part.4
4.
中に入っていたのは、やはり記憶通りの品々だった。昔使っていたペン、古びた消しゴム、僕が書いた手紙。などなど。
「オルゴール箱なんて作っていたのね」
「そうだよ。見ての通り、卒業制作でね」
先述の通り、彼女だけは一足先に母校を去っている。そんな彼女と僕の接点は、ほとんど無いと言って良かった。クラスが同じになったのも、確か1年間だけ。交わした会話の中身は全く覚えていない。
それがこうして、かたや探偵、かたや作家という立場で出会い、結ばれたというのだから――人生というのは、何が起こるか分からない。
さっと箱の中身を検めた頃、オルゴールが止まった。十年以上は封じたままになることを見越して、なるべくバネに負担をかけないように、一回転分しかゼンマイを巻いていなかったのだ。
「ふうん。綺麗なものね」
妻はオルゴールを優しい手つきで持ち上げた。表面は金メッキ加工で、綺麗に磨かれている。目が映り込むほどだ。本体から突き出した、ゼンマイを巻くT字の取っ手の根元にはドーナツ型の紙片が引っ掛けられていて、巻く方向を示してくれていた。
だがそんなことよりも、僕は内心気が気でない。妻がアレに興味を示すのも時間の問題だろう……。
「というわけで、一番面白そうなのは、これね」
再び鳴り出した柔らかい音色をBGMに、妻が手に取ったのは、手紙だった。ぎゃあ。小学6年生の僕が書いた手紙だ。未来に向けたメッセージ。
「……かまわないよ。読んでも」
いったい誰が、期待のまなざしを向ける最愛の妻を止められるというのか。まあ、頑なになっても怪しまれるだけだし。それにこの時の僕は、まだ一抹の期待を抱いていたのだ。箱を金具で封じたように、この手紙にも、一応の鍵はかけてあったはずだ。
乾燥した便箋を開くと、筆圧の薄い字で、几帳面な字が並んでいた。自分でも意外だったけど、この頃から筆跡はあまり変わっていない。
と、妻が朗々と文面を読み上げた。
「『The letter for me in the future』……なんで英語?」
笑いを堪えながら、妻が尋ねてくる。頬が熱くなった。ああ、もう。そういうのがカッコいいって思える、そういう時期だったんだよ!
例えば、板書の日付を英語風にしたり。例えばレオナルド=ダ=ヴィンチに憧れて、鏡文字で日記を書いたり。後者に関しては3日と続かなかったけど。
昔の自分の文章を目の前で読まれる……しかも妙に気取ったやつを。これに勝る辱めは、他にあるだろうか?