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暗闇

 私には友達なんてそんなものはいない。

私はハーフで青み帯びた目に毛先がカールした髪が白肌に映え、まるで外国人のお人形のような外見をしている上、勉強ができたので何かと恨まれることが多かった。それに耳が聞こえないので障害者だといじめられている。

いじめるやつなんて大抵が自分が相手より優位に立っていることを確認しなければ生きていけない弱いやつか自分の責任を他人にすり替えているやつなんだ。だから好きにやらせておけばいい。

そんなことを教室の窓から見える空を仰ぎながら考えていると六時間目が終わり私はそそくさと帰路についた。

 住宅街を歩いていると後ろから声をかけられた。びっくりしてはじかれたように振り向くとそこには日焼けした肌に白いエナメルバックをしょった小学校からの幼馴染、準ちゃんがいた。


「エリカ………」


 何を言っているかは口の動きでだいたいはわかる。


「今日はサッカー部ないの?」


 私は気まずかったけど何もなかったことを装って話す。


「ああ、今日はな。もう中三のゴールデンウィークだし受験勉強始めなきゃな。いいよなおまえは学年トップテンで優秀だからよ」


「そういう準ちゃんはワーストテンだっけ」


 エリカが意地悪く言うと準は俺はやらないだけでやればできる子だし、とすねてみせる。

昨日見たドラマの話やなんだわいわい話しているとT字路に差し掛かった。


「後で頼まれてたみかん準ちゃんちに持ってくね」


 準ちゃんの顔が一瞬曇ったようにエリカには映った。


「準ちゃん?」


「ああ、いや何でもない。じゃ、後で」


 お互い手を振って別れた。


★★★


 時は中二の頃、給食の時間が終わり掃除の時間となった。私はほうきをはいて机を運ぶと日直なので最後のごみ捨てに出かけようとした。


「エリカ、教室で待ってるね」


「うん」


 このころ私は一部の男女からいじめをうけていたがまだ数人の友達がいた。

息を切らして階段を駆け上がり最後のごみ袋を教室に取りに行こうと廊下をまがった瞬間



べちょり



 視界が真っ暗になって顔一面に湿った臭いにおいが広がった。何が起きたかわからずとりあえず顔を覆っている湿った臭いものを手に取るとそれは使用済み雑巾だった。すぐに友達が駆けつけてきたくれた。そして深刻な顔で私に向けて口をぱくぱく動かしている。


「エリカ大丈夫?」


「………」


「あの男子たちなんて気にしなくていいんだからね」


「………」


 きっと私を心配しているんだろうなということはわかる、でも何を言っているのかさっぱりわからないのでみんなの顔を見つめ返すことしかできなかった。

 そう、これが私の耳が聞こえなくなった瞬間だった。

 声をかけても反応しないのでさすがにまずいと思った友達は私を保健室に連れて行き、しまいには救急搬送された。

 原因不明の難聴だと診断され、数日後学校に復帰した。外人呼ばわりされていたのに加え障害者というレッテルまで貼られいじめは拡大し、エスカレートしていった。最初友達は気を使ってくれたがなかなか意思疎通ができなくなり、私もエスカレートするいじめに耐えられなくなってきた。

 難聴になってすぐに試験期間が迫っていた。

 そんなある日のお昼休み屋上でのやり取りで事は起こった。


「そろそろ試験ジャン、やばいまじ終わったわー。なんもやってない。気分は地獄だわー」


 屋上の日陰に三人輪になって座っていた。


「ほんとつらいよねぇ。」


「まじつらいわー、つらいわーやってらんないわー」


 私はこんな些細な友達の愚痴にさえ敏感になってしまっていた。


「そんなんで辛いとかなんなの」


「エリカ?」


「耳聞こえて普通に生活できて、いじめられてないだけまだましだよ。好きなこともできて毎日楽しく生きられて、五体満足で友人にも恵まれてるあんたたちがそんなこと言わないでよ」


 手に力が入って持っていたペットボトルがぺこりと音を立ててへこんだ。

 友達は私のほうを振り向いて驚きの表情で眺めていた。


「エリカが辛いのはわかるけどそれ言いすぎなんじゃない?わたしたちにだって辛いことあるし」


「じゃあ、試験と耳が聞こえなくなるのとどっちが辛い?」


 しばしの間沈黙が流れ一人の友達がため息をついて吐き捨てるように言った。


「いろいろ面倒見てやってるのにそれなくない?自分だけかわいいからってそんな不幸ぶらないでよね。まじ腹立つ。じゃ、あとは一人で頑張ってね。うちらもうあんたのこと面倒見ないから」


 このときから友達が消えた。準ちゃんを除いては。

準ちゃんは私が一人でいるのを目にすると紙とペンを持って近づいてきて筆談をしようと言ってくれた。ノートも見せてくれたし、私が教室で一人泣いてる時も励ましてくれた。弱音や愚痴も黙って聞いてくれた唯一の友達だ。

 私は聞いてしまった。ある日の帰り道準ちゃんを見つけたので一緒に帰ろうと声をかけようと駆け寄ろうとしたとき準ちゃんの友達が準ちゃんに駆け寄った。何を話しているのか気になって耳を澄ましていると衝撃の言葉を聞いてしまった。


「俺はもうエリカといるのが限界なんだ………」


 限界ってどういうこと?言っている意味が分からなくてその衝撃の言葉に息を呑んだ。

私にノート見せたり筆談してくれたりいつだって笑って接してくれるのに。

なんでだろう?私何かしたかな………

思い当たる節があった。メールで

「なんで私だけがいじめられなくちゃならないの」

「なんでハーフだからっていじめられなくちゃならないの」

「私の辛さ誰もわかってくれない」

「もう生きてるの辛いよ」

「私なんて死ねばいいんだ」

「私なんて生まれてこなければよかったんだ」

「誰にも必要とされない」

「私のせいでみんなを傷つけた」

 準ちゃんの優しさに甘えてこんなこと言っちゃった。こんなメールううん。こんな言葉言われたら迷惑だよね。なんて返せばいいかわからないよね。

 もうこれ以上準ちゃんに迷惑かけちゃだめだ。


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