第三話 C3
久しぶりに泣いた。なんか気分がすっきりしたし、よかったかな。
時計は
短い針が7
長い針が6
のところにある
ちなみに、この国と同経度の国々ではたくさんの人が夕食を食べ始めている。
そうじゃない人もたくさんいるけど。
今はどうでもいい。
約束の時間をややオーバーしてしまっていることさえどうでもいい。
あ、いや、どうでもよくはないか。
なんて言えばいいんだろ……兎に角僕はいろんな意味で一山越えたんだ。
今はこの気持ちだけで十分な気がした。
そして学校についた。
夜の学校
響きだけで不気味な感じがするけど、とりあえず約束を守る為に校門付近の柵を乗り越えて学校に入った。
あ、そういえば具体的な場所聞いてないじゃん……。
なんて落ち込もうとした瞬間、後ろから押し倒された。
「お帰りなさ―い、空。」
「た、ただいま…。」
頭で整理し直さなくてもわかる。
僕は今うつ伏せで倒れていて、上に美来が乗っかっていて、きっとプロレス技的なものをかけられている。
「どんだけ待ったと思ってるのかな――?」
「い、痛タタタ!!ごめん美来さん!!悪かったって!!!!」
「私は暗い学校でずっと一人ぼっちだったんだけどな――。」
「痛っ!!ギブギブギブギブ!!!!!!!!」
どんどん痛くなる足。
美来は力を緩めてくれない。
「あ――怖かったなぁ――寂しかったなぁ――。」
「あ""〜〜本当にごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!!!」
「あ、敬語禁止……」
もうだめだ、と思ったけど、何故かそのまま解放された。
「な〜んちゃって。
もう許す!!でも次はないと思ってね?
……ってあれ?泣いてる?」
倒れたままの僕の正面にしゃがみ込んだ美来。
「え?いや、泣いてないよ?」
「だって目真っ赤……。」
あ、そうか、泣いたら目が赤くなるもんだよな。
そんなことも忘れていたとは……。
「……やっぱり何か言われてたんだ?
……ごめん……。」
「い、いや、大丈夫何も言われてないよ?
あ、たぶん目が赤いのは顔洗ったときに石鹸が目に入ったからだよ!!
だいたい何で美来さんが謝るの?謝らなくていいって。」
「……はは。空、優しいんだね。」
『優しい』
この単語がやけにつっかかった。
僕の一番嫌いな言葉だしね。本当は大切なものなのに……。
「……ら?空?」
「あ、うん?何?」
「じゃあ早く行こ?もうだいぶ遅くなっちゃったし。」
『行く』ってどこに?
なんて疑問を抱えながら、僕は美来についていった。
しばらく歩いたところで、あることに気がついた。
「……さっきここ来たよね?」
「あれ?そうだっけ?」
さっき通ったグランドにまた来たからおかしいと思ったんだよなぁ……
「美来さん方向音痴なんだ。」
「ち、違うって!!」
「その紙地図でしょ?じゃあその通り進めばいいじゃん。」
「す、進んでるつもりなんだけど……。」
「それは方向音痴以外の何者でもないよね。」
「…………うん。」
ちょっとしずんだ美来。なんか可愛いな。
「それ貸して。」
美来が持っていた紙を見てみると、学校の略地図が描いてあって、ある場所に丸がついていた。
「……体育館裏かな?」
だいたいの目星はついた。
「行こ。あっちだよ。」
「……はい。」
うわぁテンション低っ!!
一分もかからないうちに体育館についた。
ってかさっき一回横通ったのに……。
「す、すごい空!!なんでわかるの?」
「だって僕の学校だし。」
「あ、そっか。」
なはは〜って笑う美来。
最初から地図見せてくれればよかったのに。
そして体育館裏に続く細い道を進んだ。
「ついたよ。」
「ちょっと待ってね。これ持ってて。」
今度はしゃがんで何かを探しだした。
ここらは野外電灯の光もないからこの懐中電灯がないと何も見えない。
「あ、あった!!」
土をかき分けたところから、取っ手らしきものが飛びだしていた。
「もぉ〜。わかりにくいなぁ。
外に居てくれたっていいじゃん。」
ブツブツ言いながら美来は取っ手を両手で掴んだ。
そして『ガタンッ!!』という大きな音とともに、地下通路が現れた。
まるでダンジョンの入り口みたいだな……。
「こっちだよ。」
美来は階段を降りていく。
「いつの間にこんなものが……。」
僕が知らないということは、きっと夜中に作られたものなんだな。
やけに長く暗い階段。
僕はこの先にあるものに対する不安を捨てることができなかった。
しばらく降りていくと、下の方に光があることがわかった。
ってか深すぎだろコレ!!
「わぁ〜〜久しぶり!!ナリム、トリム!!」
たどり着いた部屋には魔法使いのような衣服を全身にまとった、子供?らしき人が二人いた。
「「子供じゃないっつの」」
「はい""??」
綺麗にハモった声。てか声似すぎでしょ。
「だって双子ですもん。」
「いや、だから何で心の声が……。」
「フフ。空も気をつけてね。彼らはちょっと希少な部類でね、心の声が読めるのよ。」
「………。」
開いた口が塞がらなかった。
確かに、確かにこの世界には『こいつ人間なのか!?』ってくらい不思議なことができる人がいる。
子供だましじゃなく本当に口から火をだしたり、美来みたく尋常じゃない身体能力をもっていたり。
でも、これは全く知らなかった。
「知ってたら怖いっつの。」
「……。」
「ほら、そこ固まらない。
ちなみに今しゃべったのがトリムで、しゃべってない方がナリムね。」
「「空さん、よろしく。」」
「あ、いえ、よろしくです……。」
「それにしても美来さん、遅すぎるでしょ。」
「ごめん二人とも!!これには深いワケがありまして……。」
「……なるほど地図が読めなかったと。」
「こ、心の声読むな〜〜!!」
僕に気をつけろと言って起きながら、結局さっきの僕と似たような状況じゃないか。
ま、こればっかりはしょうがないけどね。
「じゃ、こちらから……。」
並んで立っていたナリムとトリムがどいた先に、何だかグニャグニャしてる壁があった。
「こ、これは?」
「あ、これはね、ちょっと空間を捻ってあるのよ。
彼らはこの手のプロフェッショナルなの。」
「……ごめん話がよくわかんない。」
「つまりこことある場所が繋がってるってこと!!」
あぁなるほど!!……ってそうなの!!??
「ハイ。美来さんの言う通りです。
ちゃんと本部と繋がってますよ。」
「二人ともご苦労様!!じゃ空、行こ?」
そう言って美来は僕の手を掴んだ。
「え?ちょっ、これどうするの?」
「ん〜、ちょっと強めに飛び込む!!
実際はね、この壁と本部とが綺麗にくっついてるわけじゃないから。」
「はい。ま、ほとんどないですけど、途中で止まっちゃったら少々面倒になりますんで、スバッといっちゃってください。」
丁寧にお辞儀をしながら説明するナリム。
僕はまだ話についていけてない。
「じゃね、二人とも!!
行くよ!!空!!」
「あわわ…。」
「とうっ!!」
半ば強引に美来引っ張られて、僕らはグニャグニャ壁に飛び込んだ。
「じゃ、トリム、道の安定化作業を続けよう。」
「え?コレ使い捨てじゃなかったっけ?」
「……たぶんそうはならない。
君はあの子の中を見なかったのか?」
「見たけど。」
「じゃあ何となくわかるだろう?
はい!!続き続き。」
「……わかったっつの。」
『ココハドコ?』
『ワタシハダレダ?』
一瞬こんな言葉たちに押しつぶされたような気がして、
目を開けてみると、心配そうに僕を見つめる美来の顔があった。
「空、大丈夫!?」
「あ、うん……。」
「ごめんね。これは慣れないと思考がよく発達してる人にはつらいんだよ。
一瞬の間にいろいろ言葉が出ちゃってね。
私は平気なんだけど……。」
「……はは。」
あぁ助かった。もうわけわかんなくなっちゃったよ。
とりあえずここが本部とかいうやつらしい。
「ここ、具体的にはどこなの?」
「ん?えっとね〜……、名前思い出せないけど、日本の領域の中にある何とかって島の地下だね。
ちなみに私もここの地上には出たことないの。」
なるほど。それにしてもこの人数……。
この地下かなり広いな。
だいぶ冷静になってきた。
そういえば美来達は僕がこの力をもっているから僕を連れてきたんだよね。
ということはこの力について何かわかってたりするのかな……?
いや、少なくとも僕を呼んだってことはそれ関係しかない。
だって僕の特別なトコってそれしかないし。
だんだん核心に近づくにつれて、心音がやたら耳をつんざいているのがわかった。
白い壁がこの空間を包み込んでいる。
学校の教室より天井が少し高いってくらいの部屋。
電気は蛍光灯の四角形バージョンみたいなやつだ。
「ここは立体迷路みたいな場所だからね。
さすがに迷うとまずいからここだけは必死に地図を覚えましたです。」
「……お疲れ様。」
「うん。あぁ〜〜遅くなっちゃったなあ。
もう寝たかな……。ったくなんでこんなに遅く……」
「あのさ、今は何してるの?」
「ん?総部隊長室ってとこに向かってる。」
「へぇ〜〜……ってうわぁ……。」
清々しいまでのスライド音を立てながら開く自動ドアの先に、さっきの部屋が100個、いや、200個は入る……ってそんなにないか?
あ〜もうわかんない!!
まぁそんな感じの大きなスペースのある部屋があった。
行き交う人々。うん。明らかに視線が痛い。
でもそんなこともお構いなしに僕らは進んでいく。
「あれが噂の?」
「じゃない?美来さんいるし。
美来さんの単独任務だったらしいよ。」
「なんで……」
ひそひそ話が聞こえてくるけどなんて言ってるかはよくわからない。
まぁ僕がここでは訪問者であり異質な存在なんだろうってことはわかる。
「今から会う人はね、」
急に美来が口を開いた。
「沙由里さんっていう人なんだけど、一応この組織では一番偉い人だから失礼のないようにね。」
「…怖い人?」
「いや、まぁ……そういうわけじゃないよ。
女の人だし。」
「へぇ〜。」
どんなことを聞かされるのだろうか。
それを聞いたとき僕はどうなるのだろうか。
浮かんでくるシャボン玉を割るように、疑問一つ一つを
『もうすぐわかるさ』
なんてなだめていると、いつの間にか例の部屋の前に僕らは立っていた。
「やっとついた〜。予定より一時間遅くなっちゃったよ。
なはは〜〜。」
「それって笑っていいの?」
「笑わないでどうしろって言うんだ?boy?」
いや、反省した方がいいと思います。
そして今までとは少し違ったデザインのドアが開いた。
「遅かったわね。美来。」
「ごめんなさ〜い沙由里さん!!」
そこには眼鏡をかけた女性が座っていた。
見るからに『仕事の出来る女』って感じがする沙由里さん。
でも一番偉いっていうにはちょっと若いような気がする。
「あなたが山神 空くんね?」
意外にもニコッと笑ってくれた。
「初めまして。C3総部隊長の坂東 沙由里と言います。
今日はごめんね?急にこんなところに連れてきちゃて。」
「いえ……。」
「さて、それじゃあ何から話そうか……」
沙由里さんはそう言って、少し回転する椅子を回した。
とうとうわかるのか?
こんな僕でも知らない、何か重要なことが……。
「じゃあまずこの組織について話しましょう。
この組織はね、そこにいる美来の祖父が40年前につくったものなの。」
「そうそう。」
美来はやたら嬉しそうにニヤニヤしてる。
「あなたなら知ってるわよね?この世界にはたくさんの不思議な力をもった人達がいる。」
「まぁ少しなら……。」
「この組織は基本的にそういう人達の集まりなの。あとは特別身体訓練という訓練をつんだ元は普通の人達だけ。
ただ一つみんなに共通しているのは……」
鋭い瞳が僕を捉えた。
「みんな世界の平和を目指すって志をもっていること。」
「平和…。」
「そう。ただしこの日本だけじゃない、世界の平和なの。
だからここにはたくさんの国々から来た人々がいる。」
…世界平和か。まさか裏でそんなことを目指している人がいるなんて思わなかった。
達成の基準云々はおいといて、少なからずいいことをしている人達がいたってことか。
……この世界ではたくさんのことが起こってきた。多分普通の人間には想像もつかないくらいの。
そして僕は僕が生まれてからの、そのほとんどを見てきた。もうわからなくなっちゃってるんだよね。
その人の行動の善悪が。
「それじゃ、ちょっと質問ね。」
「……あなたはどこまで知ってるの?」
何となく質問の意図はわかった。
「どういう意味ですか?」
「ごめん、ちょっと抽象的すぎたわね。
あなたはこの世界中で起こっていることについて……どこまで知ってる?」
やっぱりか。今わかった。
この人達は本当にかなり大きな規模で活動しているんだ。
そして外部では僕しか知らないと思っていたことを、この人達も知っている。
これはあくまで可能性だけど。
「最近、いや、今日のことでよくわかったんですが、僕はまだ知らないことがたくさんあります。
でも少なくとも、多くの国……この日本でも起きている、大きな出来事についてなら、把握してるつもりです。」
「……そう。じゃあ欧州の裏情勢も?アフリカとオーストラリアの未確認生命体問題も?」
「……はい。たぶんその原因となっているアメリカの生物実験も……すべて……知ってるつもりです。」
そこまで言うと、沙由里さんは大きく目を開いた。
あれ?これはあからさまに驚いてるよね?
「……ごめんなさい。最後のは知らなかったから驚いちゃって。」
「あ、でもこれはまだ僕の予想ですよ!?
わかってることを繋ぎ合わせただけなんで……。」
「いや、たぶん間違ってないわ。
それですべて辻褄があうもの。」
「辻褄?」
「まぁいずれあなたもわかるわ。
今は知らなくてよろしい!!」
またさっきみたいにニコッと笑った。
なんだろ、どことなくこの二人似てる気がするなぁ……。
「総長!!」
急にドアが開いて、一人の男が入ってきた。
「何?」
「欧州で活動中の小隊から応援要請がきました!!
支援活動中、バッズと思われる一味からの攻撃をうけたということです。
至急、二小隊を送りたいのですが、第一部隊で空いていたのが一つしかなくて……」
「緊急事態なんでしょう?それなら第三部隊を送りなさい!!
それくらい私に言う前に判断すべきでしょう!!」
「す、すみません!!
了解しました。第三部隊に要請を出します。」
そして彼は走って出ていった。
欧州……じゃああそこで隠れてる人達もC3の人なのか。
ってか前言撤回。
沙由里さん、怖ぇ〜〜……。
「ふぅ。えっと、あとはどうしよっか……。」
「あ、沙由里さん、おじいちゃんは?」
「フフ。将一郎さんなら就寝中よ。」
「あぁ〜〜やっぱりか。」
「しょうがないわよ。あの方には後日会ってもらいましょう。
じゃあ山神くん、今日はもう疲れたでしょ?
美来、彼を部屋に案内してあげて。」
「はいは〜い。」
「『はい』は一回!!」
「……はい。」
沙由里さんはかすかに微笑んでいる。『怖くはない』ってこういうことか。
そうして美来が沙由里さんから何かの番号を聞いて、僕らは総部隊長室を出ていった。
「美来さん、部屋って何?」
「空の部屋のことだよ。」
「僕の部屋!?」
「うん。今日は泊まっていけってことだろうね。たぶん。」
「は、はぁ。」
やっぱり泊まりなのか。
そこでふと、さっき言ってた欧州の状況が頭をよぎった。
動きが速すぎてほとんどよくわからなかったけど、どうやら隠れてた人達は助かったみたいだ。
「あ、美来さん、さっきの欧州がどうとかって言ってたの助かったみたい。」
「ほんと!?あぁ良かった。
さすが第三だね。仕事がはやいはやい。」
『第三』の意味はよくわからなかったけど、とにかくここには凄い人がたくさんいる。
それだけは確かなんだろう。
「11-G……ここか。」
いくつかの自動ドアを進んで、やっと僕の部屋とやらについた。
ってかここやっぱり広すぎ!!
「ゲストルームだから少し狭いけど、まぁ普通のホテルにあるくらいの必要品は揃ってるから。」
これまたスライド式の自動ドアの中にある部屋。
ここまでくると近代的な感じが否めない。
ベッドはフカフカそうだし、シャワーもテレビもある。
まるで本当のホテルみたいだ。
「美来さん……。」
「ん?何?」
「……結局僕は何でここに呼ばれたの?」
美来は何も言わずに、ベッドに座った。
「じゃあ私からも少し話しとこうか。
さっき言ってたよね?
この世界には不思議な力をもった人達がいるって。」
「うん。」
「私達はね、その不思議な力は昔世界中にいたと言われる神々に由来していると考えていて、
『Divine Skill』
それを略して
『スキル』
って呼んでるの。」
「スキル……。」
「そう。そして空のそれも……スキルのひとつよ。」
そうか。そういうことになるのか。
さっきの沙由里さんの話のときから少し予想できていたためか、それほど驚かなかった。
「スキルはね、大きくは
『マインド』と、『ストロム』
の二つに分類されるの。
『マインド』ってやつは、精神的な特殊能力を根底としていて、感覚で言えば人間の内側に関する能力。
『ストロム』は身体的な特殊能力を根底としていて、感覚で言えば人間の外側に関する能力のことなんだ。」
「じゃあ僕のこれはマインドになるのかな?」
「そう。そして空のその力は、『オルノ』って呼ばれてる。」
「『オルノ』か……」
「オルノはかなり貴重なんだよ。
同時期には一人しか存在しないから、裏のことをよく知ってる人達でさえ、伝説かなんかだって思ってるくらいだもん。
私も信じてなかったし。」
珍しいから嬉しいなんて気はしないが、なんか話を聞いてほっとした。
僕だけじゃないんだ。
僕だけじゃなかったんだ。
漠然とでも、僕と同じような状況にある人が他にもいるとわかったことが、僕は一番嬉しかった。
「あ、美来は?」
「何が?」
「その〜、スキルってやつ。」
「あぁ〜。私のは…………まだ秘密っ!!」
「えぇ〜〜。けち。」
「な!!うるさいなあ。別にいいじゃん。いずれわかるって。」
ちぇっ。教えてくれたっていいのに。
あ、もしかして他言無用的なノリ?
もしくは外部に知られたらまずいとかそういう感じなんだろう。
たぶんね。
「そして、私達、特に私と沙由里さんが空をここに連れてきた最大の理由は……」
突然の沈黙。いや、言葉に詰まったというのが正しいのか。
「理由は?」
「…………空のお父さん……龍一さんのことについて、空に本当のことを知ってもらうためなの……。」
「え?」
『龍一』
この名を聞いたのはいつぶりだろう。
僕の父さんの名前。ただし顔は知らない。正確には覚えてない。
父さんは、僕が三歳になる前に病気で亡くなった。
そう母さんから聞いていた。
それが?何か問題あるのか?いや、『本当のこと』?
つまりこれは嘘だってこと?
わからない……
わからない……!!
「空……。」
「な、何?」
「……やっぱりさ、先にご飯にしよ。
沙由里さんも呼んでさ。」
「え?別にいいけど……。」
「じゃあこの続きは後でね。」
なんだろうこのテレビ番組の気になるところでCMが入ったかのような感じは。
イライラなんてしないけど。むしろ怖いし。
僕はまだ知らなかった。
真実は決して消えることはなく、
当たり前のように、運命の歯車を回し始めるということを―――………