表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

part.4


 4.


 中に入っていたのは、やはり記憶通りの品々だった。昔使っていたペン、古びた消しゴム、僕が書いた手紙。などなど。


「オルゴール箱なんて作っていたのね」


「そうだよ。見ての通り、卒業制作でね」


 先述の通り、彼女だけは一足先に母校を去っている。そんな彼女と僕の接点は、ほとんど無いと言って良かった。クラスが同じになったのも、確か1年間だけ。交わした会話の中身は全く覚えていない。


 それがこうして、かたや探偵、かたや作家という立場で出会い、結ばれたというのだから――人生というのは、何が起こるか分からない。


 さっと箱の中身を検めた頃、オルゴールが止まった。十年以上は封じたままになることを見越して、なるべくバネに負担をかけないように、一回転分しかゼンマイを巻いていなかったのだ。


「ふうん。綺麗なものね」


 妻はオルゴールを優しい手つきで持ち上げた。表面は金メッキ加工で、綺麗に磨かれている。目が映り込むほどだ。本体から突き出した、ゼンマイを巻くT字の取っ手の根元にはドーナツ型の紙片が引っ掛けられていて、巻く方向を示してくれていた。


 だがそんなことよりも、僕は内心気が気でない。妻がアレ・・に興味を示すのも時間の問題だろう……。


「というわけで、一番面白そうなのは、これね」


 再び鳴り出した柔らかい音色をBGMに、妻が手に取ったのは、手紙だった。ぎゃあ。小学6年生の僕が書いた手紙だ。未来に向けたメッセージ。


「……かまわないよ。読んでも」


 いったい誰が、期待のまなざしを向ける最愛の妻を止められるというのか。まあ、頑なになっても怪しまれるだけだし。それにこの時の僕は、まだ一抹の期待を抱いていたのだ。箱を金具で封じたように、この手紙にも、一応の鍵はかけてあったはずだ。


 乾燥した便箋を開くと、筆圧の薄い字で、几帳面な字が並んでいた。自分でも意外だったけど、この頃から筆跡はあまり変わっていない。


 と、妻が朗々と文面を読み上げた。


「『The letter for me in the future』……なんで英語?」


 笑いを堪えながら、妻が尋ねてくる。頬が熱くなった。ああ、もう。そういうのがカッコいいって思える、そういう時期だったんだよ!


 例えば、板書の日付を英語風にしたり。例えばレオナルド=ダ=ヴィンチに憧れて、鏡文字で日記を書いたり。後者に関しては3日と続かなかったけど。


 昔の自分の文章を目の前で読まれる……しかも妙に気取ったやつを。これに勝る辱めは、他にあるだろうか?






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ