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まさか猫種の私が聖女なんですか?  作者: まるねこ


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23 治療開始

「ようこそおいでくださいました。ナーニョさん、ローニャさん。今か今かと待っていたのです」

「……お待たせして申し訳ありません」

「こればかりは仕方がないだろう? ザイオンよ」


「だがマートン、怪我人は待ってくれんのだ。紹介が遅れました。私、医師のタール・ロルフォード・ザイオンといいます。二人のことはマートンから聞いておりますよ」

「ザイオン先生とお呼びすれば良いでしょうか?」

「えぇ、そのように呼んでください」


「で、二人はどんな治療が出来るのですか?」


 ザイオン先生は真剣な表情で聞いてきた。


「基本的には怪我の治癒です。魔法の範囲は一人。欠損は上位魔法になり、今の私では使うことはできません。


 あと、病気は治せないです。ただ、病気について喉が痛い、咳が出ているなどの場合、症状は軽く出来ると思います」


「なるほど、怪我をメインにして治してもらうことになりますね」

「ザイオン、二人はまだ成人していない。無理に働かせるなよ。陛下のお気に入りでもあるからな」

「分かっている」


 そんな話をしながらマートン長官は研究所に戻っていった。


「では早速始めましょうか。隣の部屋のベッドが六台置かれているのですが、そこの患者は魔獣の攻撃によって怪我が酷く、生死の境を彷徨っている状況なのです」


 ザイオン先生はそのまま私たちを連れてけが人がいる部屋へと連れて行こうとしている。


 ローニャにあの惨劇を思い出させたくない。


 私はそう思ってザイオン先生を引き留めるように声を出した。


「あのっ、私が重症患者は治療します。ですが、ローニャはまだ幼子で血を見ることになれていないのです。ローニャは軽傷の患者をお願いしてもいいですか?」

「これは気づかず申し訳ありません。そうですね。怪我を治したいばかりに幼子に無理させるところでした。ローニャさんは助手のエリオットと共にこの部屋の患者の治癒をお願いします」


 私の言葉にザイオン先生が理解してくれたようでホッと胸を撫でおろす。


「分かった。私、やってみるね!」


 ローニャは尻尾を揺らしながら助手のエリオットに連れられてベッドで休んでいる患者の方に向かった。


「ではナーニョさん、私たちも行きましょうか」


 私はザイオン先生に連れられて隣の部屋へと入室する。


 扉を開けると、鼻を抑えたくなるほど充満している血の匂い。


 ベッドの上には若い人が多く、どの患者も丁寧に白い布で巻かれているが、血が滲み今にも息を引き取りそうな気配がする。


 怪我人たちは浅い呼吸をしていて皆意識がないようにも見える。


 ナーニョは過去の惨状を思い出し、戦慄する。


 私たちの国では異界の穴はすぐ閉じられる。


 父たちは犠牲になってしまったけれど、世界はまだ平和だった。でも、日々魔物に殺される人達。


 逃れようもないこの世界の現実がここにあった。


 私はザイオンが口を開く前に無意識に指輪をつけて一番近い患者に手を当てていた。


「……ヒエロス」


 唱えた魔法は私の心に呼応するように強い光が放たれ、一瞬のうちに怪我人は安定した呼吸となった。


「……次。苦しかったでしょう。もう大丈夫よ。『ヒエロス』」


 ザイオン医務官はナーニョの魔法に息を呑んだ。


 これだけ酷い怪我をしている人間を若い少女が躊躇う事なく魔法を使っているのだ。


「……次。ごめんなさい。今の私では足を元に戻すことは出来ないけれど、他の怪我は治すわ」


 そう一人ひとりに言葉をかけながら魔法を唱えていく。


「……聖女だ。まさに貴女様は、聖女だ」


 ザイオン医務官はその奇跡を目の当たりにして自然と言葉が溢れていた。


「ザイオン先生、治療は終わりました。ですが、怪我は治せても失った血は元に戻せません。しばらくはこのまま静養が必要になると思います」

「君は、怪我人を見て怖くありませんでしたか?」


「……怖くないといえば嘘になります。ですが、これがこの世界の現実。誰もが必死に戦い、家族の命を守ろうとしている。私たち姉妹のような人々を増やしてはいけないと思うのです」

「ナーニョ様たちは魔獣に親を殺されたのですか」


「ええ。ローニャがまだ四歳の頃、私たち二人を除いて村人全てが亡くなりました。ローニャは幼かったから軍の人に守られて壊れた家を見ただけですが、私は殺された村人たちの遺体確認に立ち合いました」


「そうか、ナーニョ様も十分に若い。苦労してきたのですね」

「私には妹しかいません。妹を守るためならなんだってすると決めているのです。

 妹は自分の魔法が安定しない中で怪我人が一人でも減るのなら治療していきたいと言ったのです。だから私も手伝う事に決めたのです」


「……そうでしたか。君の妹、ローニャは全力で私たちが守ります。絶対に嫌がることも無理をさせることもしないと誓います。どうか、ナーニョ殿、我々にこれから力を貸していただきたい」


 先ほどの態度とは打って変わり、視線を下げて片膝をついてナーニョに願い出た。


 彼のその姿はナーニョへの畏敬の念を表していた。


「わかりました。ローニャの事を守って頂けるのであれば私も協力を惜しみません」

「ナーニョ様、感謝します」


 ザイオン医務官は私の言った言葉に思うところがあったのだろう。私はそれ以上言葉を口にしなかった。


「ザイオン先生、治療した彼らはどうなるのですか?」

「王宮の下女たちが彼らの汚れた服を綺麗にした後、世話もすることになっている。目が覚めてからすぐに動くのは辛いだろうが、家族と共に帰宅となります」

「それなら良かったです」

「では一旦医務室へ戻りましょうか」


 部屋の中にいた下女たちは怪我人を確認しながら動き始めている。


 私たちは元の部屋に戻った。


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