緊張
エリカが目を開けると布団の上で、周りには家具がいくつか置いてあった。
「あれ…あたし………」
隣で本を読んでいた準がこちらを向く。
「あ、目ぇ覚めたの。おまえ風呂場でのぼせてたんだぞ」
エリカがよっこいしょと上体を起こし、壁にかかっている時計を見て時間を確かめる。
「あ、やばもう十時じゃん帰んなきゃ」
ガバリと起きて部屋を出て行こうとするエリカを止める。
「もう遅いし家、泊まってけよ。この部屋誰も使ってないから。それに服も姉ちゃんの貸すし」
「いいの?」
「家は大歓迎だけど」
準は立ち上がり隣の自室へと戻って行った。エリカは目が覚めてしまいなんだかまだ寝るには早いので楓の部屋に行ってみたもののもう寝ていた。林檎の部屋を覗くと受験勉強していたのでそっとしておいた。残すは準の部屋だけど、まあ小さいころから準の部屋には入ってるしノックなしでずかずかと入って行った。
準は驚いて、座っている勉強机からくるりとこちらを向いた。
「ノックくらいしろよ」
「いいじゃない、別に。で、何してたの」
「宿題だよ。明日までに出さないと居残りなんだ」
エリカは宿題をまじまじと覗くと答えをすらすら言った。ふん、と鼻を鳴らしてこんなのちょろいわよと言わんばかりの顔をして準を見下した。
「待って、もう一回言って」
「準ってほんとバカだよね。こんなのもわからないの。いままで何してきたのよ」
「お前得意だろ数学教えてくれよ」
準が下手に立って頼み込む。エリカは誰かに丁寧に頼まれると弱い。
「し、仕方ないわね。あたしの教え方はスパルタよ。覚悟なさいっ」
そのおかげあって無事宿題は終わり準は明日の下ごしらえがあるとかなんだでキッチンへ向かった。
エリカは準のベットにダイブしてわきゃわきゃしていた。ぽすんと横たわると準の匂いがしてきた。小さいころから嗅いできたこの匂い。なんか落ち着くんだよね。今日は久しぶりに楽しんだなぁ、ゲーム、食事、と心が温かくなってずっとここにいたい。幸せな気持ちに包まれてエリカはそこで寝てしまった。
それを見て驚いたのは準である。あーあ、どうせまた俺に対しての嫌がらせかなんかの一種だろう。『愚民は床で寝てろ』的な。エプロンをハンガーにかけ、起こそうと思って枕元に近づくと俺の枕をきゅっと抱きしめて、なんともいつもは見れない穏かな顔をして気持ちよさそうに寝ていた。役得か何だかわかんないけどこうしていればエリカもかわいいんだけどな。おもわずクスリと笑ってしまった。でも起こすのもったいないし、床でねようにもそういうわけにいかないし。男女二人同じ部屋ってのも………てか、緊張で寝れないわ。しかたなくさっきエリカが寝ていた隣の部屋で寝ることにしてその部屋に戻ると布団がなくなっていたどころか床一杯に米が置いてあった。すぐさま階段を下りてリビングに直行する。
「母さん?一番奥の部屋にあった布団しらない?」
母は裁縫をしていた手を止める。
「ああ、それならさっきシーツと掛布団洗濯したところよ。まだかわいてないわ」
準はそうなの。と力なく返事して、仕方なく自室の床で寝ることとなった。やばいどうしよう。なんか嫌な感じ。心臓がバクバクするんだけど。これってやばくない?親にばれたらやばくない。別に変なことする気はない…けどさ。なんだかんだで眠りにつき、激痛が全身に襲ってきて目を覚ますこととなった。
「ぐえ」
準は絞殺されたような鶏の声を上げ、何事かと目をこするとベットからエリカが落ちてきたのだ。それで俺にヒットしたわけだ。それでもエリカは目を覚まさず、すーぴーすーぴーと規則正しい寝息を立てて寝ていた。こいつベットから落ちても起きねぇのかよ、すげーと感心したのもつかの間。エリカは俺の背中にうずくまってきた。かわいいとかなんとか思もってるヒマ無いよ。これ。暗いからわかんないけど今に俺の顔最高超に赤いよ!ちょっと気になる子にこんなことされたらねさすがにこれでは俺の精神が持たないので、エリカをそこに寝かせ、俺はベットに戻った。
朝になり目覚ましが鳴る。あーよく眠れなかった。のびーをして床を見るとそこにはエリカがいなかった。もう起きてんのかなと一階に降りてみてもいないし、じゃあ妹の部屋、姉ちゃんの部屋とこっそりのぞいたけどいなくてトイレにもいないみたいだし。一応靴を確認してみるとなかった。俺はあせって外へ飛び出した。