お題:天気
初めての小説投稿です。
お題は天気でしたが、今日は学校から帰る途中が大雨だったため、雨の日の話にしました。
結構ありがちな文章や表現が多いと思いますが、一応全て自分で考えた文章です。
短いですが、読んでってください。
雨が好きだ。
他の全ての音をかき消すような雨音、全てを濡らす雨水、雨の日特有の泥の匂い。
その全てが好きだ。
泥の匂いは、僕を肯定してくれる。泥に塗れた僕と、綺麗な《彼ら》が、同じ場所にいるような気がするから。
全てを濡らす雨水は、僕の自尊心を救う。僕が分不相応に流している涙を、《彼ら》に悟られずに済むから。
そして何もかもをかき消す音は、僕に歪んだ勇気をくれる。僕が何を言っても、《彼女》に届く前にかき消してくれるから。
僕は今、僕の好きな子の隣で歩いている。
空は灰色の雲が水平線まで覆い尽くし、土砂降りの雨が降り続いている。
彼女は僕の貸した折りたたみ傘をさし、僕とは人一人分の間を空けている。
なぜ空けているのか。それは、僕が彼女に告白する前に振られたから。
彼女には、彼氏がいる。
相手は、僕の親友だった。幼なじみの彼女よりは付き合いが短いが、それなりに長く付き合っている。彼らは去年の暮れから付き合い始めていたらしい。そして彼女は今日、とても幸せそうに僕に報告してきたのだ。
彼女は僕の幼なじみだった。だから、ずっと2人でいれるんだと思っていた。幼なじみだから、告白なんてしなくても彼女には僕の想いが伝わっているんだと、そしてそれでも一緒にいてくれるんだから、彼女も僕と同じ想いなんだと、そう思い込んでいた。
しかしそれも所詮は思い込みでしかなかった。彼女にとって僕は幼なじみ以上でも以下でもなく、幼なじみだから一緒にいてくれただけだった。僕の気持ちを知っていたわけでも、ましてや同じ気持ちだったわけでもなかった。当然だ。僕だって、彼女の考えてることどころか、二人が付き合っていることすらわかってなかったんだから。
彼女の行動を自分の都合のいいように解釈して、その妄想を押し付けている。最も典型的な最低男。それが僕。
何より僕が最低なのは、未だにこの身勝手な恋心に諦めがついていないこと。身勝手な想いだとわかっているのに、親友から横恋慕しようと考えてしまっている。僕から彼女を奪った(僕の脳内ではそう思っているみたいだ)あいつを、そして自分以外の人間の隣で幸せそうにしている彼女すらも、憎いとすら思っている。
今だってそう。彼女に折りたたみ傘を貸して、彼氏に悪いからと一人分間を空けているのは、本当にそんな自己犠牲の精神でそうしているわけではない。わざと面積が小さい折りたたみ傘を貸して、自分はドブネズミのように濡れて、哀れみを誘っている。彼女は、風邪をひくから一緒に入ろうと言ってくれたが、あいつに悪いの一点張りで固辞した。僕の声が聞こえないように、僕の涙がバレないように、そんな利己的な計算の元、この距離を保っている。
今後、この距離が再び縮まることは無いだろう。むしろどんどん広がっていき、やがてはそれが普通になっていく。
僕は泣いている。大好きな彼女から離れるのが寂しかったから。彼女がそれに気づくことはない。この距離は、彼女に気づかれないために空けているんだから。
今日が雨の日で良かった。もし晴れの日だったなら、僕の狂った悲壮感と憎悪は、文字通り白日の元にさらされていただろう。でも今日なら、雨の日の今日ならばきっと僕は、綺麗に別れることができるはずだ。今日1日を乗り切れば、あとはこっちから距離を取ればいいだけだ。
「…あ、ーーーくんっ」
彼女の言葉はなぜか一部分だけ聞き取れなかった。おそらく、あいつの名前を呼んだのだろう。僕はもう、親友だったあいつの名前も認識出来なくなってしまったのだろうか。
好きの反対は無関心。僕の脳は、既にあいつを好きの対極に持っていこうとしているのだろうか。…いや、ただ雨音で聞き取れないだけだろう。
彼女はそのままあいつの元にかけていった。僕は、あいつを見ないように、彼女の後ろ姿だけをみつめて、決別するための言葉を発した。
「ずっと、あなたのことが、好きでした。さようなら」
そう言って、どうせ聞こえてないだろうと、踵を返そうとしたとき。
「あっ」
声が聞こえた。
思わず振り返ると、
彼女が、走ってくる…?
まさか
まさかまさかまさかまさかまさか
聞かれていた…なんて……っっ
「はいっ、これ、貸してくれてありがとっ」
そう言って、無邪気に傘を返し、こんどこそ、彼女の居場所に戻って行く。
僕の手は、無意識に彼女に伸びていた。彼女とのつながりを求めるように、運命の赤い糸を手繰り寄せるように、手を伸ばす。しかしその手が彼女を捉えることはなかった。
あいつの傘に入り、僕に向けた何倍も幸せをそうな笑顔をあいつに見せている。
「……ぁ…」
ふざけるな。
今、僕はなにを考えていた?
さっき、完全に決別した筈なのに。
彼女が僕のところに走って来るのを見て。
無邪気な笑顔を向けているのを見て。
僕は、また、彼女に。
期待していた、なんて。
「あは…は……」
声だけで笑ってみたが、生憎僕の表情筋が笑顔を形作ることはなかった。
右手に持った傘を見る。
この傘は、僕と同じだ。
あいつの傘に入る彼女に、僕の傘は不要で。
あいつと幸せになる彼女に、僕は不要なんだ。
彼女のおかげで、今、はっきりと気づけた。
もう、なにも言わない。
僕は今後こそ踵を返した。
もう、涙を隠す相手はいない。
彼女に返された折りたたみ傘をさして、帰り道を歩く。
僕が本当に失恋したのは、彼女たちが付き合い始めた時でも、彼女が報告してきたときでも、僕が決別したときでもなく。
この傘を返された、その瞬間だったんだ。
前言撤回。やっぱり、雨は嫌いだ。
自分的に書きやすいバッドエンドの物語から入ってみました。
友人と書いてた時も恋愛モノは書いたことがなかったので、特に感情表現が下手なのを実感しています。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます