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ついに王子様がいらっしゃいました

 怪しい。実に怪しい。

 わたしは最近、やっぱりここは乙女ゲームの世界なんじゃないかと疑っている。


「どうしたんだモモ。あんまり難しい顔してると、シワになるぞ」


「女性に対して失礼ですよ、ルイス。老けるなどと…」


「いや、老けるなんて言ってないよね?イーサンのほうが失礼じゃない?」


 入学して半年。わたしはなぜか、この高貴な三人組としょっちゅうお茶会をするようになってしまった。

 普通、いち平民が王子の側近を務めるような人たちと知り合うなど、あり得ないのだ。それがこんな、手作りお菓子を囲んでお茶会など…ない、絶対にない。

 それに、三人の見目が良すぎる。白銀のふわふわ髪に青い目の可愛い系、焦げ茶の短髪にムキムキの騎士系、緑の髪に赤い目の冷徹メガネ。キャラも立ちすぎている。

 これで王子でも登場しようものなら…


 バンッ。

 荒々しくドアを開けて、誰かが現れた。


「おい、お前ら。何をのんびり茶などしている。生徒会のほうの仕事はちゃんとやっているんだろうな」


 はい、来ました。ライアン・オグル・ストラーデ第一王子殿下、登場しちゃいました。

 わたしは慌てて立ち上がり、その場で最敬礼(カーテシー)をする。

 平民だって、王子の顔は見ればわかる。

 側近三人組は、幼馴染の気安さからか椅子に座ったままだ。


「あ、ライアンもおいでよ、このお菓子おいしいよ〜」


「おー、そうだな。一緒に食おうぜ」


「生徒会の仕事はきちんと終えてから来ていますよ。問題ありません」


 いやいやいや。いくら学園の中だといっても、よくそんな態度が取れますね。長く一緒にいると、この半端ない威圧を感じなくなるのだろうか。

 燃えるような赤い髪に、王族の証の金色の目。ムキムキのルイスほどではなくとも、しっかり鍛えられた身体。何よりオーラが違う。目線ひとつで人を傅かせるような空気は、まさに上に立つ者。


「お前がモモ・クーパーか。顔を上げろ」


 わたしは黙って、言われた通り顔を上げた。


「ライアン、怖いよ〜。女の子には優しくって、習ったでしょ?」


「お前たちが揃って籠絡されているからだろうが。まあ、平民にしては礼儀はわかっているようだがな」


 ジッと見つめられると、全てが見透かされる気がして背中がゾクリとした。


「クーパー家はなかなかの商家ですからね。下手な下位貴族より、礼儀も財もあると言えるでしょう」


 イーサンがメガネをくいっとしながら言う。ライアンはふんと鼻を鳴らした。


「クーパー嬢、学園の中では生徒は皆平等ということになっている。普通に同級生として話してもらって構わない」


「ありがとうございます。しかし恐れながら、こちらのサロン以外では周囲に与える影響が大きすぎます故、遠くからお姿を拝見させていただくだけに留めたいと存じます」


「…ほお。確かに面白い女だな」


 ライアンはニヤリと笑った。

 ひいいい。関わりたくないって言っただけなのに、「面白い女」認定されちゃったよ。そのセリフ、やっぱり乙女ゲームですよね?プレイしたことないやつだけど。

 ヒロインも悪役令嬢もいないと思ってたら、まさかのわたしがヒロインポジションですか??

 あああ、やっぱり側近三人との出会いは、イベントですよね。イベントっぽいと思ったんだよね。あれ、でも、今もイベント中なのかな、これ。


 殊勝な顔をしつつ頭の中はパニックになっていると、ルイスが言った。


「面白いよなー。やったら勉強できるし、外国語も喋れるし、貴族令嬢みたいな礼もできるのに菓子作りとかするし」


 うーん、さすが脳筋ルイス。面白いって、そういう意味じゃないと思うけどね。

 せっかくの王子に侍るチャンスを、わたしが自ら拒否したって話をしてるんだけど。

 ルイス以外は全員わかっているようで、誰も何も言わなかった。


「菓子とはこれか」


 つかつかと歩み寄ってきたライアンが先程までわたしの座っていた椅子に掛け、テーブルの上のお茶菓子に手を伸ばした。

 ああ、なんで今日に限ってこれにしちゃったんだろう。

 皿にのっているのは、みたらし団子だった。

 前世のお菓子再現に味をしめて、最近ハマっている和風シリーズ。串にこそ刺してはいないが、王子様と団子が似合わなすぎる。


「見たことないでしょ、こんなお菓子。モモちゃんは新しいお菓子を開発するのが趣味なんだって」


 話しながら、ノアがわたしのために別の椅子を持ってきてくれる。


「弾力があるので、喉に詰まらないように注意して食べるのだそうですよ」


「そんな危険を冒して食べる菓子なのか。解せないな」


 すみません。すみません。眉を寄せたライアンに、わたしは心の中で謝った。直接口に出すことは、恐れ多くてまだできない。

 すでに三人が食べていたものだからか、解せないと言いつつ迷いなく団子を口に入れる。


「ふん……まあまあだな。これ以外にも珍しい菓子があるのか?」


 言葉とは裏腹に、ライアンは嬉しそうに団子をむしゃむしゃ食べ始めた。王子様も甘いものが好きなんですね。さっきの威圧はどこ行った。


「あるよ〜、だからライアンもお茶会来たらいいんだよ。僕こないだのパンケーキサンドまた食べたい」


「あれはうまかったよな!俺も食いたいぞ!」


「どら焼きですね。いいですよ、また持ってきます。一緒に生クリームを入れてもおいしいんですよ」


「何だそれは。普通のパンケーキではないのか」


「甘く煮た豆を潰したものが挟まってましたね。確かに生クリームとも合いそうです」


 団子によって王者のオーラが消し飛んだライアンは、ゆかいなお茶会仲間たちの一員になったのだった。

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