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ミツキの力


少々長めです。


あらすじ

魔獣の群れが襲ってきました。


編集2020/8/19




 目の前に広がる光景に、言葉が出なかった。



 ミツキは恐るべき速さでここ東の森の北

 今や戦場と化してしまったその場所へと、たどり着いた。


 森からは数えきれないほどの魔獣が、波のように押し寄せて来ている。



 魔獣というのは、獣の体内に魔力が溜まることで生まれるらしい。

 魔力が体内に溜まるには、それなりの時間と体力が無くてはならない。その上、暴力性のある獣の方が魔力を溜め込みやすいのだという。


 そうしてある一定量を越えると、溜め込んだ魔力が身体へと作用し、心身ともに凶暴化した魔獣が生まれる。


 その変化に個体差はあれど、皆一様に黒い体毛に赤い瞳を持つ。


 それなりに体力のある成体で、暴力性のある獣。

 それらが凶暴化したものが「魔獣」。 


 つまり、魔獣というのは、それだけで十二分に脅威足りうるのだ。

 


 それらが今

 攻めてきている。


 それも、森を黒く染めるほどの数を以て。


 凶気だ。


 それらは黒い波となって森の木々を薙ぎ倒し、倒れた魔獣を踏み越えて、止まることなく攻めてくる。

 狂気。


 まさしく、恐怖の光景だった。



 しかし、立ち向かう獣人たちには、退却などどいう選択肢は無い。


 彼らの背中には、愛する家族たちがいる。

 どうして、逃げることなど出来ようか。



 もちろん、彼らも狩人だ。

 そう簡単にやられはしない。


 前に出る者たちが、魔獣を押し留め、後ろにいる者たちが確実に魔獣を仕留める。

 そうして、いとも簡単に魔獣をほふっていく。

 

 だが、如何せん数が多い。


 すでに、ほとんどの者が手負いの状態。

 重傷者も増える一方だ。


「「「うぉおおおお!!!」」」


 獣人たちが、負けじと吠える。

 ほんの少しだけ、魔獣を押し返した。



 しかし

 それでも、戦況は変わらない。


 倒しても倒しても、止まることのない魔獣の大群。




 戦況は明らかにこちらが不利だ。


  〇



 戦線まではまだ少し距離がある。


 ミツキは、少しでも早く加勢する為に、走りながら風魔法で遠くの魔獣を倒していく。



 ミツキは考えた。

 今、自分にできることは何か。


 確かに、このまま加勢すれば、多少皆の負担は軽くなるだろう。


 でも、戦況は変わらない。

 数の暴力に耐えきれず、いずれ魔獣の波に呑まれてしまう。


 後方支援が一人増えたところで、何も変わらない。

 今この瞬間にも、怪我人は増え続けている。


 このまま行けば、じり貧だ。



 頭では分かっていても、他にできることも無い。


 ミツキは、見える範囲の魔獣を片っ端から攻撃しながら考えた。



 風魔法だけでなく、火魔法、水魔法、土、光。

 打って、切って、燃やして。

 時には危ない味方の支援もしながら。


 (えぐ)り、穿(うが)ち、押し潰し、少しでも敵の数を減らす。


 思い付く限りの魔法で、ただがむしゃらに攻撃した。



 当たった魔獣の断末魔が聞こえる。

 もうかなりの数の魔獣を倒したはずだ。

 それでも後続の魔獣たちは怯むことなく、倒れた魔獣たちを踏み越えて、時にはそれらを(かて)にして、次から次へと魔獣の群れが押し寄せてくる。

 わずかな希望も、押し寄せる黒い波に呑まれていく。



「ミツキ!」


 気がつけばすぐ近くにレイがいた。

 いつの間にか前線まで来ていたようだ。

 レイはいつもより獣に近いように見える。毛深く、爪も牙も鋭い。


「レイ!」


「そんな顔しないで。ミツキのお陰でっ、と。皆だいぶ楽になってるんだ」


 レイは、踊るように剣を振るいながら話を続ける。


「でも、このままじゃ・・」


 ミツキが、苦虫を噛み潰したような顔で言う。


「ああ、いずれ呑まれる。

 だから、ミツキ。試して欲しいことがある」


 レイは攻撃の手を止めて下がり、真っ直ぐに私の方を見る。

 私も魔法を止めて、レイの方に向き直った。


「ミツキ。本気で魔法を打ったことは、ある?」


「ない」




 レイが、普段の穏やかな表情に似つかず、好戦的な笑みを浮かべて言った。


「なら、ぶっぱなせ」




「っ!、、でも、皆を巻き込んじゃうかも」


「巻き込まない魔法を使えばいい。

 火や風魔法は止めた方がいい」


 私はレイの顔を見る。


「僕は魔法にはあんまり詳しくない。どんな魔法が最適なのかは分からない。

 でも、ミツキ。

 君ならできる。


 そう信じる。」



「・・・へ?


 信じる?私を?

 もっと確実な方法があるはず。

 信じるなら町の皆を信じればいい。

 ライさんだっている。

 そうだよ。

 もしかしたら、このまま何とかなるかも「ミツキ!」


 言いかけたミツキの肩を、レイが獣化した手で掴む。



「君がいなければ戦況はもっと悪くなってた。

 危ういところを何度も助けてくれた。

 下がりかけてた皆の士気も、ミツキのおかげで維持できた。

 君が状況を変えたんだ。

 何もしなければ、ここで皆終わりだ。

 たとえ君が失敗したとしても、誰も君を責めたりしない。

 あいつらに一矢報いてやれるなら。

 自分が死んだとしても、後ろの皆が助かればそれでいい。

 皆、覚悟を決めてここにいるんだ。」


 肩を掴むレイの手が、痛いくらいに強く食い込んだ。

 レイは昂った感情を抑えるように、一拍おいて息を吐く。


「頼むよ、ミツキ。君しかいないんだ。」


 レイが、泣きそうな顔で微笑む。

 目には、涙が滲んでいた。

 よく見ると全身傷だらけだ。

 血と泥にまみれて、全身がどす黒く汚れている。


 周りを見渡すと、皆同じような状態の者ばかりだ。


 前線にいる者の中には、手や足を引きずっている者も多い。




 自分に、できるだろうか。

 この人たちを守ることが。


 家族を守るために、命懸けで戦っている皆を


 助けることが、できるだろうか。


 できるかなんて、分からない。そんなことはどうでもいい。

 自分に何ができるのかも、分からないんだ。



 ただ


 もし

 自分にできることがあるのなら____。



 ミツキは、俯いて震えた。


 ゆっくりと

 ミツキの周りを、魔力が渦を巻いて覆っていく。


 レイが肩においた手を離し、ミツキから離れる。



 自分にできることなら

 どんな事だって



 身体を覆う魔力の勢いが、激しくなる。



 見ず知らずの自分を受け入れてくれた

 そして今、家族を守るために命を懸けて戦っている



 全身を覆う魔力が、風となって内側へ向かって吹き荒れる。



 こんなにも優しい皆を、助けられるのなら



 ふっと、風がやむ。



 こんなにも優しい皆を、守れるのなら



 外に吹き出していた魔力は、体内へ

 のたうつように、身体中を激しく巡る。



 助けたい



 ぞわぞわと鳥肌が立ち

 髪の毛がゆらゆらと逆立つ。


 体内を渦巻く魔力に

 踏みしめた足が地面にめり込む。



 守りたい!!



 見開いた目は充血し

 こめかみに筋が浮かぶ。


 火や風の魔法は、実体がない分扱いが難しい。

 光の範囲攻撃はあまり効果がなかった。

 大地を歪めても、衝撃で皆を巻き込みかねない。


 全身が軋む音がする。


 なら、水!

 味方に向かないように前線から後方へと押し流す


 歯を食いしばり

 全身を巡る魔力を

 ありったけの魔力を


 前線少し後方へ向けて


 思いっきり、放つ!


「ぅぅうあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」



 戦線の後ろから強くしかし優しく吹いた温度のない風が、戦う者たちの身体をなでる。


 その風は、前線を越えたところで一斉に水へと姿を変えていく。


 しゅるるるるるっ

 バシャバシャバシャ!


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!



 ガルルルルゥ!

 キャイィーン!

 ガフッ

 グフッ



 ズズズズズ、、、



 魔獣の群れは、突然押し寄せた渦巻く力の本流に呑み込まれ

 成す術なく流されていく。




 森から押し寄せていた魔獣の黒い波は


 大量の水を伴って、元来た森へと押し戻されていった。





 後には


 濡れた泥だらけの地面と、森の残骸



 前線に数十匹の魔獣と


 それを駆逐する

 傷だらけの戦士たちだけが残っていた。






少しでも面白いと感じて頂けたら幸いです。

その際は是非、コメントや感想、ブックマーク等、よろしくお願いします。

皆様からの反応に、作者はとても喜んでおります。

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