表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術と猫と少年と  作者: するめもち
4/13

情報屋と女の子

あくびをしながら、リビングに向かう。

御伽ちゃん……何もしてないといいけど……

リビングの扉を開けると、目の前に死体……もとい御伽ちゃんが転がっていた。

”我が屍を越えて行けぇぃ!!”という書置きを残したうえで。


「瑞希のヤロー……」


アイツ……すでに御伽ちゃんが落ちてるの知ったうえでオレのところ来てたのか……

次呼び出すときに文句言ってやろう。

とりあえず、いたずらの書置きは回収しておこう。


「……なんで一日に何度も同じこと言わないといけないのかねぇ……」


「おやおや。どうしたのかね?」


そこには、口調に似合わない金色の短髪の少年がいた。

服装もジーンズに黒っぽいTシャツを着ている。相変わらず、Tシャツの文字はなんて書いてあるのかわからない。

とりあえず、ウチの住人じゃないのに椅子に腰かけて優雅にコーヒーを飲んでやがる。

……なんかムカつく。


「”どうしたのかね?”じゃねよ……なんでお前がいるんだよ?」


「私がいたらいけないのかね?」


イラっ。


「……とりあえず、ムカつくからその口調やめろ」


「あり? んじゃ、いつもどーりに」


さっきの初老のおじさんみたいな口調から一転、軽いチャラ男みたいな口調に変わった。

まぁ、コイツの口調はこっちがデフォルトだが。


「もしかして、これはお前か?」


もしやと思い、一応手に持った紙をひらひらとさせ確認する。


「俺じゃないぜ。瑞希ちゃんがやったので間違いないぞ」

「ちなみに、家には瑞希ちゃんに入れてもらった」


瑞希め……余計なことしやがる……

とはいっても、コイツの場合瑞希がどうこうしなくても勝手に入ってきたんだろうが。


「もっとも、入れ知恵したのは俺だけどね♪」


一発殴ろう。よし、そうしよう。

今なら殴っても許される気がする。


「おい、響……ちょっと表でろ……」


「それはマジ勘弁!!」


すぐに椅子から飛び降り手を合わせながら土下座していた……

お前にはプライドがないのか……

さすがに土下座までしてるやつに一発入れるほどサディスティックではない。


「ったく……とりあえず、またいつものか?」


「うっす。 今日もヨロシク!!」


「調子のいい奴め……」


変わり身の早さに呆れつつオレはキッチンに向かう。


「今日のメニューは何ですかぃ?」


「朝から期待すんな。 普通にトーストとベーコンエッグ程度でいいだろ」


「いやいや~。 朝から料理しようとする過程が減っている昨今でちゃんと料理してる時点で期待していいと思うけどなぁ」


……そうなのか? その辺はよくわからないが。


「なぁ、響」


「ん? どうしたん?」


「昨日の晩飯はどうしたんだ?」


「昨日の晩? あぁ~ここがダメだった時なぁ……」

「隣のクラスの佐藤っているだろ? 昨日はあいつんち行ってきた」


「……そうか」


いつも思うが、なぜ飯をたかる……

飯を作りながら聞いてみたら、”うちの食卓はマジでヤバイ”らしい。


「それはそうと、話は変わるんだけど……」


そういうと響はカバンの中をごそごそとあさり始めた。


「え~っと……あった。これだこれだ」


そう言って封筒を取り出した。

飯を作り終え、皿に盛りつけながら響の封筒を遠目に確認する。

一見ただの茶封筒だよな……


「なんだそれ?」


「次の案件」


「……またか……」


響はいわゆる”情報屋”と言われている。昨日仕事を持ち込んだもの響だ。

依頼内容は、魔術の悪用者の捕獲や、魔術師の護衛が多いイメージだ。

……もっとも、他にもあるのかも知れないが、御伽ちゃんが関わる事案がたいてい武力行使がほとんどだ。

さすが”戦争を終わらせた英雄”様だこと。血なまぐさい依頼ばかり飛び込んでくる。


依頼主は主に魔術協会か軍隊、国家警察の三つからの依頼がほとんどだ。

時折、個人の魔術師からの依頼があるが、本当に稀なケースだ。

魔術師はたいてい自衛手段を持っている。自衛手段を持たない連中はどこかの組織に属しているのでそこからの依頼となることの方が多い。

だからこそ、魔術師個人からの依頼というのは珍しい。

自衛手段を持っているのに、依頼を出す場合は相手はたいてい()()()連中ということだ。

……もっともその場合、依頼を出す前に始末されていたりするので、結局のところ依頼として上がることはほとんどない。


そして、今回は珍しく魔術師個人からの依頼だった。

依頼内容は”自分の周りを嗅ぎまわっている人物の素性調査、可能ならばその排除”だった。

ちなみに結果は失敗だった。依頼主の死亡という最悪な形で。


「昨日の今日でなんでオレたちに依頼が飛んでくるんだ?」


「そりゃ……昨日の依頼はあくまでも御伽怜奈宛ての依頼だったからなぁ……今日はお前宛だよ」


……そう。昨日の依頼は御伽ちゃん宛の依頼だったわけだ。

本人は嫌がっていきそうになかった。いざ無理やり連れて行こうとしたら拳銃やサブマシンガン、グレネードなど戦争でもしに行くような装備をし始めたため、慌ててオレがほぼほぼやることとなった。


「とはいえ、昨日のおいしいところは怜奈()()が持ってったんだろ?」


「そうなんだよなぁ……」


御伽ちゃんは、オレや響に魔術について手ほどきをした張本人だったりする。

そうでなくても、とある学校の数学教師をやっていたりするのだが。

どういう原理か御伽ちゃんは家では見てのとおり、スイッチが入ってないときはニートの方がましと思うくらいぐうたらを決め込んでいるのだが、やる気の入った御伽ちゃんは凄まじいの一言で表せるくらいに別人へとなり替わる。

正直多重人格を疑うレベルなのだが、本人は気にしてないようだ。

ちなみに昨日の仕事中、同僚が近くを通ったらしく”見られるわけには”といって急にスイッチを入れてたりする。

……仕事なんだから最初からスイッチ入れといてくれよ……


「ま、結果は依頼者死亡で失敗って扱いで報酬はゼロだが、収穫がなかったわけじゃない」


「……昨日の奴か?」


昨日の仕事中、魔術をぶっ放してきた奴を一人拘束している。

拘束したのは御伽ちゃんだ。

その拘束した奴は、一応響に引き渡している。

響のことだから何かしらの情報を握ってくるとは思っていたが、案の定だったようだ。

 

「とりあえず、怜奈先生起こした方がいいんじゃね?」


そういって床に転がっている御伽ちゃんをつついている。


「そう思うんだったら、お前が起こせよ……」


「あいよ」


軽く返事をする響。

響は御伽ちゃんの目の前で手を合わせ黙想している。


「……たかが起こすだけに魔術使うなよ……」


「いいの、いいの」

「俺の魔術は、お前のと違って燃費いいから」


響の魔術は、”伝達術”いわゆるテレパスというやつだ。

自分の思考や感覚を指定した相手と伝達・共有するというものだ。

オレの”精霊術”と違ってやれることはそれくらいだが、その分消費魔力はオレのと違い段違いでいいらしい。

魔術師の通る道”限界まで魔術を行使し続け倒れる”という道を響は通ってないらしい。

しかし、問題はそこではない。


「……………………………………………おい」


ふと声が湧く。

そこには、すごくすごく不機嫌そうな顔の御伽ちゃんがいた。


「だから言ったのに……」


「おはよ、怜奈先生。 よく眠れた?」


むくりと起き上がる御伽ちゃん。

今、体がおかしな動きしてなかったか?


「やっぱりおまえかぁ………葉山ぁ」


「……………」

「……………………ほらな」


響の魔術、アレって寝てる時にやられるとすごい気持ち悪いんだよなぁ……

オレも以前寝てる時に受けたことがあるが、本当に気持ち悪かった。

体が動かせないのに、体がいろんな方向から引っ張られたり放り投げられたりと。

洗濯機に回されている人形の気持ちといえばわかるだろうか。まさにあんな感じだ。


「葉山ぁ……お前ぇ……表出ろぉ……」


案の定、御伽ちゃんはキレていた。すでに片手には拳銃が握られている。

どこから拳銃持ち出したんだよ……


響は青ざめた顔でプルプルさせている。

そんな顔でこっち見んな。自業自得だ。


「……なぁ……まさかと思って聞いてみるけど……」

「まさか、今実弾入ってないよな?」


さらに青ざめる響。そして反応しない御伽ちゃん。

御伽ちゃんが持っている拳銃。昨日仕事中にも使っていたような気がするのは気のせいだと信じたい。


「……すまん。加藤……後任せた!!」


といって、背後の窓から飛び降りる。

……響の奴……この惨状放置して逃げやがった……


「葉山ぁ……!!」


御伽ちゃん……響は逃げたよ……

お願いだから、その座った眼をどうにかしてください。

関係ないオレも怖い。というより、オレも逃げたい。

瑞希帰って時間たってないけど呼び出すか?

とか思っていると、御伽ちゃんはスッと姿を消した。


「………あぁ………響よ…………強く生きろよ」


御伽ちゃんまで魔術を使って響を追いかけていった。

なぜ、オレの周りにはむやみやたらに魔術を使う連中ばかりなんだろうか。

せめて、人に見られるなよ。

諦めて朝食をテーブルに運んでおく。

いつもの流れなら、ボコボコにされた響が連れて帰られるはずだ。

響が本気で隠れたら御伽ちゃんを撒くなんて簡単だろうに……

メシのためにわざわざ捕まってくるのだから、どこか残念な奴である。


ピーンポーン


インターホンが鳴る。

こんな朝っぱらから誰だろうか。家主は朝から鬼ごっこ中。現在家にはオレしかいない。

もちろん、オレに朝から押しかけられるような非常識な知り合いはいない……こともなかったな。響押しかけてきてるじゃないか。

今度一言言っておこう。いったところで聞かないだろうが。


ピーンポーン


再びインターホンがなる。


「はいはい、今出ますよーっと」

「誰だよこんな朝っぱらから……」


オレは扉を開ける。

そこにいたのは、いつもの夢に出てくる”銀髪の女の子”だった。

顔はあまり覚えていないが雰囲気が同じだった。

なんでここにいる?こいつは夢の子で間違いないのか?見間違いじゃないだろうか?


「あの~もしもし? 聞いてますです?」


そうだよ。世の中には3人同じような奴がいるっていうし、そもそもあれは夢だろ。

夢に出てくる女の子が目の前に現れるわけがない。

そうだ。そうだよ。ならこいつは似てるだけの赤の他人だな。


「あのー!!」


「あぁ。悪い。」


「寝起きのところ申し訳ないんですけど、怜奈ちゃ……御伽怜奈さんいますです?」


あの人……他所でもちゃん付けで呼ばせているのか……

いい加減自分の歳のことも考えろよ……


「……あの人なら、今外出中だ」


さすがに”キレて拳銃ぶっ放しながら魔術で飛び回ってる”なんて言えないしなぁ……


「いえ、嘘ですよね?」


「え?」


女の子はあっさりと否定した。


「怜奈ちゃんが休日に家にいないなんてありえないじゃないですか」

「嘘はよくありませんよ。 あの人のぐうたらぶりは治らないものですしね」


「……………………………」


御伽ちゃん………他所の女の子にすらそう思われてますよ……


「まぁ、本当にいないとしたら、何か怜奈ちゃんを怒らせるようなことをした人がいて、それに怒った怜奈ちゃんが拳銃ぶっ放しながら、町中を飛び回っているってところですかね?」


「…………………………………」


行動まで読まれてるよ……

御伽ちゃん、あなた行動パターン単純すぎますよ……


「え、まさかそっちでしたか?」


「……あぁ」

「というか、そこまで知っているってことは、あんたも魔術師ってことでいいのか?」


「………うかつにその質問はどうかと思うですよ」

「とりあえず、中に入れてもらいますですよ」


……オレも注意しないとな。人のこと言えないかもしれん。

でもまぁ……こいつの受け答えも要するに”Yes”ということなんだろう。


「って、返事する前に家に入って行ってるし」


勝手に入っていく女の子。引き下がる様子もないので、渋々受け入れる。

さて……どうなることやら。




誤字脱字の指摘いただけると助かります。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ