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とある出来事の顛末(1)

ある日の放課後から話は始まります。


三人称。




「しっつれーしまーす」


 紅宮サタンが生徒会室の扉を開けると、そこには誰もいなかった。用がなくても入り浸っているうざったらしい生徒会長や、その見張り役である自分の兄、苦労人の女先輩のうち誰一人として姿が見えない。

 ちなみに女先輩こと月読ミコトに苦労をかけている人物の中に自分が含まれていることをいまいちサタンは理解していないようである。


「……珍しいな。誰もいな…」

「ここにおるで?」

「はイぃぃっ?!」


 いきなり耳元で聞こえた声に飛び退くサタン。よほど驚いたのか悲鳴が裏返っており、慌てて声がした場所を見た彼は呆然としていた。

 それもそのはず、そこにいたのは……


「ん、なんや()の字?化けもんでも見たような顔し――」

「化け物よりもある意味特殊だっ!なんで天井に立ってるんだ立花(たちばな)先輩!?」


 天井に足の裏をつけ、地面と逆さまに立つ少女。重力に従った普段なら肩ぐらいまでの長さの金髪が、つららのように垂れ下がっている。

 だが、やがて落ち着きを取り戻し彼女を見たサタンは先程と比べものにならないくらい慌てた。


「ん、これか?これはな……」


「ストップ先輩!後から聞くから、あ、あのっ、スカート、スカートがっ!」

「ん?」


 サタンの声に首を傾げながら少女が視線を下(この場合は上?)に向けると、そこには髪と同じように重力に従うスカートの姿。

 つまりは、大きくめくれ上がった(下がった?)スカート。ということは…………中身が丸見えになっているわけで。


「……いやん」

「‘いやん’じゃねえええぇぇぇ!!降りろ、はやく!!」

「いやー、実は降り方知らへんくてなぁ」

「ああもう!!引っ張ったら降りれるか!?」

「おお、試してくれ」

「はいはい!」


 サタンは仕方なく少女に近付き、両腕を伸ばして相手の腕を掴むとゆっくりと引っ張ってみた。


「もっと強くできん?全然のかん」

「いいけど……腕外れても知らないぞ」


 言われた通りにさらに強く引っ張るサタン。すると少女の両肩から『ごきり』と非常に生々しく痛々しい音がした。


「あ、肩外れた」

「早!!だから言ったのに!?」

「どうでもええけどな」

「どうでもいい要素欠片もないし?!」

「あっはっはっは」

「笑うな!」


 と言いつつもサタンがまだ引っ張っていると、いきなりベリッと少女の足が天井から外れ落下した。

 サタンの真上に。


「ぎゃっ?!」

「うわ!」

ドンガラガラガシャーン!!


「ちょっと何ご――?!」


 突然響いた轟音に、遅れてきた夜凪アズミが駆け込んで来た。その後ろには開け放たれた扉から中を覗き込む空嶺カナタの姿もある。

 言葉の途中で絶句したアズミに、ようやく気付いたサタンが振り向いた。


「うー、いってー……。あ、アズミ?」

「……ねえサタン。なにやってんの?」

「え?あ!これはその……」


 ソファやテーブルさえも巻き込んだこの惨状を慌てて説明しようとするサタン。だが……


「この変態」

「は?!」

「立花先輩に何してんのよっ!自分が何してるかわかってんの?!」


 なにやらお怒りのご様子のアズミ。疑問に思いながらも改めてサタンは自分を取り巻く状況を見た。

 ひっくり返ったソファに動きまくったテーブル。落ちた時に入れ替わったのだろうか、尻餅をついたサタンの足の下には何故か気絶した少女が。そしてトドメに、ぶら下がっていた時のまま彼女のスカートはめくれ上がっており……

 それはサタンが少女を押し倒したように見えなくもなかった。


「いや、これは……」

「言い訳無用!!」

「は?!ちょっまっ!助けてくれカナタ!!」


 話を一切聞かず足を振り上げたアズミ。それを見たサタンは扉の外で傍観しているカナタに助けを求めるが、カナタは…


「……………」

カラカラカラ、パタン


 無言で頷き、扉を閉めた。


「薄情者おおおぉぉぉっ!!?」


 サタンの叫びが、後ほど悲鳴に変わったのは言うまでもない。




      ◇




「……っちゅーわけや。つまり沙の字は何もしてへんし、ウチもされてへん。もちろんウチもしてへんで?」

「……じゃあ、わたしの勘違い……?」

「ま、そうなるわな」


 あの直後、一撃の元にサタンをのしたアズミは、気絶から回復した少女から事の成り行きを聞いていた。その周りではカナタが黙々と片付けをしているのだが、話している二人は欠片たりとも手伝う気がないようである。

 ちなみに、この惨劇の原因になった少女の名前は木実(このみ)・K・立花。生徒会三年執行部長を務める神出鬼没な長身の美女である。金髪なのはイギリス人とのハーフだからとか(本人談)。あと、関西弁なのは関西育ちだかららしい(これも本人談)。

 話を聞いたアズミは気絶させ……もとい、気絶したサタンが寝かされているソファにチラリと一瞬だけ視線を向けたが、何もなかったかのように目を逸らす。


「そ、そう言えば立花先輩。どうして天井なんかに居たんですか?」

「ん、それは……これ」

「……なんですか、これ?」


 完全に話をごまかそうとしているアズミ。とはいえ、そんなことをしてもサタンを一発KOした事実に変わりはないのだが。

 コノミが示したのは自分の足元の靴――ではなく、ゴムブーツを変形させたような物体で、アズミがおそるおそる触ってみると『ぶに』という弾力のある感触が返った。

「柔らかく……はないですけど、硬くもないですね」

「ああ。なんか最近発明した特殊素材を使ってるらしいで」

「……発明?ってことは…」

「たぶん(すみ)の考え当たってるわ。双子の発明で、『カエル君2号』やて。壁歩きできるゆーてたから試してみたんや」

「また変な物を……。なんで先輩はそんな怪しい道具を試しちゃうんですか! というかなんで2号? 1号見たことないんですけど」


 案の定、自称天才科学者の二人が作ったようだ。だが壁を歩いていたはずのコノミが天井に至ったのは何故なのだろう?


「1号は爆発したらしいで?」

「なんで壁歩きの道具が爆発?! よくそれ知ってて試しましたね?!」

「ははは、結局2号も欠陥品やったしなー」

「笑い事じゃなーい?!」

「笑い事や」

「断言した?!」


 あっはっはと危機感の欠片もなく笑うコノミに、アズミはやや辟易していた。


(こういうのはサタンの役目なのに……なんで寝てんのよ!)


 とか、完全に自分を棚に上げた考えをしているようだが、そもそもサタンを気絶、もとい寝かせた直接の原因はアズミである。責任の押し付けもここまでくるといっそ清々しいほどだ。


「ところで澄。今日は自分らだけか?」

「? はい。というかわたしたち以外の一年生は会議じゃないと滅多に来ませんよ?」

「せやない。いつもここに居るメンバーもや。先に帰ったナギとナミにしか会ってへんから、不思議に思てな」

「確かに、誰もいないのって珍しいですよね……」


 基本的に、放課後の生徒会室には必ず数人のメンバーが在留している。生徒会長のミカミ、副会長のクロスはもちろん、部活などの用事がないメンバーが数人以上居るのが常であり、誰もいなくなることは滅多にない。会長、副会長のどちらもいないというのはありえないと言っていいほどなのだ。


「……ミ――会長は用事で休み」

「へ?」

「……メール、来てた」


 片付けを終えたらしく、サタンが横になっているソファ近くの椅子に座ったカナタが淡々と言う。

 あまりにもあっさりと会長不在の理由がわかり、アズミは脱力した。だが、コノミは何故か不思議そうにカナタを見ている。やがてふむ、と息をついてから口を開いた。


「……会長が用事、ってのも珍しいっちゃー珍しいけど……なんで()の字に連絡するんや?」

「……………」

「あ、そう言えば確かに」

「さっきも会長をミカミて呼びそうになっとったし……仲ええんか?」

「…………ミカミは」

「「うん?」」


 興味津々といった様子の二人に、カナタはどことなく面倒そうに言う。


「……お――」

「「お?」」

「――あ、サタン」

「「?」」


 突然そう言ってサタンを見たカナタと同じようにアズミたちもそちらを見ると、サタンは目が覚めたらしくゆっくりと身を起こした。

 そしてギギギギ、と機械のように首を回し、アズミを向くと――


「なに話してたんだ?」

「え、あ」

「……いや、違うな。なにを、話してるんだ?」

「えっと、それは、その……カナタと会長の関係について、です」


 なぜか敬語になるアズミ。そんな彼女をいつも通りのだるそうな目で見たあと、サタンは表情を全く変えずに言った。


「そっかぁ、勘違いで気絶させた相手ほっといてんなどうでもいいこと話してたのか。あははははは」

「え、あの、サタン?」

「……どうでもええんかそれ?」

「少なくとも今は(・・)関係ない」

「ならええわ」


 ばっさりと言い切られてしまったので、大人しく引き下がるコノミ。それさえも今はどうでもいいらしく全く気にしていないサタンだが、アズミに対してだけは違った。


「さてアズミ」

「はっはいっ?!」


 改めてアズミに向き直り、サタンが口を開いた。当たり前というべきか、目が欠片たりとも笑っていない。それに対するアズミの返事は、自然と引きつったものになり……


「右と左、どっちがいい?」

「な、何が?」

「もちろん……殴る腕のことだが?」


 何がどうしてもちろんになるのかはわからないが、どうやらアズミを殴ることは決定済みらしい。


「お、女の子に手ぇ出す気?!」

「人を攻撃して気絶させるような奴を俺は女とは認識しない」

「…………マジで殴るの?」

「安心しろ、手加減はする。…………たぶん」

「なんか今付け足したよね?!めちゃくちゃ安心できないんだけど?!」

「……ちっ」

「舌打ちーっ?!」


 そんなコント(当人たちは至って本気)を傍観していたカナタとコノミは、サタンから離れるように生徒会室の奥側のソファに移動し雑談を始めていた。


「で、結局会長との関係って何なん?」

「…………幼なじみ」

「幼なじみか。……苦労したやろ?」

「……………(コクリ)」

「やろなぁ……」


 ……果たしてこれが雑談と言えるのか甚だ疑問ではあるのだが。


「そこの二人っ、何のんびりしてるの?! 仲間がピンチなんですがっ?!」

「今回のは自業自得や」

「…………因果応報」

「四字熟語での的確な返答をどうもっ!」


 半ばキャラが崩壊している気がしないでもないアズミに対し、我関せずな雰囲気を出しているカナタとコノミ。……とは言え実際カナタは全く関係がない。が、そもそも事の始まりの原因である張本人は、いつの間にか取り出したティーセットで紅茶を飲んでいた。


「先輩紅茶飲んでる暇があるなら助け…!」

「ちなみにアズミ。利き手でも本気で()るからな」

「『やる』のやの字がおかしいしまずアンタは両利きでしょ?!」

「あ、そうだったな」

「わざとらしっ!」

「まあ何にしろ結果は変わらないということで」

「勝手にまとめるな!!」


 ギャーギャーと騒がしい二人を後目に、カナタは近くにあった紙束を手に取り読み始めた。……一瞬後、ドアが勢いよく開いたかと思うと、ドアを開けた人物がすぐさまアズミを背にサタンの前に立ちふさがった。


「大丈夫ですかお嬢さん?」


 突然現れキザったらしいセリフを吐いたのは、金髪の少年――十握スサだった。その上、アズミの顔を覗き込むようにして手を差し出している。

 最初は驚いていたアズミだが、やがて笑顔になり……


「きしょい」


 暴言を吐いた。


「きしょッ?!! なぜだ?!」


 どうやらショックを受けているらしいスサ。だがさらにアズミは言葉を重ねていく。


「きしょいものはきしょいんだからしょうがないでしょ。何がお嬢さんよ鳥肌立つわ。この尻軽男」

「……というかお前、俺の邪魔すんなよ。このエロ魔神が」

「なんで二人ともオレに対する暴言だけは息ぴったり?!」

「うるさい馬鹿」

「黙れバカ」

「女好きのナンパ野郎」

「脳内ピンク星人」

「……何この仕打ち」


 前後からの辛辣な言葉の応酬に挫けそうになっているスサ。……助けたはずの相手にまで言われたら誰だって精神的にキツイだろうが。

 とは言え、持ち前のタフさでなんとか立ち直ったらしいスサは言葉の嵐の合間を縫ってようやくサタンに話しかけた。


「な、なあサタン。事情はよく知らないけど女性に手をあげるのはどうかと思うぞ?」

「アホエロ星じ――……男性を武力で気絶させる女性は女性に分類できるのか?」


 一瞬スサの動きが止まる。が、すぐに真顔で言った。


「女性は女性だ」

「なんで真顔なんだよ」

「ともかく! オレの愛するアズミちゃんに手をあげるのは許さないぜ!! どうしてもっていうならオレを殴」

「わかった」

「れぐほぉっ?!」


 ためらいもなく右ストレートを叩き込んだサタン。それを見たアズミが……


「わたしも」


 と言って何故かサタンに加勢し、サタンもそれを止めず二人でスサにコンボを決めていった。

 ……因みに、アズミとスサの関係は助けたのに暴力を振われている現状から推して知るべしである。


「今日も平和やなぁ」

「…………そうですね」


 そして今までの会話と、今聞こえる耳障りな音と悲鳴をBGMに、コノミとカナタはゆっくりお茶をしているのであった。


「ぎゃあああああぁぁぁぁ――――!!!」


 しばらくして、スサの断末魔っぽい声が放課後の校舎に響き渡っていった。


お久しぶりです。2ヶ月ぶりの更新となりました万神奮闘記!、今回はちょっと長めです。しかも(1)です。

実は別に今回の話はなくても良かったりするんですが(ォィ、石榴石が決めていた生徒会メインメンバーがこの話で出揃いました。最後のメンバーはもちろんあの少女です。

あと、この中編はできれば夏休み中に終わらせるつもりです。気長にお待ち下さい(ぇ




追伸:基本的に新キャラが出る度にキャラ紹介も更新してますので、良かったら見てください。特徴などを本編よりわかりやすく書いてます。


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