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八十一日目

 今朝の出勤前に新聞でちらっと見たニュースで、米国との貿易が一部再開されていたことを知った。何がどの程度輸入されているのか見当がつかないけれど、元のように市場の混乱が回復する程十分な量では無いだろうから、きっと今の先の見えない価格高騰に歯止めはかからないんだろう。

 あちこちの店の品薄状態ももはや日常茶飯事と化してきている。五月よりはだいぶ減ったけれど、ストレスの溜まった青年らが起こす暴動騒ぎも未だ勃発しているようだし、せめて物だけでも不自由無いように戻ってほしい。

 いつまで経っても働こうに働けないんじゃ、給料も期待できないしいつか何も買えなくなりそう。この、見方によって混んでいるとも空いているとも取れる電車内で、私と同じように片手で吊革に掴まり携帯を見つめながら乗っている人達も、きっと同じような心配をしてるのではないかな。


 私の目の前の座席で小難しい顔をして携帯とにらめっこしていた男性は降りるのが私と同じ駅だったようで、着いてドアが開くと人の流れに乗ってホームに吐き出された。


 今日も会社に入ると荷物をロッカーにしまい、そそくさとデスクに移動する。数件来ていた仕事のメールに目を通し、昨日の仕事の続きをする。

 十時ぐらいになると、先週の営業報告が届いた。来店者数は二十人。はは、キリが良くていいね。毎年この時期は秋の期間限定メニューを試作している頃だけど、この分じゃ冬になってもメニューを増やすのは無理そうだ。


 昼休みになったが、今朝からそこまで空腹でもなかったので昼食をとろうと思ってないから、休憩をとるだけにする。今朝のニュースの続きを調べる前にちょっと携帯を開いてみると、たった今なぎから着信が届いたところだった。


『海に行くことについて家族や先生とも話してみたんだけど、二人が良いなら行くことにする。渚が行きたいならどこへでも行っていいって言ってくれたし』


 なぎは真剣に悩んで考えてくれたんだ。じゃあ絶対海行かなきゃね。


『分かった。じゃあ海行こうね。場所はまだ考えているから待ってて。遠くには行かないから。日付は二一日か二十二日でいいかな?』


 お盆休みを確認してみたら、十九日から二十三日までだったからだ。一般的なお盆休みより一週間ずれていることになるから、きっといつ行っても混んではいないだろうけれど、どちらかというと平日に行きたかった。なぎも人が少ない方が良いだろうし。

 返信した後は、暫くニュースの続きを読んでいた。中国や豪州からの輸入も、来月中には再開する見通しがたっているらしい。まだ確定したことでは無いけど、これなら物価も安定してくるのかもしれない、と今朝とはうって変わり良い方に解釈してみる。

 その間になぎから返信が届いていた。


『その二日間ならいつでも行けるよ。決めるの任せちゃってごめんね』


『いいってこのくらい。ふみちゃんもいるしさ。決まったらまたメールするから、それまで楽しみに待っててね』


 最後に笑顔の絵文字を入れて、送信した。そして携帯をしまうと、検索バーに、アバウト過ぎるとは思ったけれど『海水浴 関東』と打ち込んで検索をかけてみる。案の定膨大な量の総数と、観光の検索サイトが検索結果のトップページを埋めていた。いくつかページを飛ばすと、人が多くて有名な海辺の名がいくつも画面に表示された。もう少し知名度の低い穴場的な場所は無いかと、またページをいくつも飛ばして探していたけれど、昼休みが終わりそうだったので諦めた。画面から目を離し周囲を伺うと、殆どの人が既にデスクについていた。


 昨日の残りと今日のノルマを消化し、今頃やっと来た製麺所からのメールに断りの返信を送り、定時であがれた。今日もふみちゃんと帰ろうと思い、隣に目で合図したら、


『矢衣先輩と話してから帰るから、先に帰ってて(>_<)』


と書かれた、リアルな蛙の柄のメモ帳を、顔文字そっくりの顔で渡された。ふみちゃんって蛙好きだったんだと違うところに感心して、ロッカーから荷物を取り出して会社を出る。夕陽に照されながら、駅を目指す人の流れに合流する。電車内で夕陽の見える海も良いかもと探してみると、三浦半島がヒットした。近場だし良いんじゃないかな。明日にでもふみちゃんに聞いてみよう。

 そういえば夕飯何にしようか。冷蔵庫に何が残ってたっけな。スーパー寄って帰ろうかな。肉とかあると良いんだけど。

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