次世代人とは何か? その1
左手に野球のグローブを着けた少年がこちらを向いて、立ちすくんでいる。おそらく、初対面の筈。ん~、どうなんだろ。多分、小学生だよ、ね?周りに友達らしき子、……見当たらないな。1人ぼっちでキャッチボール?こんな土手じゃ、壁当て出来ないのにな。
なんてスローペースで考えていても、この子は依然棒立ちのままだ。なんかこそばいので、私は声を掛けることにした。
「なんか、私の顔に付いてる?」
普段なら、この言葉には100%の確立で、こっち向いてくるな(以下暴言が続く。)という強い思念が込められている。けど、今は疑問でいっぱいの、純粋な問いだ。
「あ、ああ゛、、、。」
ん~、会話が成立してない。そして、この子の目からは動揺の色が消えない。それに、なんだろう。重要なアイテムが無いんだよな。ああ、ボールだ。はっ!も、もしかして、エアーボールで、エアーな相手とエアーキャッチボール、だとっ!こんな昼下がりから、この子、泣かせに来過ぎっ!!
「ボっ、ボール。お姉さん、ボール。」
ま、さか。自分が妄想り上げたエアーボールを、現実に引っ張って来ようとしているのか?ここで、私が有る筈の無いボールを、それっ少年!、いっくぞ~!、的な感じで投げ返すのを期待しているとでも言うのか?この少年、侮り難しだよ。
「あ、頭が。」
エアー道皆伝の少年は、私に何かを伝えようと、更に言葉を繋げる。自然と頭に手を伸ばしていた。そこで、気付いたのだ。この子がたじろいでいた理由に。それは、奇怪さだった。ボールによって、頭が凹み、受け皿の様になっていた、私の頭の。
咄嗟にボールを掴むと、フルスイングで遠くに投げ飛ばした。
「・・・・・・あっ、怪物ねーちゃんが僕等のボールなげちゃった・・・。」
少年は状況を飲み込むのに時間がかかった。その隙に急いで帽子を被り、この場を離れた。
油断していた。その言葉に尽きる。もう当たり前のことになってしまっていたのだ、脳みそを失ってもなお生き続ける自らの異常が。今までに聞いたことのない呼吸をしていると自覚した時には、既に家の玄関の鍵をかけ終わった後だった。そして、冷や汗や脂汗だけではなく、私の語彙だけでは表し切れない程様々な汗にまみれた自分がいることを、ようやく認識した。
シャワーを浴びよう、いや、浴びなきゃ、そう思った。なのに、すぐに風呂場へと向かうことがどうしても出来なかった。背徳感が体を支配していたからだ。自らの犯罪を隠しているように感じた。どうにかしてシャワーを浴びることの正当性を知って貰いたかった。だから、外出して汗かいちゃったから、シャワー浴びるねって、そう言うだけで良いのに、私は母親に創作や改変も含めて今日の出来事を話していた。室内で帽子を被りながら、汗を垂らす私を、母は怪訝そうな顔で見ていた。そして段々と母の返答が命令へとシフトしていった。今すぐ、お風呂に入ってきなさい。それを耳にした時の私は、幾許かの達成感さえ感じていた。もう、不安感が汗となって流れたいったのだ。私の知らない汗には、そういう代物があるらしい。そしてようやく念願とでも言うべき、聖地に足を踏み入れた。
拍子抜けだよ、ホントっ!
そう叫びたくなった。意外にもすぐに直ったからだ。髪の毛を思いっきり引っ張ると、元通りになったのだ。