123 声をかけてきた人たち
「英雄エサイアス様ですか?」
数名の女の子が私たちのテーブルを囲むように声を掛けてきた。護衛はすぐに私の側にきて離れるように彼女たちに促した。
女の子たちは睨みながら私から距離を取るけれど、エサイアス様と話がしたいようで私たちに構わず話を続けようとしている。
「君たちは私に何か用なのかな?」
エサイアス様が一言口にすると女の子たちは顔を赤らめて喜んでいる。その中の一人がモジモジしながら言った言葉に私は驚いた。
「あの、どうか私たちと、この中の一人でもいいです。一晩を共にしていただけませんか?」
巡視をしていると、街や村の女性から声を掛けられているのは知っていた。
滞在している間だけの恋人を作る騎士だっている。理解はしているけれど、いい感情は持てない。
エサイアス様は断ってくれるの?
まさか喜んでいる?
たった一瞬で色々なことを考えてしまう。『私がここにいるのに』という嫉妬が芽生える。
すると彼は微笑みながら女の子たちに向き合って話す。
「最近の女の子たちは積極的なんだな。それは悪いことではないけれど感心しない。残念ながら私は君たちに興味はない。申し訳ないが、私は食事中だ。他の誰かに声をかければいい」
「で、でも。エサイアス様には婚約者がいないと聞きました。ずっと憧れていて……。一夜だけで良いのです。誰にも言いません。どうか私たちに一夜の夢をお与え下さい」
彼女たちは引き下がらない様子。私が声をかければいいのかも迷ってしまう。
どうしようかと護衛騎士に視線を向けると、護衛騎士はうんざりしている様子だ。
もしかして私が知らないところでこのようなやり取りがあったのかもしれない。護衛騎士が女の子たちに声をかけ、排除しようと動いた時――
「私は君たちに興味がないと何度言えば分かってくれるのか? 婚約者はいなくても好きな人がいるし、その人には誠実でありたいんだ」
「黙っていればばれません。私たちは絶対に話しません!」
彼女たちも必死に言葉を返している。
「……黙っていればばれない、か。ナーニョ様にこんな阿婆擦れ女たちを目に入れさせたくはない。帰ってくれるか」
「で、でも……」
あれだけ拒否されても引き下がろうとしない彼女たちに内心は動転している。
「分からないのか? バレなければいいという問題ではない。私もこうして数多のライバルを押さえつけ、口説き落とそうと必死だ。それを邪魔するのは許さない。
英雄と言われている私でさえ選ばれる身なのでね。彼女からすれば私なんて大勢いるうちの一人だ」
「……そんな。まさか」
エサイアス様の言葉でようやく彼女たちも相手が誰か気づいたようだ。
「さあ、私に構っていないで他を当たってくれ」
エサイアス様がそう言い終わると同時に護衛が彼女たちを遠ざける。彼女たちは私を一目見てから離れていった。
「ナーニョ様、すまない。不快な思いをさせてしまった」
「いいえ、私は構いません。女性から積極的に声をかけてきたのには驚きました」
獣人の世界は男女平等だ。
この世界に来て男尊女卑なのだと知った時は驚いた。貴族と違い平民ならもう少し女性が強くて平等に近いと前にマイアさんが言っていたわ。
巡視をしていく中でやはり男の人が女性を守るという意識が強いのは理解していたが、女性から積極的に何度も声を掛けてくるのは新鮮に思った。
「確かに。私の肩書を好み、声を掛けてくる女性はたまにいるが、私はナーニョ様以外に興味は全くない。私はずっとナーニョ様のことだけしか見ていない」
私はその言葉を聞いて顔を赤くする。まさかこんな人の多いところで言われるとは思ってもみなかった。
「エサイアス様、その辺で……。ケイルート王太子殿下からも言われているでしょう?」
「チッ。相変わらずケイルート王太子殿下は抜け目がない」
後から聞いたのだが、ケイルート兄様は護衛たちに『ナーニョに近づく者全て排除せよ。エサイアスであってもだ! むしろエサイアスをメインに排除せよ』と言っていたらしい。
護衛たちは苦笑していたわ。
全く気づかない私も、私だ。
でも、こうして兄様たちにずっと守られていたのか。今まで苦労なくこれたのもみんなのおかげだ。
私たちは食事を早々に終えて部屋に戻っていった。
翌日から騎士団と別行動になった。騎士たちは街の周りを巡回して魔獣を討伐していく。私は畑や井戸に魔法を掛けていった。
「エサイアス様、ナーニョ様、本当に、本当にありがとうございました」
「短い期間でしたが、この街も素晴らしいですね。また寄らせていただきますね」
私たちは街長に感謝した後、街を出発した。王都までは三日ほどで辿り着いた。
王宮へ戻った後、私はどうすればいいんだろう?
これからのことを不安に思いながら私たちは王都へと向かった。




