するためにトレーニングモードを終了すると、フルダイブVR機器から出た。
◇
ベンチに座り適当に携帯端末を弄っていると、龍斗がVR筐体から出てくる。
「おっ、やっと終わったか。」
龍斗はチラッと周りを見渡す。
「あれ、元帥さんとイッポンさん達は?」
「元帥さんはちょっと飯食いに行ってる。イッポンさん達はここの常連たちと対戦してる。さすがに2時間もずっと待たせるわけにはいかないからな。」
「…そんなに長い間やってたのか。」
「集中してたんだろ、その辺は説明しておいたから気にすんな。」
昔から龍斗は集中すると目の前のことしか見えなくなり、時間感覚がなくなる。
予め4人にはそう説明し、早い段階で自由に行動してもらっていた。
「で、どうだ?ARWの操作感は掴めそうか?」
進行具合を聞いてみると、龍斗は満面の笑みを浮かべ右手でグッとサムズアップする。
「もちろん。もうだいぶ自由に動かせるようになった。」
「機体の操縦と同時にはどうだった?」
「それもちゃんとできるようになった。今なら多分目を瞑った状態でも両方動かしながら機体も操縦できると思う。」
「え?」
「え?」
今龍斗の口からとんでもない発言が聞こえた気がする。
「今、両方って言った?」
「そりゃ機体に二つ付いているんだからどっちも使えるようにするでしょ。」
なんてこった。
◇
「…デザインの為に二つ付けた?」
何故機体にARWを二つ付けたのかを説明すると、龍斗はポカンとした表情になる。
「そもそも今日中に一つ使えるようになれたら上出来だと思ってたからな。二つとも使おうとするなんて考えてもいなかったよ。」
やはり龍斗は天才だと感じさせられる。
そもそもARWの同時運用は、トレーニングモードでのテスト段階で却下された戦法だ。
その理由は、思考だけで動くという利点が複数運用の場合欠点に変わるからだ。
一つの端末を動かそうとすると、他の端末も一緒に連動して動いてしまう。一つ一つ別々に動かすために必要な思考の分割は、他の操作を行いながらでは不可能だろうと実践投入前から諦められていたのだ。
俺は溜息をつく。
「やっぱお前すげぇな、俺の想像の何倍もすごいことを平気にやってしまうんだもん。」
龍斗は首を振る。
「お前が別の機体に変えるって言ってくれなかったら多分今もダラダラとさっきまでの機体を使ってたと思うよ。一がちゃんと見ていたからこそうまくいったんだ。むしろ俺がお礼を言いたいくらいだよ。」
「お、おう。なんか急に褒められると照れるな…」
気まずい雰囲気になる前に、別の話題に切り替える。
「じゃあ複数機運用するとして、専用機には何機装備してほしいんだ?」
龍斗は顎に手を当て考え込む、数分間じっくりと考え、答えを出す。
「できれば六機かな。」
「ろ、六機も?!そんなに使いこなせるのか?」
俺はびっくりして変な声を出したが、龍斗は真剣な表情を崩さず頷く。
「正直一週間で使いこなせるかどうかは微妙なところだと思う。でも、目標は高く設定しておきたいからね。」
龍斗の返事は何としても成し遂げるという決意に満ち溢れていた。だが、それと同時に、声には隠し切れないほどの興奮が滲み出ていた。
「よし、分かった。じゃあ俺はこれからの一週間でお前の専用機を完成させる。」
「俺はお前の作った専用機に相応しい実力を身に着ける。」
「「やってやろうじゃねぇか!」」
そして、怒涛の一週間が始まった。
今回は少し龍斗君について
荒谷 龍斗が天才扱いされる理由は技能習得が異常に速いからです。大体のことは数時間かければ基本は習得でき、数日練習すれば一流と言えるほどの腕になります。
ARW操作に関しては、動かすことより見えない空間における位置把握や思考分割など今まで行ったことなかったことをゼロから習得したため、そもそもの習得に少し苦労した形です。
ちなみに今回ARW訓練機のバトラックが登場しましたが、「訓練機」という名称になったのは既に「試験機」という名称が取られていたからです。名前被りできないゲームのお約束ですね...
来週はラブコメ(笑)が含まれます。お楽しみに!




