2.どうやら異世界に来たらしい
『お客様~、お客様~。起きて下さい。こんなところで寝ていると体調崩しますよ。』
何処からともなく若い女性の声が聞こえてくる。
俺には姉も妹もましてや恋人何ぞ居たことがない。
・・・何だか悲しくなってきた。
こうなったら不貞寝だ、不貞寝。
『ヒカゲ様~、いい加減に起きて下さい!こんなで寝ていると危険ですよ。』
頭に直接響く声が次第に大きくなりついには無視することが出来なくなってきた。
クッ!
俺の半年ぶりの安眠を妨害するな!
今日は久しぶりに土曜出勤じゃないからゆっくり眠っていたいのに・・・・
あ~、それにしてもさっきから体中がチクチクして寝苦しい。
俺の低反発マットレスが藁のベットに変わったみたいな・・・
んん?
そういえばベットで寝た記憶がないな。
ということは椅子に座ったまま寝てしまったから体が痛いのかもしれないな。
『ヒカゲ様~、このまま寝ていたら命に関わりますよぉ。起きてください。』
このまま叫び続けられたらいつまで経っても安眠できない。
土曜早朝の平穏を取り戻すために渋々ながら起きることにする。
「ふぁ~、眠いぃ~。」
欠伸を抑えきれず大きな口をあけ、重い瞼のせいで再び眠りにつかないように目を擦りながら身体を起す。
目を開けるとそこには一面に木々が広がっていた。
風が吹くと草独特の香りが鼻を抜ける。
ポカポカと小春日和の寝るのに丁度良い気温で気持ちが良い。
こんなに自然を感じるは小学校とき県北の山脈で行ったキャンプ以来だ。
「よし、もうひと眠りしよう。」
これはあれだ、きっと明晰夢ってヤツだな。
あのアンケートに答えた後に眠ってしまったんだ。
そしてあんなアンケートに答えたからきっとよく見る異世界転移モノのイメージが夢になってあらわれたんだ。
『夢じゃないので起きてくださいよ~。』
夢なのに俺を眠らせないとはなんてひどい夢だ。
相変わらず俺が寝ている場所は築50年以上のアパートのマイルームでなく森に生えている見たことがない植物の上だ。
一周するのに人が三人以上必要そうなくらい太い幹を持った大きな木の葉の隙間からさす日の光が少し眩しい。
大自然を満喫する前に現状を把握しようと声はすれども姿は見えない人に質問してみる。
「あ~、はいはい。起きてますよ。それでこれは夢ですか?幻覚ですか?それとも誘拐ですか?」
『いえ、夢でも幻覚でもましては誘拐でもありません。現実です。』
そっか~、現実かぁ~。
なぜか冷静なのでまずは現状を整理してみるか。
この人が嘘を言っている可能性があるけど身体を縛られてないうえに監禁もされてないことから誘拐の可能性は限りなく低いな。
そもそも俺を誘拐してもメリットがないな。
・・・もしかしてメリットは関係ない?
コワ、冷静に考えたらコワ!
誘拐はない、誘拐はない、誘拐はない。
よし、誘拐の線は無しで。
幻覚に関しては意識もはっきりしてるし俺自身の感覚を信じるのなら現実と思う。
幻覚を見るような経験は無いけど少なくともアルコールで酔っているような感覚はない。
夢だったときは夢で良かったと思えば良いだろ。
幻覚だった場合は・・・、ほぼ奇跡だけど通りがかりの誰かが俺を介抱してくれることに期待するしかない。
いやだって土曜の朝に俺を訪ねてくる人なんていないから・・・、目から体液が出てきそうだ。
それにここまでハッキリした幻覚だったら自力でどうにかするのは無理だろうし。
俺が今どういう状況でどうしたら良いのか考えるためにもっと詳しい情報をがほしい。
ただ情報元となるものが謎の声だけしかないけど・・・・
とりあえずいろいろ質問してみよう。
「それで何で俺はこんな森の中にいるの?そしてあなたは誰でどこにいる?」
『ここにいるのはヒカゲ様がファンタジー世界体験ツアーの被験者になってくださったからです。私のこのツアーのガイドで、どこにいるかと強いて言うならヒカゲ様の中にいます。』
ファンタジー世界体験ツアーと言うとさっき答えたアンケートが原因なのか?
そこは体験者ではないのか?
わざと被験者って言っているのか?
被験者って確か実験や試験を受ける人のことだよな。
つまり少なからず危険があるってことか。
そしてガイドってことは道案内や情報提供をしてくれるんだろう。
俺の中にいるって幻聴ではないよな?
そしたら俺が知っていることしか分からんぞ。
それでも現状頼れるのはこのガイドだけだ。
「ここのことが分かるのか?」
『ええ、この世界全てのことが分かるわけではありませんが事前に収集した範囲の情報でしたらお教えできます。』
「この世界ってどういうことだ?ここはどこなんだ?」
分かってはいるのだが一縷の望みを持ってガイドに質問する。
『ヒカゲ様の予想通りこの世界とは異世界、剣と魔法の世界ゼファニクスです。そしてここは大陸サースにある迷いの森です。』
やっぱ異世界なのね。
「それで俺は元の世界に帰れるのか?」
『はい、旅行プランが終了したら元の世界にお送りします。」
「でそのプランとは?」
『説明には多少のお時間を頂くので安全場所を確保してからが望ましいです。』
確かに剣と魔法の世界ってことは魔物もいるだろうから森の中で話し込むのは危険か。
安全場所を確保するために行動を開始しよう。
自分の戦闘能力は皆無だから安全な場所、街を目指そう。
「ここから一番近い街に案内してもらっても良いか。」
『分かりました。視界に街の方角を表示します。』
そういうと俺の視界にナビゲーションシステムみたいに矢印が現われた。
「さすがはファンタジー世界。もしかしたら現代科学を超えているか?」
『確かに魔法は科学を超えている部分は多々ありますがそもそも才能がなければ使えません。科学のように誰でも同じように使うことはできません。』
そうすると現代よりも能力による格差が大きいのだろうことが予想される。
それに魔物なんてものがいたら人間は個人で対応できないだろう。
すると自然と人間同士が纏まることで魔物に対処する。
そのためリーダーに権力が集中することになるから権力者の力が強い可能性が高いから注意が必要だな。
いつまでもこの世界のことを考察していてもいけないので視界に表示された矢印に沿って歩き出した。
『お待ちください。ステータスを確認して今ヒカゲ様にできることを把握しておくことを提案します。』
どうやら異世界転移ものでおなじみのステータスが有るらしい。