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その4

「高橋敬之助さんは・・・」

 滝原が沈黙をやぶり、切り出した。


「もういい。」

「そうですか。」

「要はみんな死んじまったってだけだ。」


「滝原、お前はどうなんだ。お前の家族は。」

「私の家族も一人残らず死んでおりまして、誰も残っておりません。」


「お前独身だったっけ?」

「いえ、ビルさんが定年した翌年くらいに結婚しました。」


「まあ、50年だか60年だか前の話だろうから、奥さんも子供もいい年だろうな。」

「ええと、私の妻と子供はもうとうの昔に死んでしまいまして・・・」


「子供もか。そりゃ知らないとはいえ悪ぃことを聞いた、すまん。」

「事故でして・・・」


「そうか・・・」

「まあ、もう昔も昔、大昔の話ですよ。」


「再婚なんてのはしないのか。」

「またすぐ死ぬのに?」


「すぐにっておまえ・・・そうだな、死ぬな。人間なんて短かけりゃ何歳でも死ぬし、長くても80年あればすぐに死ぬ。」


「私の話をさせていただきますと、不老不死と富を得てからしばらくは、そりゃあ豪遊しましたし、好きなことを好きなだけやりましたが、10年ほどで飽きてしまいました。

 ちょうどその頃私の親族がだんだん死んでいき、なかには貧窮の中で最期を迎える方も多々いたため、経済的な支援をしていたんです。

 そういうのを繰り返すうちに昔知り合った人たち全員を調べて支援していこうかな、と思い立ちまして、これがまた案外、そうですね、言葉を選ばずに言わせてもらうと楽しかったんですよ。」


「お前の趣味が人助けで、助かった人もたくさんいたろうな。まあ、なんていうかお節介なのかもしれんが、良い趣味のうちか。」

「自分では悪趣味だと思っていますけどね。」


「お前の実家なんてどうなんだ。」

「私が生まれ育った家は今はビル街に埋もれています。今やどこからどこまでが私の家の区画だったかさえ定かじゃありません。」


「再開発されたんだな。」

「両親が移り住んだ家も今は商業施設になっていて跡形もありませんね。」


「そりゃなんだかさみしいな。」

「私が通った幼稚園小学校中学、全部廃校になって今は何かのコミュニティセンターになっています。高校も統廃合で校舎はそのまま使われていますが、私が通っていた頃の面影はありません。」


「まあ、60数年あればそうなるかもなあ。」

「ま、この辺はどなたもだいたい同じようなところです。」


「親族は全部死んだって言ってたと思うが、血筋は残ってんのか?」


「そうですね、私の甥っ子の家系が残っているといえば残ってますかね。でも流石に離れすぎていて私も知りませんし、相手方も私のことを知りません。もっとも不老不死で40代の曾祖父くらいのオッサンなんかが現れたところで誰も信じてくれないでしょうし。」


「それもそうだ。」


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