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心配

 エリカは次の日の夕方に警察からの聞き取り調査がおわり釈放されて帰路についた。住宅街を歩いているとあちらこちらから夕べの匂いがしてきた。家の前に来るとその匂いが強くなった。家に入ると黒いパンプスとともう一つ男物の靴が置いてあった。急いでリビングに向かうとエリカの母優香と準がお茶をしていた。優香はエリカの名前を呼ぶとエリカに駆け寄って抱きしめた。


「ああ、よかった心配したんだから」


「お母さん出張じゃなかったの」


「そうだけど先生から連絡もらって戻ってきたに決まってるでしょ」


 エリカからはなれるとエリカは席に着く。そして準がお茶を入れて渡す。


「なんで準ちゃんがいるの」


「エリカママに道端ですれ違って事情聴取されてた」


「で、あんたなんで危ないサイトなんかにアクセスしてまでモデルになりたかったんだい」


「危ないサイトなんてわからなかったし、それにみんなに認められたかった。そのためならモデルだろうが何でもよかった」


「『みんな』ってだれだよ」


 エリカに向けられた優香の視線は冷たく、声も低かった。


「あたしの事耳が不自由だからってバカにしてくるやつ、顔が外人みたいだからっていじめてくるやつ」


 その瞬間ぱしんっとエリカの頬を叩く音が響いた。


「あんたバカじゃないの?危険冒さなきゃ認められないなんて本当にみとめられたことにならないんだよ!それにそんな奴らに認められてなんになる?うれしいか?幸せか?本当に認められるべきはあんたそのものを大事にしてくれる人だろうが!あたま冷やせ!」


 優香の目にはかすかに涙が浮かんでいた。エリカはいきなり怒鳴られてびっくりしてひりひり痛む頬を抑えながらぽろぽろと泣いていた。この様子を目の当たりにした準は心の中で心配そうに「エリカ……」と呟いていた。しばらく沈黙がその場を支配した。


 ぴろりろりんぴろりろりん♪


 優香の携帯が鳴った。


「あちゃーお母さん会社に呼ばれちゃったから戻るわ。エリカ、知らない人が来てもドア開けちゃダメ。夜は家から出ないこと」


 お茶を飲み干し立ち上がるとスーツを着て身支度を整える。


「準くんわたしがいない間エリカのこと頼めるかしら?いつもごめんなさいね」


 小さいころからエリカの両親が出張のときはよく準や準の家族がエリカの世話をしていた。


「あ、はい」


 優香が出かけて行ったあと準とエリカは二人っきりになった。き、気まずい。とエリカが思っていると準が「うし!」と叫んでエプロンを腰に巻いた。


「さぁ、ケーキ作るぞ」


 思いもよらない発言にエリカは面食らった。


「なにぼけっとしてるんだよ?続きやるんだろ?それとも、もういいのか?」


 準が冷蔵庫から昨日作ったスポンジを取り出しほら、と差し出して見せる。


「わかったわよ。やるわよ」


 エリカは涙をふくと本を出してきて続きを読み始めた。生クリーム、砂糖、果物をテーブルにだし、まずは生クリームを泡立てることにした。ボールに生クリームを入れ砂糖も入れようとした瞬間準が砂糖を持っているエリカの手をつかんだ。


「ストップ」


「何で?生クリームに砂糖入れるって書いてあるよ」


「ちゃんと読んだか?『半分くらい泡立ってきたら』だろ?初めから入れるとうまく泡立たないんだよ」


「うん……」


 素直に手をおろし、一心に生クリームを混ぜ始める。準ちゃんの手大きくて温かかくてその温もりに愛しさを覚えた。

 いつもと違う様子に準は不信感を抱いた。


「怒らないのか?『なに触ってんのよ!』とか」


 そういわれてエリカは、はっと我に返る。今あたし何考えてたんだろ。思い出してみると恥ずかしくなってきた。それを隠すように意地を張った。


「なんでもないわよ!早くケーキが食べたいから一生懸命混ぜてんの!」


「じゃあ、俺のほう見て赤く怒ってるヒマあったら、手を動かしましょうね」


 やさしい声でなだめるも目が笑ってない。


「準ちゃんが余計なこというからよ」


「はいはい」


 テキトーに受け流すと準は泡だて器を持ってるエリカの手を握ってエリカの二倍の速さで混ぜ始めた。

 男の子って力あるんだ。小さいころは腕相撲しても準ちゃんに勝ってたのにな。いつの間にこんな力ついたんだろ………


「はい、泡立った。次はスポンジを半分に切るぞ。おまえ出来るか?」


「あたしを舐めないで。そんくらいできるわよ」


 出来は言うまでもない。右と左で厚さが違っていた。


「次はケーキに乗せる果物切って」


 準がエリカにほい、と包丁を与える。


「ももの缶詰切りにくい。すべるし……くそうっ」


 力任せに切ろうとするのを準が止める。


「猫の手って習わなかったか?もーおまえ勉強できんのにさ何で実技はこうなのかな」


 準はエリカの手を猫の手に握りなおすと一緒に包丁をもって見本を見せた。

 スポンジに生クリームを塗るときもナイフの持ち方を教え見本を見せてからやらせた。


「かっかんせーーーー!」


 エリカが両手を上げると時刻はもう六時を回っていた。


「おまえ夕食はどうすんだ。冷蔵庫の中からっぽだけど」


「コンビニ弁当買うよ」


「久しぶりに家来ないか」


「いいの?」


「妹も姉ちゃんもみんな喜ぶから」


 そうしてエリカと準はケーキを持って準の家へ行った。




 






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