下僕
準はエリカと喧嘩した後、追いかけようと思もったがひどく傷ついた彼女の表情に衝撃を受けエリカの後ろ姿を漠然と見送ることしかできなかった。今更彼女に追いつくことはできないし後は彼女の問題だから、明日謝りにいこうと家に戻った。
じりりりりりりりりりり……
ぱしっ
布団から手を伸ばし目覚まし時計を止める。もうこんな時間か。急いで起きて着替えると階段を駆け下りて朝食の支度にとりかかった。準の家は両親が料理できなくて妹はまだ小学生だし、大学生の姉に『あんた暇なんだしつくれよ』と押し付けられて(尻に敷かれているといったほうがいいのか)こうして毎日作っているのである。
出来上がるころにみんなぞろぞろ起きだしてくる。おはようと一言挨拶を交わすと親父はテレビをつけ、みんな無言で食べ始める。そして後片付けは親に任せ俺は家を出る。そして今日も行ってきます。と挨拶をして玄関を出ると友達が待っているはずなのだが、待っていたのはエリカだった。電柱に寄りかかって遅いといわんばかりの顔をして腕組みしていた。
「き、きのうは悪かったわね!怒鳴ったりして」
エリカは顔を赤らめて言い終わるとぷいっとそっぽをむいた。
「いや、こっちこそ悪かった。でおまえそーゆー謝り方ないんじゃねぇの?だまってりゃお人形さんみたいでかわいいのに」
エリカはかわいいと言う言葉に反応して顔がゆでだこみたいに赤くなった。
「悪かったわね!静かじゃなくて!そーいえばあたしの願叶えたいんでしょ?しょうがないから叶えさせてあげるわよ」
「なんで立場逆転してんだよ」
準はこんなこと言わなくちゃよかったと思ったが時すでに遅し。
「ちょっと待て、現実性のあるものにしろよ。百億くださいとかは無理だからな」
「わかってるわよ。あんたの能力くらい」
こいつ女じゃなかったら一発殴ってやんのにと準はこぶしをきつく握りしめていた。
「ケーキ作りたい」
「は?」
女の子じみた返答にすっとんきょうな声が出てしまった。
「おまえ小学校のころの家庭科覚えてるか?フライパンから火だしたんだぞ」
「けっケーキはフライパン使わないわよ。それに準ちゃんは料理得意でしょ。あれまさかあたしに教える自身がなくなちゃったのかなぁ~」
エリカは自分が不利な立場にならないように準をからかう
「あーもーわかったよ教えりゃいいんだろ。いちいちうるせーやつだな。その代り最後までちゃんとやれよ。おまえあきらめ早いから」
「う、うるさいわねわかってるわよそれくらい、さっ早く学校行きましょ」
「おまえ、ここにいた小林ってやつみなかったか。毎朝一緒に学校行くんだけど」
「ああ、あのちっこいの小林君っていうんだ。『彼氏と待ち合わせしてるからご・め・ん・ね?』って上目使いしてぶりっ子全開でおひきとり願ったわ」
「お、おおおおまえってやつはーーーーーーー」
準は我慢ならなくて殴ろうと腕をあげ、エリカが頭を抱えてきゃぁと小さく悲鳴をあげる。そんな姿がなんだかかわいくて、彼氏という言葉が頭にまとわりついて恥ずかしくなって殴るのをためらった。