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幼なじみ×4/4月中旬

紅宮サタン視点


 現在、俺は走っている。

 別に体育とか運動会の練習とかじゃないぞ。それに運動会は4ヶ月は後だ。あー、でも楽しみではあるな。基本スポーツは好きだし得意だし、ってかそうじゃないとスポーツ推薦なんか取ってないけど。ここの運動会けっこう大規模らしいし……こういうのを待ち遠しいって言うのか?

 って現実逃避してる場合じゃない!運動会に参加するには生きていることが大前提だが、このままじゃ俺の命が危ない。

 なぜなら……


「「サタンくーん」」

「ちょっとー」

「待ってよー」

「誰が待つかあああ!!凪先輩も波先輩も、自分の言動考えて言ってください!」


 とまぁ、凪先輩・波先輩の自称天才科学者に追いかけられているからだ。なんでそんなことになったかというと……


「言動って」


「私たちはただ」

「「実験台になってほしいって言っただけなのに」」

「それが最大にして最も根本的な原因だーー!!」


 廊下でばったり会っていきなり

「これ飲んで♪」って謎の液体X(緑色・どろどろ・泡立ってる)を飲まされかけたら誰でも逃げるだろうよ。さらに追いかけられて待つ奴がどこにいる。いたらそいつは勇者だな、心の底から賞賛してやろう。ただし生きていたらの話だが。

 というか…………なんであの二人は俺について来れるんだ!?スポーツ推薦の奴と同じだけ走れるって……もう科学者じゃないだろ!?そりゃ科学者がスポーツできてもおかしくないけど、こんだけ速いなら陸上部にでも入れ!!

 にしても、このまま逃げてたって埒があかないし……スサにでも押し付けるか。たぶん生徒会室にいるだろう。

 ってことで進路変更。すぐそこに見えている渡り廊下を右に――


「うおっ!?」

「うわ!」

「っとお……いてっ!?」


 痛……盛大にこけた。……つーか危うく人にぶつかるとこだった。ギリギリ避けたけど自分がこけたら意味ねーよな……。ってヤバい、あの二人に追いつかれる!!


「あの、大丈夫?」

「ビタン!ってあんま人体が出していい音じゃないぞ…………ん?もしかしてお前、副会長の弟か?」

「え?」

「あ、確かに紅宮君だ」


 立ち上がる途中に声をかけられたので、顔だけ上を向く。そこにいたのは最近知り合った赤髪と黒髪の二人組だった。


「……兎上(とがみ)先輩に子津(しづ)先輩?」

「お、当たり」

「そんなに急いでどうしたの?何か用事?」


 兎上雅人(まさと)と子津雄助(ゆうすけ)。この前生徒会の顔合わせの時に初めて会った二年生の先輩だ。赤髪なのが兎上先輩、黒髪なのが子津先輩。えっと、他にも何かあったような……まあいいか。


「用事があるわけじゃないんですけど……あれ、先輩達はもう帰りですか?」

「ん?いや、部活。めんどいけど」

「新入部員との顔あわせだって。だから生徒会に顔だけ出してきたんだ」

「へぇ……」


 部活かあ……生徒会忙しいのによくやるなぁ。でもそういや全校生徒の半分は部活入ってるって聞いたし、そんな珍しいことじゃないか。

 立ち上がり服についた埃を払ったあと、改めて二人に向きなお…………………………………うん、小さい。

 何が小さいかって全体的に。言っちゃ悪いが兎上先輩も子津先輩も確実に身長が平均もない。わずかに子津先輩の方が高いが、それでも俺より頭半分は低いだろう。それに加えて……


「……人の顔じろじろ見んじゃねえ。なんかおかしいとこでもあんのか?」

「え、いやなんでもない……です」


 二人ともかなり顔が整ってるんだが、本人としては嬉しくないだろうほどの……女顔だ。特に兎上先輩はそこら辺の女子じゃかなわないくらい可愛いらしい顔立ちをしている。子津先輩はどっちかって言うと綺麗系だ。まあつまり……とある特殊な趣味を持つ方々にとっては格好の餌食になりそうな二人組なわけだ。もちろん俺にそんな趣味はないから、苦労してるんだろうなぁと思うだけだが。


「あの、紅宮君?ちょっと……」

「へ?」

「…………女顔で悪かったなぁ、紅宮弟」


 子津先輩の声で意識が現実に戻る。そして見えたのは、肩を震わせ握り拳を作っている兎上先輩。……これって、もしかしなくてもヤバいよな?


「えーと、先輩?」

「……なんだ」

「聞こえて……ました?」

「お前が……女顔って言ったとこまでなら、な!!」

「ぐえっ!?」


 腹のド真ん中にストレートパンチ。鳩尾を外れたのはせめてもの情けなのか。それとも単なる偶然なのか。どちらにしても……………地味にマジで痛い…………


「……紅宮君、二回目だけど大丈夫?」

「はっ、自業自得だろ」

「それ殴った本人が言うことじゃないよね。それに、女顔は事実でしょ」

「……それをお前が言うか?」

「さあね。あーあ、事実を言っただけなのに殴られるなんて、紅宮君かわいそー」


 ……なんか子津先輩の言葉にかなり毒が含まれてる気がするんだが。しかも言い方的に絶っ対可哀想って思ってないよな。


「当然だよ。マサトほどじゃないけど、僕だって女顔って言われるのは嫌なんだから」

「……すみませんでした」

「ま、いいよ。事実なのは否定できないし」

「俺はまったく良くないんだが」

「はいはい、いつものことでしょ。なんでいい加減慣れないかなぁ」

「慣れたくもねーよ!」


 ……なんか俺そっちのけで口喧嘩始まったんですけど。って言っても兎上先輩が何か言ったのを子津先輩が全部受け流してるから、喧嘩じゃないのか?


「……くそ、おい紅宮弟!お前もなんかこいつに言ってやれ!」

「え、……ええ!?俺ですか!?」

「お前以外誰がいる!」


 いやそんなこと言われても………………………………………………………………そういや、なんか忘れてるような……


「「サーターンーくーん」」


 ……今なんか聞こえた気がしたが、きっと幻聴だろう。うん、幻聴だ。幻聴であってくれ!!


「「おーいついた♪」」


 追い付かれたあああああああああああ!!

 恐る恐る振り返った先には、予想通り自称天才科学者の双子が立っていた。そして、オレンジの服のナギ先輩の右手には謎の液体Xが……

 逃げないと、今すぐ逃げないと危険だ。俺の命が終わる!でも正面には兎上先輩たちがいるし……俺にどうしろと!?


「「あれ?」」

「マサくんだ」

「ユウくんだ」

「よお、ナギ」

「やあ、ナミ」

「「「「何してるの(んだ)?」」」」


 うわ、ソプラノとボーイソプラノの四重奏…………じゃなくて。なんか急にナギ先輩とナミ先輩の様子が変わったし、兎上先輩と子津先輩はあの二人に普通に接してるし……。しかも名前で呼び合ってたよな?


「えっと……皆さん仲良いんですか?」

「「「「幼なじみ」」」」


 なんであなた方そんなにタイミングぴったりなんですか。打ち合わせでもしたのかってくらい見事な揃い方だぞ。

 あー、兎上先輩たちのことで忘れてたのってこれか。そういや自己紹介のときにそんな感じのこと言ってたな……


「で、なんでお前らここにいるんだ?」

「放課後になっていきなり教室飛び出してたしね。何してたの?」

「「んーと」」

「これを」

「誰かに」

「「飲んでもらおうかなって」」


 そう言って双子が差し出したのは謎の液体X。……いつの間にか色が紫になってる。何で出来てんだよアレ。


「はぁ……またそんなの作ってたのか」

「で、紅宮君をそれの実験台にしようと?」

「「うん!」」


 うん、じゃねーだろ!!……この双子に関わると疲れるな……。といっても向こうから関わってくるから避けようがないんだが。それに兎上先輩も子津先輩もあっさりしすぎだ。あんな危険物作る前に止めてくれよ……


「ナギ、双子とはいえ一応お前が姉なんだからもう少し自分の行動考えろよ」

「ちぇー、わかったよマサくん」

「ナミ、姉妹なんだからお姉さんの行動がおかしいと思ったら止めないと駄目だよ」

「はーい、わかったよユウくん」

「じゃあこの不気味な液体は捨ててこい」

「えー、だったら捨てるからマサくんついてきてよー」

「……はぁ。わかった、ついてくからちゃんと処理しろよ」

「じゃあ、僕はお先に」

「おう、またあとでな。またな、ナミ。紅宮弟もな」

「ユースケくん、サタンくんまたねー」

「またね、マサトくん」

「ああ」

「ナギちゃん、また今度ね」

「うん!」


 そう言ってナギ先輩と兎上先輩は歩いて行った。…………えっと、これはつまり……どういうことだ?

 確か最初に兎上先輩がナギ先輩に注意して、次に子津先輩がナミ先輩に注意して、兎上先輩が謎の液体Xを捨てろって言ったら捨てるからついてきてってナギ先輩が…………あれ?なんであんなにあっさり捨てるって言ったんだ?


「紅宮君は本当に考えてることが口にでるね」

「気をつけないとねー」

「……以後気をつけマス」


 ホント何でだろうな……言ってるつもりはないんだが。


「とりあえず疑問に答えようか。なぜナギちゃんがマサトの言うことをあっさり聞いたか、だったよね?」

「あー……はい」

「まあ簡単に言っちゃえば…………好きなんだよ」

「……は?」

「だから、好き」

「……誰が誰を?」

「見ての通り」

「ナギちゃんがマサトくんを」


 へぇ、そうなんだ…………って、なんか地味に他人の秘密を聞いた気がするんだが。二人とも、幼なじみもしくは姉の好きな人さらっとバラしたよな?


「……それ、普通にばらしちゃって大丈夫なんですか」

「大丈夫だよー」

「二、三年生ほぼ全員が知ってるしね。気づいてないのはマサトを含めてほんの数人くらいじゃないかな」

「はぁ」


 みんな知ってるからって教えていいものだとは思わないけどな。

 ……それよりも、気になることがあるんだが……


「あの、先輩方」

「「なに?」」

「…………お二人は、付き合ってるんですか?」

「あれ、なんでわかったの?」


 うわ、普通に肯定した。……そりゃ目の前で手ぇ繋いだり腕絡めたりしてたら嫌でも気づくって。彼女いない歴イコール年齢の俺に対する当てつけか!


「……なんとなくです」

「そう?」

「兎上先輩たちは子津先輩たちが付き合ってること知ってるんですか?」

「いや、知らないだろうねぇ?」

「ねぇ?」


 いや、二人ともに疑問系で言われると困るんだが。……でも幼なじみだったら言ってもおかしくないよな?俺はアズミからそれ系のことは聞いたことないから知らないけど。……にしてもこれだけベタベタしてる二人のことやナギ先輩の気持ち気付かない兎上先輩って…………かなり鈍感?


「教えないんですか?」

「いやー、だってその方が面白いから」

「……は?」

「気付いた時とか、絶対すごい反応してくれるだろうからね。いつ気付くか楽しみだよ」


 ひでー……。のんびりしてそうな見た目に反して黒いな子津先輩。


「ねぇユウくん、部活行かなくていいの?」

「あ、そうだった。じゃあまたね紅宮君」

「またねーサタンくん」

「え、あ、はい」


 そう言ったときには二人はもう背を向けて歩き出していた。……早ぇ。

 とりあえず俺も生徒会室に行くか。


「そういえば紅宮君」


 反射的に振り返ると、子津先輩が立ち止まりこっちを見ていた。


「さっきマサトのこと鈍感とか言ってたけど、僕は君も大概鈍感だと思うよ」

「え?」

「まあ、人の事は言えないってこと。じゃ、アズミさんによろしく」

「ユウくん、先行っちゃうよー」

「はいはい今行くよ」

「『はい』は一回!」

「はい」


 そんな会話をしながら、今度こそ本当に二人は歩き去っていった。

 にしても、俺が鈍い?そりゃ確かに他人の感情が簡単にわかるほど鋭くはないと思うが、さすがに人の好意や敵意くらいはわかるだろ。それに……なんであそこでアズミが出てくるんだ?

 …………………………………………………………よくわからないな。後でアズミ本人に聞いてみよう。






 その後、生徒会室でアズミとカナタにこのことを話したら、一人からは平手打ちを一発、もう一人からは珍しい呆れの視線をいただいた。……何故に?


ちょっと補足を。

幼なじみ四人のお互いの呼び方は、


兎上雅人

・マサト(雄助)

・マサくん(凪)

・マサトくん(波)


子津雄助

・ユウスケ(雅人)

・ユースケくん(凪)

・ユウくん(波)


黄泉津平坂凪

・ナギ(雅人)

・ナギちゃん(雄助&波)

黄泉津平坂波

・ナミ(雅人&雄助)

・ナミちゃん(凪)


となっています。会話のとき誰が喋っているかのヒントにしてください。ややこしくてすみません。



登場人物紹介を更新しました。追加:司馬、兎上、子津の三人。


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