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4 老婦人と試験

 神父様の言う通り、祖母の名を出した途端に態度が変わった。


 やはり先祖返りは優遇されているのだろうか。


 疑問と不安が入り混じりながらも受付の人が戻ってくるのを一人心細く待った。


 しばらくすると受付の人は一人の老婦人を連れて現れた。


「貴女がナーニョ?」

「は、い。ナーニョ・スロフ、です」


 私は老婦人を見た瞬間に身体が震えた。


 その老婦人は猫耳を持ち、母の面影を映していたからだ。


 彼女も私を見るなり驚きを隠せないでいるようだった。


「ナーニョと言うのね。サーシャは、こんなに可愛い子供を産んでいたのね。何故連絡してこなかったの?」

「……国王軍の豹の獣人さんが伯父さんに連絡を取ってくれたようなのですが、私達を家に迎えるのは難しいと言われてそのまま隣村の教会で孤児として生活してきました」


「……そう。ガロね。息子のことは後でいいわ。とりあえず、試験を受けに来たのでしょう?」

「はい! 受けさせてもらえるのですか?」

「えぇ、試験は厳しいわよ?」

「受けます!」


 どうやら祖母は今でも軍で魔法使いとして働いているようだ。


 そして母が亡くなった事も知らなかったのかもしれない。


 長年孤児としてローニャと教会で暮らしてきた私にとっては、家族は居ないものだと思っていたし、今も思っている。


 ローニャと二人で生きていくためには私が試験に受からないといけない。


 その覚悟だけでここまできた。

 今はただ試験を頑張るだけ。

 私は胸元の指輪にそっと手を触れる。




 私は祖母と受付の人に案内されて訓練場にやってきた。


 訓練場はとても広く、訓練を受けている軍人が大勢いた。

 私達は彼らを横目に訓練場の一角で試験を受ける事になった。


 魔法使いの試験を受ける人は多いのか私を見るなり、訓練を止めてニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。


 皆大なり小なり魔法は使えるのだから魔法使いになるような者はほんの一部だ。


 試験を受けに来た者を馬鹿にしてきたのだろう。


「外野がうるさいわね。まぁ、いいわ。ナーニョ、指輪はどれを使う?」


 祖母が出した指輪は全て攻撃魔法の描いてある指輪がいくつもあった。その中で一つ見知った形の指輪があった。


 ターフィルの指輪だ。


「ターフィルの指輪を使います。でも、私の持っている指輪を使っても宜しいでしょうか?」


 私はネックレスから母の指輪を出してはめてみせた。祖母は母の指輪を見て言葉に詰まった様子を見せた。


「……それは、サーシャの指輪ね。いいわ。許可しましょう。ではあの的に魔法を当てて頂戴」


 私はその言葉にうなずき、的に当てることに集中する。


 お母さん、私、頑張ります。


 胸に手を当ててからゆっくりと魔力を指輪に注ぎ込む。


「ターフィル!」


 すると指先から数十の水刃のナイフが現れて的に刺さっていく。


「おーこれはすごいぞ」


 その様子を見ていた軍人たちから歓声が上がった。祖母も受付の人も表情は変わらないようだ。


「数を見ると中々魔力がありそうね。でも三本ほど的を外れたわ。もう少し鍛錬が必要ね。では次、この指輪を使って回復させなさい」

「はい」


 祖母が箱の中から取り出したのはヒエストロ(範囲回復)の魔法が刻まれた指輪だった。


 範囲魔法は初めて手にする指輪だ。


 私に上手く出来るだろうか。


 初めての指輪に不安がよぎる。


 母の指輪をネックレスに戻し、ヒエストロの指輪をはめ、周囲をよく観察し、確認していく。


 ここに居る人は私を含め三十人はいる。


 自分を中心として半径十メートルで足りるだろうか。

 効果はどれくらいを要求されているのか分からない。


 村のおじいちゃん達はいつも古傷をさすっていたわ。私の魔法の効果が上がり、古傷まで癒えているととても喜んでいた。


 あのおじいちゃん達のように彼らもずっと魔物と戦い続けている。傷も多いだろう。


 私はまず指輪を通して魔力を流しはじめた。


 半径十メートルの中にいる人の魔法の通り具合を確認する。一人、二人はどうやら今現在も怪我を抱えながら訓練していたようだ。殆どの人は古傷といって良い程の傷がある。


 全てを確認し終えた後。


「ヒエストロ!」


 呪文を唱えた。攻撃の指輪よりも回復の指輪の方が無駄なく魔力を使えている気がする。


 元々回復魔法が好きだし、毎日のように使っていたからかもしれないが。


 魔法は波紋を描くように光が人々を包んでいく。それと同時に魔力の消費もある。五分の一まで減ってしまっただろうか。


「おぉぉ!!! これは凄い!!」

「すげぇよ!」


 先ほどまでの揶揄うように見ていた軍人達の表情は一変した。誰もが興奮状態になっている。


「見習いシスター、すげぇよ! 俺の専属にならないか?」

「いや、俺の嫁に!!」


 軍人達がワラワラと私の元へやってこようとした時、


「下がれ! 試験中だ」


 祖母は厳しい教官さながらの声で軍人達はパタリと動くのを止めて敬礼した。


 すぐに訓練場に居た別のリーダーが駆けつけて試験の見学は中止となった。


「ナーニョは回復魔法が得意のようですね。では次、筆記試験に移りましょう」


 祖母は顔色を変えることなく受付の人と一緒に室内へと入っていった。私も速足で祖母たちの後をついていく。


 会議室のような部屋に通された私は一人席に座り待つ。その間も祖母は表情を変えず一言も話すことはないようだ。


「では今から筆記試験を行います。書き終わったら手を挙げて下さい」


 渡された問題は神父様から教えられたものばかりだった。


 大丈夫これなら全部解けるわ。


 サラサラと書いていく。何度か見直してしっかりと自分の名前も確認した。


「書けました!」


 私は手を挙げて受付の人に渡す。


「……できたのね」


 祖母は変わらず低い言葉でぽつりと呟いた。


「試験はここまでです。結果は三日後になりますので、三日後にまたここ国王軍事務所へ来てください」

「分かりました」


 受付の人は笑顔でそう話をするが、祖母の顔色は最後まで変わることはなかった。


 私は受付の人に一礼し、元来た道を戻る。


 私は全力で取り組んだ。

 お母さんの指輪を使った攻撃はやはりまだまだ甘くて三本もナイフを外してしまった。


 それにあれだけの人を回復させたけれど、もっと丁寧に回復させないといけなかったのかもしれない。頑張ってみたけれど、まだまだ課題はある。


 だから祖母の笑顔がなかったのかもしれない。


 建物を出た時にようやく緊張が解けホッとした。祖母が魔法使いであればもしかして私は拒否されるかもしれない。


 だって叔父さんからはあの時、拒否されたもの。祖母にとっても迷惑なものでしかないよね。


 縁故採用なんてないよね……。


 私はトボトボと足取り重く歩き始めた。


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