願望①
エリカの風も二、三日ですっかり良くなったので準と一緒に駅前に新しくできたアイスクリーム屋さんに行くことにした。というか半ば強引に準が行かせられたというのが正しいのか………
一日前
エリカからメールが来た
『準ちゃん明日ヒマだよね?うん、ヒマだねOK!じゃあ明日あたしんちの前に三時にきてね。一緒にアイスクリーム食べ行こ~』
こういう場合だいたい、イヤ、準の意見は無視されるのが昔からの恒例だ。
このメールを受け取った準はうげぇと顔をしかめ明日の予定を確認する。ちょうど部活は入ってなかったのでしかたなく行くことにした。
「準ちゃん遅っそい!待ちくたびれた、レディを待たせちゃいけないんだよ?知ってた?これじょーしきだから」
準がエリカの家の前に着いた時にはすでに彼女は玄関の前で腕を組んで仁王立ちして待っていた。
黄色いワンピースに襟と袖にレースのついた薄い青のジージャンに空色のパンプス、薄くメイクしているのに対し準はジーンズにTシャツというラフな格好だ。少しエリカが浮きかけている。
「俺ちゃんと三時に来たんだけどなぁ」
「ってうわぁなにその恰好!?ださっ」
「第二声がそれですか………」
エリカはあちゃーと言わんばかりの顔に手を当てた。
「まあいいよ期待してなかったし」
悪びれもなくさらっとそんなことを言うとエリカはさぁ行きましょう、といってどんどん進んでいった。
準は心の中で期待してなかったってなんだよ?と少し怒っていた。
駅前は緑が多く噴水もあり市民の憩いの場としても活用されている。休日ということもあって子供連れなどでにぎわっていた。アイスクリーム屋でそれぞれ注文を済ますと近くの木陰にあるベンチに座った。
「んーおいひー」
そういって少し足をカツカツと鳴らすエリカをしり目に見てこんくらいでそんなに騒ぐほどかよと準はあきれていた。
「おまえ、子供かよ」
「おいしいもんはおいしいの!感動して何がわるいの?感情は出さないと死ぬよ?」
「死ぬって大袈裟だろ」
準はアイスを食べながらどーでもいいような感じに返事をした。
「本当に死ぬよ、死ななくても辛いよ」
さっきとは打って変わって暗く重くつぶやいたことに準は一瞬驚いた。
「この前の事で思ったの。辛いよってこと準が聞いたくれたから私はぎりぎりのところで留まれたんだと思うの。もしもSOSをだれも聞いてくれなかったら?そのつらさはどこへ行くと思う?自分の中でぐるぐるまわってしまいには腐るんだよ。そしてその負のスパイラルから抜け出せなくなる。それに耐えられなくなってしまいには自分で人生のステージを降りるんだよ」
溶けたメロンアイスがエリカの手をつぅと伝っていく。その緑が禍々しく見えた。
「エリカ………」
「ホントは怖いよ耳が聞こえなくなる時が。残りの人生を無音で過ごさなくちゃいけないんだって思うとそれにあたしは耐えられるのかな?」
準はかける言葉がなかった。大丈夫だよとかうわべだけの言葉はかえって傷つけてしまいそうで。
しばらく沈黙が続いた。
俺には何ができる?エリカに笑って欲しい。
あたしは準に何を言ってるんだろう?また困らせちゃった。
「「ねぇ」」
「「ごめんっ」」
「何ハモってるのよ!全く」
エリカはくすくすと笑った。こそれを見た準もつられて笑った。
「耳が聞こえなくなる前にしたいことを一週間に一個ずつエリカの願を叶えてやる。…って要は、確かに耳聞こえなくなるのは辛いけど、楽しいこともしてみない?ってこと」