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後悔

 ブルルルルルルルル………

そろそろ日付も変わるころベッドに入った瞬間スマホがなったこんな時間に誰からだろうとメールを開いてみる


『明日、おばさんに頼まれてたみかん持ってくね』


 久しぶりのエリカからのメールでびっくりした。あいつ友達がいなくなってから俺に愚痴だの弱音だのメールで頻繁に送ってきてたから今回も急に辛くなって送ってきたのではないかとひやひやしていたが違ったのでひとまず安心した。あいつのメールは俺への拷問だった。


なぜならあいつの耳を聞こえなくしたのはほかでもなく俺だからだ。


★★★


中二のころ俺とあいつは同じクラスだった。ある日掃除の時間になると俺は友達とほうきをバットに雑巾をボール代わりに野球をしていた。でもその日の趣向は少し違くて目隠しをして教室のドアからどこまで遠くの廊下にとばせるか。というものだった。

仲間が次々と飛ばしていきついに俺の番が来た。ぶんっと、思いっきりほうきを振った。いつもなら仲間がああ惜しいとかへたくそとか感嘆の声を漏らすのにこの時に限って静寂が支配した。俺の耳に飛び込んできたのは女子生徒の声だった。


「大丈夫?」


 ぱたぱたぱたと教室から廊下に向かって数名の足音が聞こえる。何事が起ったのか目隠しを外すとそこには雑巾を手に持って心ここに非ずという顔をしたエリカが立っていた。その光景を見て俺の何かがズキンと痛んで喉がつうんとした。


「準おめーすげーな。エリカに当てたぞ」


「俺もエリカねらおっかな」


 家に帰るといつものごとく「お帰り」と、母が出迎えてくれた。


「さっき、エリカちゃんままから電話があってエリカちゃん救急搬送されて難聴になちゃったんだって。準何か知らない?」


 背筋がぞくっとした。


「いや、知らない」


 冷静を装って玄関を上がると二階の自室にこもった。

俺のせいであいつの耳が聞こえなくなったんだ。そればっかりが頭をよぎってその日はなかなか眠れなかった。

 数日後、学校に来たあいつは難聴であることがクラス中に知れ渡りそれを理由にいじめがエスカレートした。俺のいるグループもその一つだ。しばらくはいじめられるのが怖くて口裏を合わせていたが友達にもいじめられ始めて、クラスで完全孤立となったあいつが一人で行動するようになって授業を受けるのにも支障をきたしているのを見るとズキズキと心が痛んだ。小学校のころは明るくて活発であいつが話すと花が咲いたように周りが明るくなった。でも今は違う。その差に愕然とした。俺はとうとうあいつに筆談しようと紙とペンを持ち出した。人がいないところでノートも写させたり、筆談したり、会話するときは大きな口でゆっくり話すようにした。そして次第に俺もクラスから奇異の目で見られるようになった。今から考えればこれは俺のせめてもの罪滅ぼしだったのかもしれない。


 俺は日直で放課後、先生に頼まれて教室にあるクラスのノートを教員室に持ってくるように頼まれた。誰もいないはずの教室のドアを開けるとそこにはエリカが一人、死ねと書かれた自分の机をそれはまるで壊れた時計のように泣きながら見つめていた。

俺は声も出なかった。自分がしたことの重大さを改めて思い知った。


「準ちゃん………?」


 あいつは涙を拭きながら力尽きたようにその場に崩れ落ちた。


「私っていらない人間なのかな?私が何をしたっていうの?もうつらいよ。わけわかんないよ」


 俺はしゃがみこんでいるエリカの頭に手を触れようとしたが寸前で止めた。

俺にはその資格がない。


「おまえは悪くない、愚痴言いたかったら俺にこぼせ、メールでもいいから」


全部俺が受け止めてやらなくちゃならない。これが贖罪だ。


 その日から愚痴や弱音のメールがたくさん来たそこからはエリカの辛さなんで自分だけがこんな不幸にならなくてはならないのかなど悲痛の叫び、この世の無常さを吐き出していた。そんな言葉を読んでいるうちにだんだん俺も精神が疲れてきた。



 久しぶりに部活が無くて一人で帰っているところを先輩につかまった。


「おまえ、最近元気ないなどうした?なんかいつものキレないし、あ、彼女に振られたとか」


「俺ほもうエ………カといるの限界なんだ」


「限界?何がだ」


「あ、いえ、体が悲鳴あげてて成長痛かなって」


 その後先輩とは世間話をして別れた。

そしてその夜エリカからみかんを持ってくるとメールがあった。


★★★


 今日は久しぶりに部活がないので早く帰ってゲームでもしようと急いでいた。住宅街に差し掛かった時少し先にエリカの姿があった。追い抜かそうにも無言で通り過ぎるわけにもいかないし、一応声をかけることにした。


「エリカ………」


 びっくりしたのか金色の髪をはらりとはためかせ振り向いた。


「今日はサッカー部ないの?」


 もっと落ち込んでるのかと思ったら小さく笑って尋ねてきた。少しは落ち着いてきたのかな。


「ああ、今日はな。もう中三のゴールデンウィークだし受験勉強始めなきゃな。いいよなお前は学年トップテンで優秀だからよ」


 ためしにこれくらいの軽い冗談を言ってみた。


「そういう準ちゃんはワーストテンだっけ」


 意地悪く言われたので、それくらいのことが言えるくらいは元気になったのかと安どした。


「俺はやらないだけでやればできる子だし」


 T字路に差し掛かるまで久しぶりにドラマの話をしたりで盛り上がった。


「後で頼まれてたみかん準ちゃんちに持ってくね」


 これ以上エリカと一緒にいられないつらい来ないでくれと思った。


「準ちゃん………?」


「ああ、何でもない。じゃ、後で」


 手を振って別れたがいつまでたっても来ることはなかった。




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