part.6
6.
「『真実の灯りは消えぬ。』――これが多分ヒント、というか問題文かしら。3点リーダーで挟まれた部分が本文か。……改行に特に意味はないのかな」
ぶつぶつと呟きながら考え込んでいる。無意識に黒髪を撫でつけ始めた。ああ、いけない……。
「暗号を解くための、何か鍵があるはずなのよね」
妻は、まず箱を手に取った。両手で角度を変え、ひっくり返し、見落としのないように隅々まで観察する。手がかりを探そうというのだろう。だが、『未来の僕へ』とメッセージが彫ってあった蓋以外は、あまり飾り気のない、シンプルなものだ。特にヒントらしきものはない。
次は、箱から出てきた思い出の品々。制服の胸に付けていた名札、数々の戦いをともにした消しゴム。それから、オルゴールもだ。
だが一見して、何か「鍵」が隠されているとも思えない。名札の中を見てみたが、ヒントの紙が入っていたりはしなかった。消しゴムのカバーを外しても、オルゴールをひっくり返しても、特に手がかりは得られない。
「よくある、文字を置き換えるパターンだとしても、ある程度の法則はあるはず。だけどこの暗号にはカタカナだけじゃなくて、漢字や数字、記号まで混じっている……てんでばらばらよ」
妻は何の気なしといったふうに、文字を人差し指でなぞる。年齢を感じさせない細く白い指の先が、黒く汚れた。鉛筆で濃く書かれていたからだ。
と、その刹那。彼女の目がキランと光ったような気がした。
「ねえ。写真に撮ってもいい?」
ああ、そうか。僕は観念した。文字列を撮影した後、妻が何をしようとしているのか、分かってしまったからだ。
「あと、ちょっと待っていて。取ってくるものがあるから」
「いいよ。それを使っても」
妻が腰を浮かしかけるのを止めて、僕は箱の中から出していたそれを指さした。
「え、でも」
「構わない。昔の僕も、そのつもりで入れたんだろうから」
妻は口角を上げると、
「じゃあ、お言葉に甘えて」
消しゴムを手に取った。
暗号の最後の部分をゆっくりとこする。すると、どうしたことか。「表裏一体」の「裏」という字だけが残ったのだ。
「ビンゴ! 隠された文字だけが残るってわけね。これ、ある文字だけはボールペンで書いてあるのよ」
その通り。裏という字もその1つだった。これが暗号を解く鍵。真実の灯りは「消えない」というわけだ。
「加えて、カモフラージュのためにボールペンで書いた字もその上から鉛筆でなぞっていたのね。でも『裏』は画数が多いから少し違和感が残った。
他の字も、こうやって消していくと……」
そういってどんどん消しゴムをかける。写真を撮ったのは、念のため、元の形を残したかったからだろう。
だが、その必要もないようだ。奇怪な暗号はその様相をガラリと変化させ、「真実」を浮かび上がらせた。その字の一部は、見た目を変えて。
「材」→「オ」
「十」→「―」
「兄」→「ㇽ」
「メ」→「ノ」
真実の灯りは消えぬ。…… オ ル
ゴ ― ㇽ ノ
紙 ノ 裏 ……