247話目
「・・・ひどい言われようだな、ククク・・・。」
思わずその光景を見て笑ってしまう。
自分の笑い声はその騒ぎをおこしている相手達には届いていない。
だから、いまだに・・・
“自分について語られているのだ”
それを聞いてもどかしくももぞもぞとしてしまう。
イリス・・・
あの子のことはよく覚えている。
彼女は侯爵令嬢の娘である。
長女ではなくて、二女だったか三女だったかは定かではなくて、
自分を戦略道具として使われるのを嫌て、
家を出て役人をしている子である。
だからと言って、自分と出会うなどあるはずもないのだが、
彼女が手に職をつけたいと思いから、鍛冶職人になると言って
うちを訪問したことを覚えている。
なにより・・・
査問官・・・ではないが、役人としての口を紹介したのは自分であるのだから。
鍛冶職人はさすがに厳しいと言ったが、
それでも彼女の頭の良さはよくわかった。
それならばと紹介したのが役人だったのだが・・・
そうか・・・査問官になっていたのか・・・
あれから数年たっているとは言え、
それだけで査問官の皆をまとめる立場になっているのは
本当に優秀であることの証拠である。
特に女性であるのだから・・・
まあ、家を出たとはいえ、侯爵令嬢だからな
それは本人が望もうが望むまいか働いているのだろうが・・・
それでも立派に育ってと思ってしまっていたのだが、
「・・・あなたの恰幅も随分と育っていますけどね。」
その声のほうを見やるとそこにはサーターがいた。
俺はイリスのほうを見るのだが、
サーターがそこにいないことに全く気付かずに
いまだに熱く語っているイリスがいた。
「・・・あいつは・・・よく出世できたな・・・。」
思わずその光景に呆れてしまうのだが、
「それだけ一つのことに熱心なのでしょう。
だからこその出世かと思いますが。」
「違いねえな!!あはははは!」
その通りだ。
そんな才能がなければ出世などできるわけもないだろう。
納得だ!
「・・・そういやさっき何か言ったか?」
俺は笑った後なのでしまりがないのも自覚しているが、
俺を小ばかにしたような言い方をしてきたサーターをにらみながら言う。
普通に貴族の使用人・・・
さらには自分の命の恩人に対して、
この態度は・・・と思うのだが、
本人がそう望んでいるのなら、こっちも気楽だからと
こんな感じで話すようになったのだが・・・
「いえ・・・不倫相手にあんな子まで手を出しているとは・・・。」
「・・・さっきと俺に言った言葉と違わないか?」
「滅相もございませんよ。」
悪びれた様子もなく、しれッとした顔で俺にそう伝えてくるのだが・・・
そう思うのなら・・・
俺の背後にいる夜叉にもそれが嘘だと言ってもらえないのだろうか!!!
店の入り口からちょこりと顔を出している妻がいるのだが・・・
顔が・・・
般若になっているのだが・・・
え?うん?俺がそう思っているだけで
実はそんなことはないって?
・・・本気でそう思っているのか?
なら・・・
どうして俺の弟子たちは蜘蛛の子を散らすように
先ほどまでそこらへんで踊っていたというのに
般若・・・違った!妻が顔を出した瞬間からいなくなったというのだ!!
あいつらの危機察知能力はぴか一だぞ!
その能力が発動しているんだぞ!!
俺は殺されてしまうんじゃないか!?
俺が戦々恐々としている間も
サーターは喜々としてそのネタをいじってくる。
「俺は何もしていないし、愛人なんて一人もいないぞ。」
「皆さんそう言われるんですよね!
大丈夫です!
私こう見えて口は軽くないんですよ!」
「・・・その尻から出ている尻尾を隠してから言えよ・・・。」
その言葉に慌てたように後ろを振り返って、
自分の尻尾から出てもいない尻尾を確認するサーター。
「・・・揶揄だ揶揄!
だから、お前も自分が言っていることがただの揶揄だって言えよ。」
「え?だって・・・揶揄ではないですが?」
キョトンとした顔で俺の言葉を否定するサーター。
俺がなにを言っても響かないこいつ・・・
俺は恐る恐ると言った思い出店の入り口のほうへと
視線を向ける・・・このバカの冗談を真に受けては・・・
俺が振り向いたことでこちらに向かって手を振ってくれる妻。
ああ・・・大丈夫だ・・・
全く誤解は解けていない・・・
恐ろしいほどの冷たい笑顔をこちらに向けて、
俺が見ているのに気づいたあら、
すっと右手を握り締めて親指を立てるのだが、
そのまま親指を下に向けだす。
そして、その親指が立った手を自分の喉の前にまで
持ってきたかと思ったら、そのまま首を掻っ切るようなしぐさをして
親指を立てたまま下すのであった・・・
・・・殺される・・・・俺・・・きっと殺されるよ・・・
気づいた点は追加・修正していきます。
拙い文章で申し訳ないです。




