ルーク Ⅰ
------昔々、この世界にまだ国というものが無かった時代があった。しかし、人々は今よりも協力しあい、幸せに暮らしていたと言う。そんなところに僕は生まれたかった------
1人の少年と、1人の魔人が、およそ似つかわしくない場所で歩を進めていた。決して安くはない程度の服を着こなす12歳の少年ルーク。そして、召し使いのような服を着崩し、卑しき笑みを携えた齢不詳の魔人ナナシ。彼らはこの世の金が恐ろしく無意味に動く渦中の中に居て、唯一つの場所を目指していた。そして、ルークはその歩みを確実な意思をもって止めた。
「ここのようだね。伝説の詐欺師セルフィードが経営するカジノってのは。」
「ん?何故分かるんだい?おいら達が知ってるのは、13人の悪人の中にセルフィードがいたって事と、そいつが今となっちゃ、この街のカジノで稼ぎに稼ぎまくって、うっひょーって事ぐらいじゃね。」
そう言いながら、魔人ナナシは、金貨で満たされたプールで水浴びをしているかのようにおどけてみせた。
「…君のその、良く言えば陽気な性格ってのはさ、装っているだけなのかい?下向きの性格だと、目線も下向きになるんだと、僕はそう思っていたよ。」
溜息混じりに、ルークはそう言った。無論、陽気ではない彼が人よりも上を向いているのは、幼く背が低いからだ。
「詰まる所、おい根暗ア、上を向け、っちゅうことですかい。」
ナナシは自らの髪を掴み、引っ張ることで目線を上に上げた。そして、何かを確認すると、片方の頬を普段より更に吊り上げた。
「…………ははっ、なるほど。分からない方がおかしいって訳か。じゃあ、早速行きましょうぜ。伝説様の住む、カジノ“セルフィード”になア。」
ナナシが先を歩こうとした途端に、ルークは声を荒げ奴の進行を妨害した。
「言わなくても分かってる。ナナシ、行くぞ。」
「へいへい。まあ、おいらはいつも通りやるだけ……だわな。」
その扉は誰しもを歓迎する訳ではない。なら、何を持って、正式なゲストとして客を招き入れるのだろうか。人種?国籍?性別?年齢?………否。金だ。それを踏まえて彼らを見てみよう。それがあるように見えはしない。当然、スーツを来たボディーガードが行く手を阻む。
「ここは、お前らのような貧乏人が来ていい場所じゃない。」
ルークは笑った。心の中で、心の底から、震えて、笑った。この先の展開が楽しいからだ。見下していた相手が、自分よりも高い場所に居たことを知って、この屈強な男はどう思うだろう。そうやって考えを巡らす、それだけで、ルークは楽しいのだ。
「そうか、ならこの店に来てる客は、命よりも重い苦痛でもって賭博してるのかな?」
ナナシが鞄からカードを取り出した。彼は今まで鞄など持ってはいなかった。しかし、彼は肌身離さずその鞄を持っていたのだ。
「このカードを知ってるかア?」
その筋肉男がそのカードを実際に目にするのは初めてだろう。しかし、男はそれが放つ危険な香りを確かに嗅ぎ取った。すぐさま視線を外し、VIPを通す先に案内した。
「おい、いいのか?」
もう一人の門兵が問う。
「知らないのか?あのカードは、王族しか持てないものだ。」
焦りが抑えきれず、言葉が震える。
「なっ、奴ら、そんな身分だったのか?」
到底そうは見えなかったと驚く。
「いや、普通なら、王族しか持てないんだ。普通なら!でも、俺はこう見えて熱心な信奉者だから分かるんだ。」
「何がだ?」
「奴らは道を外れてる。外道だ。」