序章① ジャキとハリス
「この国は滅びなければならない。」
「何をおっしゃっているのですか。殿下!」
「わしは道を誤ったのじゃ。………道を、な。」
「いえ、間違ってなどおられない。大業を成すには、修羅の道を歩まなければならないのです。例え、今民衆に憎まれようとも蔑まれようとも、その孫子の代にはきっと、あなた様の目指した理想が成された時にはきっと。」
「きっと、わしは崇められると?」
「はい。」
「わしが死に、石像が建てられ、皆が語り継ぐのか。オレガンドのハリュウ王は偉大な王だったと。」
「はい。そうです。」
「確かにな。未来の為に今を犠牲に出来るのが、人間だ。しかし、しかし、……」
「ジャキ様、ジャキ様!早く起きて下さい。食事の最中に寝るなと、何度言ったら分かるんですか。」
「ふああっ。うるさい!………寝かせ、てくだ、ふぁい。」
「あーもー、起きなさい。」
白髪の青年が、主人と思しき少年の胸倉を掴み、力の限り揺らした。
そして更にまくし立てる。
「そのせいでど・れ・だ・け厄介なことになったか!この国がどんな国なのか説明しましたよね?」
「二ヒヒ。」
「ジャキ、起きろ。この野郎っ!!」
従者ハリスは、主人ジャキを殴り飛ばした。そして、吹っ飛ばされたジャキは分厚い石壁を突き破り、頭部だけがハリス側からは見えなくなった。簡単に言えば、壁に突き刺さった状態だ。
「えっと、どうしたのかな?少年。」
壁向こうで、ジャキと目が合った男が話しかけてきた。
「私か?私のことが聞きたいのか。面白い。最悪な寝起きなのだが、そこまで言うなら仕方ない。」
「いや、別に君のことじゃなく、この状況をだね………」
「私はこの世界の全てを知り、統一する男。そう、我が名はジャ………」
「至急応援を要請します。少年が一名脱走を図っている模様。頭を強く打ちつけており、何を仕出かすか分からない。注意されたし。」
「ふっ。そうか私のことなど聞かなくとも知っていると申すのか。まあ当たり前のことか。………どうせ貴様は、私が無視されて傷付いていると期待してるんだろう?そんなことないからねメンタル強いから。ちなみに私の名前はジャ………」
「早く、独房に戻れ。」
「さっきから聞いてれば、脱走とか独房って。………えっ、どういうこと?それ」
「ここはロウリクトの第141刑務所。お前は囚人だ。」
ここで初めて周りを見渡し、ジャキは自分が置かれている状況を把握した。
「フハハハハハッ!面白い。」
「囚人番号1758!大人しく戻れ!!」
新たな看守の怒号が独房に響く。すでに銃を持った複数人にジャキは囲まれていた。もう大勢の看守が集まっている。だがそれは、彼らには喜ばしいことだった。
「ハリス。貴様、役立たずだな。私が寝てるなら一人でどうにかしろよ。」
「寝てるジャキ様がいけないんじゃないですか。」
「まあいい。もう済んだことだ。」
2人は既に脱獄を完了していた。創造のジャキ、破壊のハリスには容易いことだ。ジャキが自らの複製を創造し、それに注目を集めさせておく。そしてその隙にハリスの無音パンチで穴を開け脱出、という訳だ。