part.7
7.
「オルゴールの紙の裏?」
そう言ってオルゴールを見た妻の目が輝いた。ゼンマイを巻く取っ手に引っかけられた、ドーナツ型の紙に気が付いたのだろう。
「なるほど、巻く方向を示しているだけじゃなかったのね」
正解だ。紙を持ち上げて覗き込んだ妻の目には、裏になにやら手書きの文字が書かれているのが見えたことだろう。
「どうだい?」
「うーん、これ、鏡文字だ!」
僕も横から覗き込む。文字が書いてあるけど、左右が反転していて見づらい。
今度はオルゴールを机の上に置いて、紙だけをつまんで少し浮かせた。すると、鏡のように反射する表面には、正しい向きに戻った文字が映った。
『校外学習 座席表』
「5年の時にあった校外学習のことよね……。 座席表って、たぶん行き帰りのバスのことよね。ということはしおりを見ればいいのか」
あ。そうか。僕は、ここで起死回生の打開策を思いついた。うまくいけば、あの秘密は守られるかもしれない!
「こ、校外学習のしおりなんて、もう残ってないね~。残念だが、暗号もこれで終わりかな――」
「しおりなら、今日の昼に見かけたわよ」
「え」
けろっとした顔で、妻が小首を傾げる。僕の頬を、つつと汗が伝った。
腰を上げて奥の部屋へ向かった妻を見送りながら、僕はリビングに顔を出した時の妻の発言を思い出していた。そうだ。卒業アルバムとか、僕が実家から持ってきた思い出の数々は、妻が今日まとめて整理してくれたんだった。この木箱が見つかったのも、それがきっかけだったっけ。
校外学習のしおりも、その時に分類されて、どこかに保管されたのだ。
僕は自分の浅はかさを悟った。よしんば、後でこっそりしおりを処分してしまえば、妻にアレを見られる心配もないなんて考えが浮かんでいたのだ。そんな機会はとうに失われていたとも知らずに――探偵に退路を断たれる犯人の気持ちは、こんな感じなのだろうか。
妻が戻ってきた。その手にはしっかりとしおりが握られている。
「ふふ、なんだか冒険みたいで楽しいわね」
「はは……そうだね」
僕は、力なく笑いを浮かべることしかできなかった。
座席表のページは、しおりの中程にあった。行きと帰りで席が違っていたはずだが、2パターンとも見開き1ページに納まっている。
「ん、このしおり、ページが2重になってる」
2つ折りした紙を重ねてホッチキス止めした作りになっているので、ページの間には隙間がある。そこに、注意して探さなければ気付けないような、薄い紙切れが入っていた。
そこに書かれていたのは、数字の羅列。