素直
ぐらんぐらん揺れている。おなかになにかきついものを食らったせいか地味にずきずきする。
あれ、あたしさっきまで準ちゃんと………
ぱちりと目を開けると二畳くらいのなにもない空間にあたしと同じくらいの女の子が一人座っていた。見覚えがある。確か
「生徒会長?」
「あら、気づいたの」
彼女はいたって冷静だった。
「ここはどこですか?あの、あたしさっきまで友達といて気づいたらここにいて…いったい何が起きたんですかもう怖い、いやだっ、だれかっ」
エリカは縮こまる。
「まずは深呼吸して落ち着いて。ここはトラックの荷台の中よ。私たちは拉致されてどっかに輸送中ってわけ」
エリカはいきなりの展開に頭がついてゆかずパニック状態だ。
「拉致?ど、どこにですか?なんで?」
「連続失踪事件のニュースは知ってるわよね」
「女の子たちが突然消えるっていうのですよね……ってまさか!」
「そうよ。そのまさか。私たちはそれに巻き込まれたってわけ」
「え?ちょちょっと待ってください。なんで会長はこの状況であたしたちがその事件に巻き込まれたってわかるんですか?なんかにまきこまれた、危険な目にあってるってことはこの状況からわかりますけどこれがその事件とはまだわかりませんよ?」
会長は腕を組んでエリカを鋭い目つきで見る。
「あなたなかなかするどいわね。」
「ま、まさかあ、あなたは…」
エリカは恐ろしくなって体が固まった。
「そうよ」
彼女は獲物を食らうような目つきでエリカを見る。
「犯人?!」
「ちがうわいっ」
ぱしっと頭を叩く音がした。
「私はわざと捕まったの。うちの学校の生徒が何人も拉致られてるから生徒会長として捨て置くわけないでしょ。それにわたしの父は警察でたまたまこの事件を捜査していてね、どうやら拉致られた子はどこかに隠されているらしいんだけどその場所がわからなくてね。それで私がGPS持ってつかまりに来たってわけ」
「怖くないんですか」
「確かに怖くないって言ったら嘘になるけど、今つかまってる子のほうが怖い思いしてると思う。それでなにか私に出来ることがあればする。私が役に立つならなんだってするわ」
その目には迷いがなかった。
「会長は強いんですね」
「強くなんかないわよ。生徒会ってのは会長だけがいてもだめなの。幹部、書記、事務、みんなに私は支えられている。彼らがいないといい案出てこないし、膨大な仕事をさばくことができない。適材適所ってとこかな。それぞれフォローし合っていく。完璧な人間なんていないんだから。頼るところは頼るし、自分でできるところは自分でするもしくは他人を助ける。お互いに補い合って生きているの」
「じゃあ、なにもできない人はどうすればいいんですか。ずっと誰かに助けられてばかりの人はどうすればいいんですか」
エリカは下を向いて考える。私はクラスメイトにいじめられるし、これと言って特技もないし、準ちゃんには迷惑かけてばっかだし。なんのとりえもないあたし。
「そんな人いないよ。その人はまだ自分の魅力とかに気づけてないだけで、必ず何かあると思う。友達とか彼氏に聞いてみたら『わたしのいいところってどこ』って、他人はもう気づいているかもしれなくってよ。逆にあせってなにか特技を身に着けようと焦らなくても毎日生きているうちに自然とわかってくることもあるしあせらないでマイペースで良いと思うよ。」
「彼氏………」
そう口にしてみて一番に頭に浮かんできたのは準ちゃんだった。
エリカ自身びっくりした。あたしが準ちゃんを?まさかねぇただの幼馴染だし
「あれ、あなたもしかして新井エリカ?」
「そうですけど。どうして知っているんですか」
「えーっ新井エリカなんてうちの学校じゃ有名よ。知らなかったの」
エリカにはなんで自分がなんで有名か全くわからなかった。
「このお鈍ちゃん。決まってるでしょ。美人で頭よくて静かだからよ。男子の間じゃ高嶺の花なんていわれてるんだから。彼氏の一人や二人はいるんでしょ?」
会長は聞きたくてたまんないという顔をしてエリカにぐいぐい入ってくる。
「一人はともかく二人はダメですよ!」
「あっれぇ一人ってことは気になる子でもいるのかな。この生徒会長が恋のアドバイスをしてあげようか」
もう完全にエリカは会長にいじられていた。
「いないわけじゃ……ない……けど…」
エリカは会長から視線を外し赤くなった顔を見られまいとした。
「けど?」
「そいつとは幼馴染ってだけで!べっべつにあいつのことなんか……だいたい口悪いしバカだし、のーてんきだしあたしのことバカにしてくるしあたしのほうが頭いいのに!だ・か・ら!あいつの事なんてきらいなんです!」
エリカは勢いで話終えると口を頑張ってとがらせていたが心臓がばくばくしていた。なんでだろう準ちゃんの事考えるとなんか調子狂う。『準ちゃんのばか』と心の中でつぶやいた。
そんな様子を見ていた会長がくすくすと笑った。
「な、なんですか」
「いいや、なんかこうもっと素直になればいいのになって思って。ようは彼の事、気が置けないんでしょ?」
エリカは何も返す言葉が見つからなくて頭が沸騰していた。まさかあたしが準ちゃんの事をそんなことあるわけない!ない!ない!ない!ない………
「図星☆でしょ」
急に車が止まってガチャリと前のドアが開いた。
「どうやらついたみたいね」
さっきとうってかわって会長の声と目が真剣になった。しばらくしてあたしたちの乗っている荷台のドアが開く。陽の光がまぶしい。
「おまえら、降りろ」
そういわれてつれていかれたのはとある倉庫だった。