古き記憶/An Old Memory
「あーっとぉ!エンシェント選手近接戦の間合いに追い詰められてしまったぁ!このまま押し切られてしまうかぁ?!」
地鳴りのような大歓声。それを焚きつけるかのように実況が会場に鳴り響き、歓声のボルテージがさらに一段階上がる。そして、会場にいるすべての人の目がステージ上に設置されている大画面に釘付けになっている。
画面に映るのは宇宙に浮かぶ二機のロボット。片や真っ白な装甲をした騎士のような造形のロボット。片や右手に巨大なライフルを持った黒に青いハイライトの入った隻眼のロボット。その二機が、お互いを破壊せんと激しい格闘戦を繰り広げている。
現在攻勢を仕掛けているのは白騎士。その両手に持つ細い棒からは光が収束して作られた刃が発現している。ロボットアニメを少しでも見た経験がある人であれば、この武器を見たら即座に「ビームサーベル」と答えるだろう。そして、その二本のサーベルを構えると、白騎士は距離を一気に詰めようとスラスターを吹かす。
「ブランク選手この隙を見逃さない!格闘戦はブランク選手のホワイトスタリオンの得意分野だぁ!クロノスカスタムの迎撃用武装は使い切ってしまった、どうするエンシェント選手?!」
隻眼の機体、もといクロノスカスタムは距離を離そうと全力で後ろにスラスターを吹かすが、ホワイトスタリオンとの間合いは離れるどころか徐々に近づいている。もう逃げられないと察したのか、クロノスカスタムは迫るホワイトスタリオンと向かい合う。
「エンシェント選手、迎撃を選んだぁ!しかし近接兵装を出す時間はもうない!これでブランク選手の王手となるか!」
ホワイトスタリオンのビームサーベルが振り下ろされる。咄嗟にクロノスカスタムは左腕の盾を前に掲げるが、ビームサーベルの前では意味をなさない。ビームサーベルは盾諸共クロノスカスタムの左肩を切り裂き、左腕を切断する。
「ホワイトスタリオンのビームサーベルがクロノスカスタムの左肩に直撃!クロノスカスタムに痛すぎるダメージ!遠距離攻撃も防げない無防備の状態に!これは決着がついたか?!」
だが、その瞬間クロノスカスタムは動く。後ろにスラスターを吹かしつつ、右腕で持った大型の銃を切断された自分の左腕に向かって撃つ。ホワイトスタリオンは咄嗟にガードを固めようとするが、ビームサーベルでは爆風波防げず後ろに吹き飛ばされる。
「おぉっとぉ!エンシェント選手、自分のパーツを爆発させることで距離を離すことに成功したぁ!しかし射撃攻撃を少しでも食らえば撃墜される状況、エンシェント選手どう対処するぅ?!」
爆発の衝撃から回復したホワイトスタリオンは、両手を体の前に構える。すると、両腕の装甲がずれ、ガトリング銃が現れる。爆風の影響で視界の悪い中、クロノスカスタムがいた場所に向かって腕部からビームを乱射する。しばらく打ち続けていると、爆発音が発生する。それを聞き、ホワイトスタリオンは息が抜けたかのように脱力する。だが、すぐに異変に気付く。
まだ試合終了のアナウンスが鳴っていない。
その事実にたどり着いて警戒態勢に入った時にはすでに手遅れだった。ホワイトスタリオンの頭上からビームが三射発射される。一発目は右肩、二発目は頭に直撃し、三発目が動力部のある胸部を貫く。動力部を破壊されたホワイトスタリオンは爆発し、先ほどなくした左腕に加え両足もなくなった片腕状態のクロノスカスタムだけが残る。
その数秒後、アナウンスが会場全体に鳴り響く。
Game Set
Winner:エンシェント
その瞬間、会場が歓声で爆発する。他の音などすべてかき消してしまうほどの音量の中で、実況席は必死に叫ぶ。
「第2回空鉄の宇宙空帝戦の頂点に輝いたのはクロノスカスタムを駆るエンシェント選手!!ピンチをチャンスに変え、見事帝王の座を手にしました!それでは、両選手のインタビューに参りましょう!」
そういうと、ステージ上に設置された二つの球体型の機械それぞれから人が踏み出すのであった。
◇
フルダイブVRゲーム。
それはゲーマーであれば一度は夢に見たことのあるゲームにおける「リアリティ」の最終到達点。
キャラクターを自分の手足と同様に操作し、五感すべてを使い世界を堪能する。誰もが同じく直感的に操作できゲームを楽しめる夢のようなゲームのジャンルである。
しかし、技術というものは10から100に飛ぶことはない。フルダイブVRが一般的な家庭に流通するまでには、段階を踏む必要がある。
その段階の一つであったのが、フルダイブゲーム筐体。フルダイブに必要な機材とフルダイブを行うための環境を一つにまとめた機械である。しかし、その大きさと価格故に一般的な家庭に普及することは不可能である。
そこで現れたのが「フルダイブハブ」と呼ばれる場所である。フルダイブハブ、通称「ハブ」はフルダイブゲーム筐体を複数設置しており、会員費を払うことでフルダイブゲーム筐体を利用できる仕組みになっている。そして、ハブはただフルダイブゲームを遊ぶだけの場所ではなく、同じゲームを遊ぶ者たちがゲームについて語り、そして親交を深める集いの場所としても機能しているのだ。
このフルダイブVRゲームの黎明期に異様な存在感を放ったとあるゲームが存在する。それは、圧倒的な技術と知名度に恵まれたにも関わらず、プレイヤー人数は他のフルダイブVRゲームに比べ半分以下という驚きの少なさを誇ったゲームである。
「空鉄の宇宙」、略してテツソラ。
地球が居住不可能になり、人類が宇宙に移住した未来。プレーヤーは、広大な宇宙を彷徨うジャンク屋として、他のジャンク屋との過酷な生存競争を生き抜くという設定の元レッドエンジェル社によって作られたゲーム。
そのゲーム内容は、自分好みにカスタマイズしたロボット「ZS」に乗り込み、他プレイヤーのZSとどちらかが撃墜されるまで争うというロボット対戦アクションゲームである。数世代先取りしたかのようなグラフィック、コックピットから操縦する臨場感、自由度の高いカスタムシステム、素人が見ても楽しめる派手さを兼ね備えたこのゲームは、リリースが発表された当初は「次に来る対戦ゲーム」として高い期待を持たれていた。しかし、いざリリースされるとプレイヤー達を待ち受けていたのは地獄であった。
その原因は、あまりにも高すぎる操作難易度である。「リアルなロボット操縦」というコンセプトを掲げて作られたこのゲームは、ロボットのあらゆる操作を手動で行うことが前提とされている。単純な行動を行うにも、いくつものボタン、スイッチ、レバー、ペダルを細かく操作しなければいけない。始めたばかりの初心者にそれらの操作をできるはずもなく、初日の全国のプレイ共有モニターには暴走して障害物にぶつかり爆散するZSが多く見られた。操作難易度を下げるための簡略モードも存在したが、その場合機体能力が大きく減少し、求められていた派手なアクションからは程遠いものであり、比較対象として「制限速度のあるカーレース」「寸止めしないといけないボクシング」などが挙げられたほどである。
失望して多くの人がテツソラをやめてく中、それでも理想を追い求めてプレイし続けた猛者たちがいた。細かい操作を体に叩き込み、次の段階へ踏み出すための努力をし続けた彼らは、サービス1年目の後半期に行われた全国大会「空帝戦」と「地王戦」でその成果を見せた。その洗練された動きを見た多くの人が感化され、荒廃した世界にその身を投じていくのであった。
そして「空鉄の宇宙」稼働5年目。年月をかけて洗練されつつも停滞していったジャンク屋たちに新たな波が押し寄せようとしていた。