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和解

 その晩になってもエリカは来ず、あいつは約束は守るのに珍しいと思った。心配になったが電話してもあいつ耳聞こえないしメールしても出ないし直接あいつんちに行くことにした。


 ピンポーン


 数秒後元気のない声ではあいと声がしてガチャリとドアが開いた。

そこにはおでこに熱冷マシートを貼ったピンクの寝間着姿のエリカが出たてきた。


「おまえ、風邪ひいたのか、メールも返信しないし」


「うん、熱があって。携帯は学校に忘れちゃったから、みかん持ってくるからそこで待ってって」


 エリカは壁に手をつきながらキッチンへと向かおうとするがふらふらと二、三歩進むとその場に倒れこんでしまった。準は急いで靴と鞄をほおり投げ、駆け寄った。


「おい、大丈夫か?」


 肩を貸して立ち上がらせるとかなり体がほてっているのがわかった。エリカは熱い息を吐きながら「大丈夫」と答えキッチンまでやってきた。


「親、いないのか」


「旅行中」


「てか、おまえちゃんと飯食ってる?なんか軽いんだけど」


 はっと準は思い出した。こいつは小学校の時の家庭科でなぜか焼肉をフランベするし砂糖と塩間違えるわ分量適当だし手順もめちゃくちゃ。ホンット料理ができないやつだったことを。


「まだ夕飯食ってないんだよな?てかごみ箱コンビニ弁当のごみばっかだし………ったくしょうがねえなぁ、俺が作ってやる。めんどくせぇやつ」


 部屋の隅にあるごみ箱をしり目に、まずは冷蔵庫の食材確認しなきゃなと思い冷蔵庫の取ってを握ろうとした瞬間、低い声が俺の胸に響いた。


「もう帰って」


「へ?」というほぼ息にも近いような声とともに思わずエリカのほうを振り返った。


「私は大丈夫だから、みかん持って帰って」


 はあはあと息を切らしながら赤い頬して苦しそうに立っている。


「おまえ大丈夫じゃないだろ?」


「大丈夫!」


「熱出してふらふらしてろくに栄養とってないやつのどこがだいじょうぶなんだよ」


「いいから!帰って!!!」


「おまえ何だか変だぞ?なにかまた辛いことでもあったか」


 エリカの頭の中にはあの言葉で一杯だった

ーー俺もうエリカといるのが限界ーー


「私といるの辛いでしょ?」


 準は心がザクリと音を立てたのがはっきりとわかった。


「おまえ………なに言って………」


「準が私といるのが限界だって言ってるの聞いたの」


準は目線を下に下ろしすぅと小さく息をするとエリカの目を見てポロリとこぼした。


「お前の耳が聞こえなくなった原因は俺なんだ」


「へっ?」


「おまえに雑巾当てたのは俺なんだ。お前気づいてないようだったけど。でもたまたまで悪気はなかったんだ。ごめん。謝っても許してもらえるとは思えない。俺のしたことは重大でお前から音を奪った。そのせいでお前は友達を失って、いじめがエスカレートして全部俺のせいなんだ。俺が悪いんだ。おまえじゃない。だから私はいらない人間なんだとか死んだほうがマシだとかメールで言ってきて辛かったんだ。こんな思いをさせたのはほかでもない俺だから。すまない」


 準は床にドンっと鈍い音を立ててその場に土下座をした。それがその場でできる精一杯の気持ちの表し方だったから。


 エリカは呆然と立ち尽くしていた。まさか自分のメールがここまで準を苦しめていたなんて想像以上だった。準ちゃんはいつも優しかった。私の事気遣ってくれた。なのに私は準ちゃんに何をしてあげられたのだろうか?自分が苦しいのを言い訳に準ちゃんに甘えて、準ちゃんならなんでも言っていいと思って好き勝手愚痴はいて、苦しめていただけだたのだ。

 私の本当の耳が聞こえなくなった原因は準ちゃんのせいじゃない。ストレスと遺伝的なものなのだ。


「準ちゃんは悪くないよ。準ちゃんは優しいよ。耳が聞こえなくなって友達もいなくなってでも準ちゃんはいつもと変わらず接してくれた。うれしかった。私の愚痴にも文句ひとつ言わないで付き合ってくれてありがとう。そしてごめんね。いろいろ無心系なこと言っちゃって。だから顔あげて。そもそも準ちゃんが雑巾を当てようが当てまいが私は耳が聞こえなくなる運命だったの。医者からは二十歳になる前には遺伝で聴力がほぼなくなるだろうって言われてたの。その心の準備ができてなかったせいでいろんな人を傷つけた。準ちゃんもその一人。だから謝るのは私のほう」


 準の心の中にあった罪も意識がすうっと溶けて行った。そしてあんどしたのか頬をなみだが床に数滴落ちて行った。感慨に浸っているまもなく現実に引き戻される。


「じゃあおまえ耳はもう聞こえないのか?」


「うん。いまは補聴器あるからなんとかなるけどあと数年したらもう完全に、ね」


 したから見上げるエリカの顔は穏かだった。もうどこか吹っ切れたような。


「じゃあ、早く風邪治せよ。お前の耳が聞こえるうちにいろんなところ連れて行ってやる」


 エリカは鳩が豆鉄砲食らったようなかおをしていた。そして口に手を当ててすぐに小さく笑ってからかってきた。


「じゃあ遊園地とかお願いしようかなぁ」


「おっおお前、急に何言い出すんだよ?いっいいぜ。その前に早く風邪治せよ。いま飯作ってやるから座って待ってろ」


 そういう準の顔が赤くなったのを自身が自覚するのはまだ少し先の事。


「お待ちどーさん」


 そういってだされた親子丼は心がほかほかして少し甘じょっぱい味がした。



最後までお付き合いくださりありがとうございました!

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