第7話 もふもふはこっちも癒す
柊司は戻ってきた璐羽にハグされながらも、自分に配合された投薬を体にまとわせていく。
投薬と言っても直接口に含んだりしないようにしている。柊司と琳が共同開発したAIの璐羽の毛を通じて、『ちょうど良い配合』を皮膚接触で内部に浸透させているのだ。
口からの摂取による服薬が確実ともされているが、毒や菌が粘膜だけに浸透するわけでないのは、柊司が一番知っている。皮膚が紫外線によって色が変わることから、皮膚接触はどうかと琳が提案してくれたのだ。
代わりに、柊司の気狂いと忌避された事で、どれだけ犠牲を払ってきたか数えるのも疲れてしまったが。
生き方も、治療も、家族も、社会も。
この村に再び戻るまでの犠牲は数知れない。ただ、もう一度取り戻したいものがあるからこそ。
なのに。
「……璐羽。俺は、寝てたのか?」
『YES、マスター。珍しくぐっすりと』
投薬に集中させるために、意識を少しだけ沈めていただけのはずが。いつのまにか、うたた寝以上の熟睡をしていたらしい。今は琳と作業しているらしい、あの小柄な女性のように。
意志が強いと思えば、璐羽に包まれると蕩けた笑顔で眠りについた彼女。想像以上に、重病者なのだろうか。琳が独断で運んでくるなど、通常ならあり得ない。
しかしながら、あの女性はただの元部下でないことを勘付いていたのは、どちらも同じだった。
「そうか。んじゃ、飯まで少し作業するか」
『無理してない?』
「山菜の天ぷら蕎麦だろ。伸びるまで打ったりしない。今からは、失敗作で作るペーパーナイフの文字入れだよ」
『じゃあ! 一個だけ、茉歩にあげてよ』
よほど気に入ったのか、AIの中に組み込んだ性格分析の中で、『優』に近い判定を出したのだろう。とくれば、自分で開発した側としても、その改善点は大いに認めなければならない。
「なら、逆に『守り刀』にしてやった方がいい。身につけられれば、俺と琳に認められた余所者だと思われるだろ」
『NICE! マスター手製のアクセサリーなら、女の子だと喜ぶと思うよ!!』
「アクセサリー……になるか。俺の作り方だと」
『……自覚なかったの? 売り上げこれくらいなのに』
一定の計算報告書のデータをタブレットで見せられ、あまりの金額に肩が跳ね上がりそうになった。打ち直して、もう一度作り直すと強度が下がるため……割ってアレンジしただけの副産物の方が意外と収入源になっていたのだった。
「……本来の目的にはそぐわないのに」
『まあまあ。分担してくれる子が来たから、いいんじゃない? マスターが寝ている間に調べたけど……茉歩も相当、あの会社で好き勝手に扱われてたらしいよ?』
「……なら。なおさら、邪険に扱えないな」
ここでの生活が、どれだけ自分のためになるのか。改めて、自分を見つめ直して欲しいと思える。であれば、金になる他を適度に作り上げてから、じっくりと茉歩に渡す守り刀の構想を練ることにした。