プロローグ
短編の予定でしたが長くなったので分けました。
わたしはモモ。貴族制度のある王国の城下町に住む平民だけど、百々子という名前の日本人として暮らしていた、前世の記憶がある。
ちょっとばかりスマホに依存していて、ちょっとばかりブラックな企業に勤めていたOL。家と会社の往復だけで毎日が過ぎていき、通勤時間とたまの休日に乙女ゲームをしたり、小説を読んだりすることだけが楽しみだった。
いつ、どうやって死んだのかは覚えていない。どうせ、過労とかそんなところだろう。体が疲れているのはわかっていたけれど、睡眠のためにゲームをやめることはできなかった。だって、現実には絶対存在しない、かっこよくて優しくて声もイイ、様々なタイプのイケメンが自分だけを好きになってくれるのだ。疲れていても心が満たされた。
早くに親と死別して、兄弟も親しい友人も恋人もいなかったわたしは、記憶があっても心残りはない。
その点、今世は幸せだと思う。
ヨーロッパのどこかの国のような美しい街並み。なのに食事は元日本人にも馴染みのあるものが多く、とてもおいしい。
造園業を営む元庭師の父と、メイド紹介所を営む元メイドの母は優しく、兄弟はいないけど、使用人を雇えるほどのお金持ちだ。もちろんわたしが目の下に隈をつくってフラフラしながら働く必要もない。
両親はかなりのやり手のようで、どちらの仕事も貴族のお客さんがたくさんつき、ひっきりなしに依頼が来るのだという。それでもわたしをないがしろにすることなく、慈しんでくれる。前世一人ぼっちで働きづめだったわたしに、これ以上の幸せがあるだろうか。
さすがに乙女ゲームはないけど、この世界にも恋愛小説はある。裕福だから小さい頃から家庭教師もつけてもらって、読み書きどころか外国語もそこそこできるので、いろいろな本が読み放題!……というか、そのために覚えたんだけど。
そうしてのほほんと過ごしてきたわたしも十六歳になり、そろそろ将来を考えなければならなくなった。父も母もわたしに家業を継がせるつもりはないみたいで、そちら方面は何も教わっていないし、平民なのに充分すぎる教育はされているから、どこかいいところにお嫁に行かせるつもりなのかもしれない。
そんなことを思っていると、貴族が多く通う学園で学んでみないか、と両親に言われた。うん、やっぱり男爵家あたりの息子をつかまえてきて欲しいのかな。事業が順調とはいえ、貴族との繋がりを作っておくに越したことはないもんね。
何不自由なく育ててもらったのだから、それくらいは役に立ちたい。わたしは二つ返事で了承し、二年間学園に通うことになった。