招集と命令《たのみ》
前回、現在に追いついたと言ったな。
あれは嘘だ!ブラフだ!
○| ̄|_
しかし、季節が過ぎゆくのは早いものですなぁ
(。 ・ω・)(。 -ω-)ぅんぅん
_○/|_
ちょっと長めだから!
ちょっとだけ長めだから!
ふと不自然に、身体に纏わる爽やかな風。
すっと鼻に通るミントの香りに、青く苦いヨモギの香り。その香りには、ほんのりと、しかし鋭く、覚えのある魔力が込められている。
それは、エルフの森の緊急招集。
なぜ、こんな時に。
逸る気持ちを押さえつけ互いに顔を見合わせると、それぞれの感情のまま、いつもの茶飲み場、会議室のさらに上。元老のいるその場所へと視線を向けた。
短気そうな吊り目のひとりは、口の中でひとつ舌を打つと、少しでも時間が惜しいというように、駆け足になるかという速さで、もと来た道を引き返していく。
その背を追って、他の面々も足早に招集場所である大樹の元へと歩を進める。
仲間を贄に。
その法を、発動させる刻限を知らせる光。
白み始めた山際が、その矢を放つ数瞬前に飛来してきた、得体のしれぬ何かの気配。
それは大地を揺らす轟音を連れ、エルフの森に降り立った。
同胞の報せが届くより先に、その場にいた誰もが感じ理解した。やってきたのは厄災とも云うべき強大な魔、そのものだと。
互いに顔を見ることもなく、ただ、一刻をも零さぬように震源地へと走り出した、その時だった。実に間の悪い、風魔法による緊急招集。
元老は、知っているのだろうか。
いや、恐らくだが知っている。知っているからこそなのだろう。自分たちも分かっているのだ。見てはいなくとも、分かってしまう。何が来たのか。
呼ばれた理由は分からない。
だが、何においても優先しなければならないのだと。身体に纏わる魔力から理解する。
刺すように鋭く身体に纏わる魔力の風。いつも飄々として、その考えの一端をも読み取れない、小さくされど強大な。そんな術者の切実なまでのひりつく焦りが、ひしひしと感じられるのだから。
バタンっ!!
「手短に説明しな!」
部屋に入るなり、掴みかからんばかりの気迫を以て師である元老へと詰め寄るのは、元から悪い目つきをさらに悪くした、老婆と呼ぶにはあまりに荒く若々しい女。
そのすぐ後ろから、彼女と同じく栗色のローブを纏った壮健な老人たちが、それぞれの怒りと焦りと知欲とを、元老へとぶつけるべく部屋の奥へと歩み駆け寄り取り囲む。
鋭い視線に晒された、山高帽に半分隠れた小さな身体は、然して少しも揺らぐこともなく。
「ロズ坊らでは抑えられんはずじゃ。恐れていた闇が訪れた。
敵は想像を遥かに超えた、化け物じゃ。」
静かに放たれた元老のその言葉は、とても淡々としていて。
その淡白さは、返って発言に深い現実味を帯びさせて、重くただ重く、部屋の中へと沈んでいった。
元老の言葉に何かを言う者はいない。
ただただ重たさだけが広がっていく。
「わしがやる。お主らには、わしの周りに結界を張ってもらう。
少しでも森の被害を抑えたい。」
ダンッ!
もったりとした静けさの中、張り詰めた感情を弾ける様に、元老の目の前、広く分厚い木製の机が、細く節だった手に叩かれ、小気味の良い重低音を響かせた。
細い腕から放たれたとは思えない衝撃音を待ち、聞こえてきたのは少しダミがかった低い女声。
「あたしらのサポートは要らないってか。随分と上からものを言うんだねぇ、モズのじじぃ。」
打ち出された手のすぐ真上。薄紅がかった白い髪の隙間からギロリと相手を睨み上げ、溜まりに溜まった感情が弾けぬように歯を噛み締めて、漏れ出すように、吐き出された静かな激情。
カツンッ
一刻の静寂の後、響いたのは上がった温度を下げるよう、優しく付かれた杖の音。
夜が明けたばかりに未だ暗さを残した部屋の中。張り詰めた空気を破りたるは、キラキラと光る薄青色の白髪を揺らす、鼻の通った一人の老婆。
「言い方は別として、私もナイラと同じく反対です。化け物相手にお一人で向かわれるなど。
全員で、行くべきですわ、お師匠様。」
抑揚の少ない、澄んだ声。水面に広がる波紋のように、空気を伝って部屋に心に静かに沁みる。
「ならん」
少しの間をおいて放たれたのは、やはり変わらぬ元老の言。
この状況で部屋内にいる全員が眉をひそめて瞳で問い返したのは、仕方のないことだろう。
「おかしいだろ?
あんたが自分で言ったんだ。相手は化け物だって。
あんた程の人が、だ!
俺たちは結界役だって?手ぇ出すなってこったろうが!
なんでだよ!なんで、、」
普段ならいちばん最初に無理だと喚く、小心の巨漢スマッシュ。彼は今回、ここまで一言も声を上げなかった。
強大な敵に、元老ならば何か考えがあるのだろうと。状況を打開する策があるのだろうと。そう、信じていたから。
そろって森を抜けた彼らに激昂した頑固な大じじたちを宥め、戻った彼らが森を率いるのを一人言葉巧みに捻じ伏せて、黙認させるような人だから。
誰かが犠牲になるしかない、そんな場面で彼らの諦めを嘲笑うかのように、突飛な発想で助けてくれるような人だから。
結界役も何か思惑があって、元老の助けになるのだと。そう、思っていたから。
けど、違った。
いつもなら、嬉々として己が策を彼ら自身に導き出させようとする。少しずつヒントを与え、まだ分からないのかと楽しそうに智慧をぶら下げ彼らを釣る。
悪知恵が働き、彼ら問題児を手玉に取って遊んでは、拘束し吊るしてでも授業をする。それは楽しそうに授業をするのだ。
そんな人だから。
「なんで、、」
一人は下を向き目を逸らし、一人は嘆く彼に悲しげな悔しげな視線を向けて。一人はひたすら元老を睨んだ。
そんな彼らに、元老は答えた。
「わし一人で挑むわけではない。
ヌシらの力を貸してもらう。
ヌシらの魔法、ホーリーレイを。」
本心半分言い訳半分の、答えを。
「上書きするのにも時間がいるだろう。
私が、稼いでくるさ。」
否やがない訳ではない。
元老が一人で行くことには変わらない。
それでも、少しでも頼ってもらえたのなら。少しでも力になるのなら。
元々、あの敵を倒す為の魔法だ。それを元老が使う。滅せる可能性は低くはない。
これが、今の最善。
それにもう、時間もない。
敵は既に身のうちにいる。すぐ足元に。
「その「俺も行く!
結界の類はあんま得意じゃねぇんだ。
体を張る方が性に合ってる。
「そ「魔力の練り込みはあとの二人に任せる。」
「はぁ。
その必要はない。」
二度も遮られた元老は、山高帽を抑えてため息をこぼした。
「スマッシュ、もっと周りをよく見なさい。
お前はいつまで経っても変わらんの。」
いつもの小言に少しの安堵感と気まずさを感じ、複雑な顔をするスマッシュと、呆れたような仕方ないような苦笑いを零し、力んでいた身体に浅かった呼吸を緩める面々。
「先生。必要がない、とは?」
そこで半分壁に溶け込んでいた残りの一人、ジェイドが、終わっていなかった会話の続きを投げかける。
「まあ、端からあの魔法はわしが貰うつもりじゃったからな。準備はできておる。」
元老は、悪そうな顔でニッと笑ってそう答えた。
その顔に、皆、敵わないというように一息つくと、おもむろにナイラが一言。
「あたしらの力を借りるんだ。
それで負けたら一生イジれる。」
4人は一度互いに目を合わせると、そろって悪い笑顔を浮かべる。
元老を囲い、元老によく似た笑顔で。
それは悪く、それは楽しそうに笑った。
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いや、本当にありがとうございます(T^T)




