62話目
シエロ侯爵の娘アイリスは、父親であるシエロ侯爵の執務室に呼ばれていた。
「お父様、いかがされたのですか?」
普段は絶対に部屋には入れてくれないお父様に呼ばれて、
不安にさいなまれて執務室を訪れたため、開口一番に呼ばれた理由を尋ねる。
椅子に座っているお父様は、どこかやつれたような表情をしており
苦悩が滲みでいることがアリアリと伝わってきた。
・・・一体何が・・・
そんな不安にさいなまれながら、お父様からの言葉を待っていると、
「バリティッシュ男爵は・・・知っているな?」
意外な言葉が出てきて、一瞬頭の中で変換ができなかったが、
すぐにその言葉を理解して、
「当然でございます。
私の命を救っていただいた男爵様ですので。」
そう、あの時、偶然かどうかはわからないけれど、
男爵様が私を転ばしてくれたおかげで、
あの魔人の一撃を交わすことが出来て、
ここに生があることを理解している。
「・・・そう、そのバリティッシュ男爵だ。
我々は彼に相当な恩がある。」
「はい・・・。それで、バリティッシュ男爵様が何か?」
「彼が使う剣のことは知っているな?」
「もちろんでございます!
あのドラゴンすら一撃で葬った剣ですから!
バリティッシュ男爵様が持つソウルイーターは、
それこそ王都内の子供までも知っている代物です。」
「・・・そうだな・・・。
だが、しかし、それを平静時に見た時はアイリス、
お前は・・・どう見た?」
「そ、それは・・・。」
お父様の言葉に返事を窮してしまう。
自分の見立ては、王様や宮廷鍛冶師筆頭が出した結論とは異なるためである。
そのことをここで口に出していいモノなのだろうか・・・
そんな娘の考えを分かったように先に、
「私が見た時には、どこにでもある平凡な剣だったよ。」
お父様も・・・
その言葉で、私は促されるように正直に答える。
「・・・私の目にも平凡な剣でございました。」
その答えに納得したようにうなづくシエロ侯爵。
そして、
「だが、結果はどうだった?
グンテ将軍を一撃で葬って、更にはドラゴンも一撃で葬った。」
「・・・はい・・・。」
そう!
まさに驚きの代物であった!
自分の目には平凡な剣であるというのに、
それにそぐわない結果をもたらしているのである!!
「・・・あの剣を使う前にバリティッシュ男爵は、
詠唱を唱えていたのを覚えているか?」
「は、はい・・・。」
そう、バリティッシュ男爵様が詠唱を唱えた後で、
剣を振るうことで平凡と思っていた剣が・・・
いや、唱えた後も平凡に見えたのだけど・・・
どんなモノでも一撃で葬る剣に変わったのである。
「あれを・・・どう思う?」
「・・・どう・・・思うとは?」
「あの詠唱を唱えた後でも、私の目には平凡な剣のままであった。」
「・・・私もです。」
「ということはだ・・・我々ではあの剣の本質を見極めれないということだな。」
「・・・。」
お父様のおっしゃっていることは分かる。
あの剣の力を私は見えていなかった。
詠唱を唱えて、魔力がみなぎったのかもしれないけど、
そのみなぎった魔力が私の目には映らなかった。
「あの剣は・・・選ばれたモノしか使えない代物なんだろう。」
「そ、そういうことですか・・・。」
それなら納得する。
なるほど、だから、私達にはその力が見えないと・・・。
そして、その力が見えているのは、あのバリティッシュ男爵様のみなのだと。
そうでなければ、あのグンテ将軍にあんな平凡な剣で挑むわけがない。
更にはドラゴンなどはもっとない。
だけど、どちらにも憶することなく挑んだのが
バリティッシュ男爵様である。
「選ばれたモノしか見えない力を発する剣・・・。
はたしてあそこにいた大勢の中で、どれだけの人間が見えたと思う?」
「・・・分かりません。」
「私もだ・・・。だが、あの中にいなかったのではないかと思っている。」
「・・・。」
確かにその通りだと思っているのだけど、
お父様が何を言いたいのかが分からないでいる。
・・・もしかして・・・
あのソウルイーターを手に入れたいと思っているのだろうか?
そんな私の考えを察したのだろう。
「ソウルイーターを手に入れたいとは思っていないぞ。」
その言葉を聞いてほっと肩を下すのだけど、続けられた言葉で
私の中に緊張が走る。
「バリティッシュ男爵に、第二王女が近づこうとする動きがみられたらしい。」
「・・・え!?」
思わず品がない大声を出してしまう。
だけど、それもしかたがない。
だって、彼女は誰にでも体を開く女であり、
そして、その力で男を籠絡させるのである・・・
私の中でどんどん悪いピースが組み上がっていく・・・
ま、まさか!!
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




