3 将来は魔法使いに
時は過ぎてナーニョは十五歳になった。
来年は成人を迎え、教会を出ていく歳になった。
私は魔法使いになろうと考え、大きな街に出ることを神父様に相談したら神父様もシスターも賛成してくれた。
神父様は連絡も取っていなくても先祖返りした祖母を持っているのであれば国王軍の受付は話を聞いてくれるだろうと言っていた。
もちろん私の就職が決まればローニャも一緒に街に出る。
ローニャも今年で十一歳になり、身体はまだ小さいけれど殆どのことは一人で出来る。
あと一年。その間にする事も多い。
「神父様、行ってきます! ローニャいい子にして待っていてね」
「気をつけていくんじゃよ」
「お姉ちゃん、早く戻ってきてね」
私は王都から来た若い聖騎士様に連れられて王都の教会へと向かった。
魔法使い志望の私は国王軍の試験が必要になるため、神父様かシスターと一緒に王都へ向かうのだが、神父様もシスターも高齢のため、教会本部に要請を出した。
教会は神父様の要請を聞き、若い聖騎士を一人案内役に向かわせたのだ。
「ナーニョといいます。よろしくお願いします」
「私の名はファンダム。国王軍の試験を受けると聞いた。君を王都の孤児院に案内するまでの護衛に就くことになった。よろしく」
ファンダム様は犬の獣人らしく、犬の特徴が濃い。
彼も先祖返りなのだろうか。疑問に思いながらも聞くのは失礼かなと思い、黙って馬車に乗り込んだ。
村は王都からさほど離れていなかったのか馬車で三日ほど移動した後、到着した。
「いらっしゃい。今日はローラ樹の実が安いよ!」
「もっとまけとくれよ」
「ターロの指輪いかがですかー?」
初めて見る王都。
様々な場所で露店が開かれ、人々の活気がある声が聞こえてきた。
石道路には馬車が通り、人通りの多さに私は圧倒されていると、ファンダム様が話しかけてきた。
「ナーニョ、案内する。こっちだ」
「は、はい!」
ファンダム様はキビキビと歩き始めた。
今の私はシスターと同じ服を着ているので見習い修道女のように周りから見られているのだろう。
ファンダム様は国王軍の拠点である大きな建物の前に来た。
「ここが国王軍の拠点だ。ここで手続きをした後、試験を受ける。合格発表まで数日かかるが、その間は今から行く教会に泊まる事になっている」
私はうなずいた後、そのままファンダム様の後を歩いて行く。王都は店も沢山あって露店が所狭しと並んでいてまるで迷路のよう。
気を抜けばすぐに迷子になってしまいそうだ。
ここで私とローニャは暮らしていけるのか心配になる。
露店街を通り抜け、雑貨店を右に曲がり一本道を進んだ先に孤児院があった。
そこはとても小さな孤児院でここの神父様も村の神父様と同じくらい高齢の方だった。
「ハナン村から来ましたナーニョです。国王軍の試験を受ける間、よろしくお願いします」
私は神父様に頭を下げた。
「パロ神父は元気かのぉ? アイツも大分ジジィになっただろうな。カカカッ。まぁ、ここはなーんも無いがいくらでも泊っていくといい」
「ありがとうございます。ファンダム様、お連れ下さり、ありがとうございました」
私はファンダム様にお礼を言うと、教会に戻るついでだと言って国王軍の受付まで連れて行ってくれる事になった。
私は荷物を神父様に預けた足取りで国王軍の建物の中にある受付まで連れて行ってもらった。私はお礼を言うと、帰りは行きに降りた場所でハナン村行きの馬車を探すのだと教えられた。
ファンダム様と別れた後、建物の中に入っていった。
軍服を着た人達が往来している中でシスター服を着た私は悪目立ちをしているのは仕方がない。
「若いシスター、国王軍に何か用かな?」
リスの獣人と思われる軍人に声を掛けられた。私はビクッとなりながらも答える。
「あ、あのっ。国王軍の魔法使いになりたくて試験を受けに来たんです」
「ふ~ん。そっかぁ。魔法使いかぁ。難しいけど、まぁ、頑張って? 受付はあっちだよ」
「ありがとうございます」
私の言葉に興味を失ったようだったが、リスの獣人にお礼を言って指差した方向に歩いていった。
「ここで魔法使いの試験が受けられると聞いたのですが」
私は不安になりながら受付のユキヒョウ姿の軍人に聞いてみた。
「あっ? あぁ……。君、孤児? そういう子多いんだよねー。殆どの子はなれないからさ、君も諦めた方がいいんじゃない? 君、可愛いから飲み屋の仕事とか人気が出そうだし、あっちに応募したほうがいいんじゃないか?」
明らかに面倒だと言わんばかりの態度を見て私は不安で泣きそうになる。
ずっと魔法使いを目指して頑張って勉強してきたのに私は試験を受けることすらできないの?
泣きたくなる気持ちを耐えて必死に受付の軍人に話す。
「で、でもっ。神父様から君は魔法使いの素質があるって。どうしても試験を受けたくて、ハナン村から来たんです」
「あーそういうの真に受けるタイプの子? あれは子供騙しだから。そういうの信じちゃ駄目だよ」
「で、でも! 両親はマロ村で亡くなったので今は孤児だけど 、祖母は先祖返りをしていて……」
軍人の態度が怖くて尻すぼみな言葉になりながらも試験を受けたい一心で説明する。
すると彼はハッと目を丸くし、別人のように変わった。
「君、もう一度言ってくれ」
「? 両親はマロ村で亡くなって、ハナン村の教会で育った、のですが、祖母は先祖返りをしていて……?」
「君の祖母の名前は分かるかい?」
「祖母の名前はサーナス・カーシャルです」
祖母の名を聞いた途端に尻尾をピンと立てて受付の軍人は奥へと走っていった。
どういう事だろう?




