ミツキの決意
あらすじ
ミツキ、現実逃避しました
「____ミツキ」
「ひゃいっ!」
「何か言うことは?」
「__ご、ごめんなさい・・」
「____はぁ」
「・・・」
この重苦しく、圧し潰されそうなほどの圧迫感。何一つ今の自分を肯定できるものがない、この状況。
なぜ私ミツキが、このような状況に陥ってしまっているのか。概ね、皆さまがされているであろうご想像の通りである。
そう____
朝のお散歩で汚してしまった白いシャツをどうにかしようと、あくせくしていた私が思いついたのは、考えうる最低最悪の手段だった。
いや、もしかしたらそんなに悪くはない手段だったのかもしれない。
それらを周りから隠し通し、すべてを自分一人で何とかしようとしさえ、しなければ。
まあ、その時の私は、最高の方法を思いついたものだと疑ってすらいなかったのだが。
遡ること約30分。
~~~~~~~~~~~~
「バレないうちに、魔法で洗濯してしまおう!」
焦っていた私は、最善に思えるその手段を思いついたことで、それまで慎重に行っていたはずの思考を止めてしまった。
「洗濯、か。たしか、泥汚れは乾かして落としてから、だったよね」
着ていたシャツを脱ぎ、風で浮かせながら軽く回してみる。
「温風の方がいっか」
少し離れたところに小さな火の玉を浮かべ、それを通して風を送り込むことで暖かくなった風がシャツを包み込む。
焚火に当たっているように、火の玉からじんわりと暖かさが伝わってくる。服を着ていない今、その暖かさがとても心地がいい。
暖かい風に回されているシャツから、次第にぽろぽろと土くれが落ちてくる。
少しするとそれも収まり、風でとれる泥はほぼ落とせたようだ。
「次は洗濯だね。まずはシャツを回せるくらいの水の玉を・・・」
ばしゃっ、しゅるるるる
見る見るうちに、目の前に抱きかかえるくらいの水の玉が出来上がり、空中で静止する。
「よし。汚れが落ちやすいように少しだけ温めて、と」
じゅっわあぁ
目の前にできた水の玉に小さな火の玉をぶつける。外に少しの水蒸気を残して水の中にたくさんの泡をつくってから静かになった。
「こんな感じか。ここにシャツを入れて、あとは洗濯機の要領で軽く回せばいいよね!よっし」
私はもはや、何のためらいもなくシャツを温水の玉に放り込み、水を回し始める。
「確か洗濯機って、最初は水を衣服に馴染ませるために回しては止まってたよなぁ。こうかな?」
水の玉を右に左にゆっくりと回す。
シャツから出ていた泡が次第に出なくなり、シャツに水が行き渡ったことを教えてくれる。
「そろそろいいかな」
そう呟いて、私は水の玉をぐるぐると回し始める。
ばしゃんっ、ばしゃっ、ばしゃばしゃ
だんだんと水が濁ってきたので、水を取り替えて同じように繰り返す。
しばらくすると、水が濁ることも無くなり、汚れていたシャツも白さを取り戻していた。といっても、ただの温水で洗ったので多少の汚れ残りはあるのだけど。
「やった、汚れもだいぶ目立たなくなった!やっぱり私って天才?」
「ふふ、あとは乾かすだけだね。最初と同じ感じで・・」
シャツを風で浮かせながら、離れたところに作った小さな火の玉を通した温風を当て、軽く回す。
「ミツキーー!」
はうっ!
びりっ!
ボウッ
!!?
ぉあっつ!!
目の前の光景に一瞬思考が止まる。
突然声をかけられたことで風魔法に力が入り、破けてしまったシャツ。あわてて掴むも、魔法の名残で煽られた破けたシャツの端が、浮かんだ火の玉に触れてしまう。温風で温められていたシャツは、握りしめた半分を残して一瞬で燃え落ちていた。皮肉にも半分に破けたことで、握った半分まではすぐに火が回ることは無かった。
咄嗟に水をかけて、残り火を消す。
「はっ!まずいっ。今はとりえず、見つからないことが一番だ。」
止まった思考を無理やり再開し、一目散に家まで逃げる。
この時の私は失念していた。自分の今の格好を。
私は走った。
そう、下着姿のままで。
悪いことをしたという自覚から、人目を憚るように裏から家まで逃げてきた私は、バレないようにはしごを使って、調理場からも見えないように気を付けながら部屋に戻る。
そこには、たまたま私の部屋を掃除してくれていたレナさんの姿があった。
~~~~~~~~~~~~
かくして現在の状況に至る。
正座する私は、上半身は下着に布一枚を羽織り、ただただ小さくなっていることしかできなかった。
過ぎた自分の行いの恥ずかしさと、痴女と言われて然るべきことをした恥ずかしさで。
それから30分ほど、レナさんからごみでも見るような冷たい視線と、嘘やしょうもない隠し事はしてはいけないこと、そして女性としての自覚について子供にされるような説教を受け続けた。
それは、もはや怒りすらも通り越した、呆れだった。
説教をするレナさんは、ひどく悲しげで痛みを堪えるような顔をしていた。
そして私にとってそれは、信頼というものを完全に失い、ただただそれを受け入れることしかできない、地獄のような、いや、地獄の時間だった。
階下から、痺れを切らして朝食に呼びに来たレイが来るまで、私は自分の愚かさを呪い続けた。
こんなことは、ごめんだ。
もう二度と、絶対に。
私は、この人のこんな顔をもう見たくない。誰にもさせたくない。
もう、させない。
私は心に誓った。
やっと取り戻した、自分の心に。
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