121 彼からの告白
「ナーニョ様、大丈夫か?」
心配したエサイアス様が声を掛けてきた。
「は、い。異界の穴から落ちてきて、人生が変わり、いっぱい思い悩んで一生懸命に生きてきました。こんな私でも、みなさんのお役に立っているんだなって思ったら嬉しくて……」
「ナーニョ様。ここにいる皆、ナーニョ様のおかげでこうして壇上に立っている。ナーニョ様がいなければ私は既に死んでいただろうし、巡視の途中で隊長の半分は死んでいた。全てナーニョ様とローニャ様のおかげだ。どうかご自分のことを卑下せず、私の手をお取りください」
私はエサイアス様に手を引かれ一歩前へ出た。
「ナーニョ、ありがとう」
父が改めて私に声を掛けた。すると歓声と共に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
ケイルート兄様の立太子の儀もエサイアス様の報告も盛況のうちに終わりを告げた。
今日の報告を聞いた人々は明るい未来に希望が見えたと喜び帰っていった。それから王都に住む人々には瞬く間に話が広がっていき、以前にも増して活気に溢れている。
一週間後。
私は新しくなった指輪の入ったポシェットに手をかけながら魔法円を確認していく。
日々研究員のおかげで魔法も使いやすくなり、魔獣も倒しやすくなってきた。新しい武器を騎士たちは装備し、次々とガーナントの街に魔法で移動していく。
今日から巡視の再開。
巡視は三ヶ月に一度、王都に戻り、休暇を取ることが決められたのだ。騎士たちも死にに行く気持ちで臨んだ巡視だったが、定期的に家族に手紙が送れることや休暇を過ごせることになり幾分張りつめた空気が和らいだ。
「お父様、お兄様、では行ってまいります」
「ナーニョ、無理せずにな。苦労をかけてすまない」
「お姉ちゃん、気を付けてね! 何かあったら私みたいにビューンって飛んで戻ってきてね?」
「そうね。数年後には私が頑張らなくてもカシュール君たちが頑張ってくれるのだもの。無理はしないわ」
「ナーニョ様のことは命に代えても守ってみせます」
「頼んだぞ、エサイアス」
こうして私たちは転移魔法でガーナントの街に戻っていった。
巡視は順調に各領地を進んで行った。
各街の人たちから異次元の空間が開きそうなモヤが出ていると報告があると、転移し、ヒーストールを使い浄化していく。
やはり異次元の空間が開く年は一つではないのだと実感する。きっとその中には獣人の世界に戻るための穴があるのだろう。
お婆様は元気にしているだろうか?
感傷に浸ってしまう時もあるけれど、私もローニャもこの世界で生きていく事に決めた。
「エサイアス様、次の街は確かカナンナの街でしたよね」
「ああ、次の巡視が最後だ。長かったな」
「……そうですね」
「ナーニョ様は王都に戻ったら何かやりたいことはあるのか?」
「いえ、何も考えていなかったです。王都に戻ったら釣書がたくさん届いているから、結婚しなければいけないんでしょうね」
「結婚は嫌か?」
「嫌というわけではないですが、生涯好きな人と共に過ごしたいと願ってしまいます」
「……俺はどうだろうか?」
突然の言葉に時が止まった気がした。
彼は真剣な表情で私を見ている。
「君に助けられた時からずっと君のことが好きだった。君のことを守りたいとずっと思っているし、これからも守り続けていたい。俺と結婚してほしい」
「わ、私で良いのですか? エサイアス様ほどの素敵な方なら貴族の令嬢方が放ってはおかないのではないですか?」
「俺は昔から結婚することはないと思っていた。幼い頃に両親が亡くなり、俺の代で爵位返上して終わらせようと思っていた。邸の使用人が少ないのもそれが理由なんだ。魔獣との戦いでいつ死ぬかも分からない状況だった。
俺たち騎士は生死を掛けて必死に国を守っているのに令嬢たちの会話はドレスや宝石の話ばかり。俺はそんな令嬢たちに辟易していた。
それは今でも変わらないし、興味もない。急に結婚してほしいって言ってもナーニョ様にとって急な話で難しいかもしれない。どうか巡視が終わった時に答えを聞かせてほしい」
「……エサイアス様。わ、わかりました」
彼の真剣な言葉に私は悩んだ。
エサイアス様はとても素敵な人だ。優しくて、紳士で、騎士団長としても立派でみんなから慕われている。
いつも彼は私の不安な気持ちを察して支えてくれていた。
本当に私でいいのだろうか?
嬉しい気持ちと不安な気持ちが入り混じる。英雄との結婚。それはとても栄誉なこと。
私なんかが釣り合うのだろうか。
街道を中心とした討伐を行い、ようやくカナンナの街に入った。騎士たちは慣れた手つきで駐屯所に各々荷物を運んでいく。
私はこの街の神官に案内されて神殿の客室に向かった。
私は荷物を置いてポフリとベッドに寝っ転がり、エサイアス様の言葉を思い出す。
じわりと湧き上がる想い。
……嬉しい。
でも、不安な気持ちはかき消せない。
私はエサイアス様の言葉を受け入れてもいいの?
父は反対するだろうか?
養女とはいえ王女の私が勝手に返事をしてはいけないのだろうか。悶々と一人で考えていると、ローニャから連絡が入った。




