第6話 もふもふと作業 其の弍
単純に草花を抜くのとは違う、山菜の採取。
璐羽に教わりながら、新聞紙の上にこんもりとした山のように集めたそれを。これまた、出来るだけ急いで帰るという荒業のような方法で帰宅するという。
リハビリとはいえ、投薬のおかげで健康になったつもりでいたのに。到着した頃には、息切れがひどい状態にまで疲弊していた。やはり、もともとの体力まではそんな簡単には戻らないと自覚した。
『はい、お茶。ぬるいからすぐ飲めるよ』
「……あり、がと」
湯呑みが口に当たると、こきゅっと喉が動いていく。渇きから潤う感覚が心地良い。何処か香ばしく感じる味わいは麦茶のそれとは違う。一杯飲ませてもらうと、滲んでいるように見えた視界がクリアになっていく気がした。
「お疲れ。あ〜……服薬のバランスは合ってそうだけど。体力低下はしょーがない感じ」
ひょいと、顔を覗き込んできたのはイケメン美人。名前は聞いてはいたものの、何故かそちらで認識してしまう。まだぼんやりしていた茉歩の顔を見て、医者らしい診断をしたら……口に何かを入れようと指に何かを摘んでいた。
「え?」
「薬じゃないから。口開けな」
「え? ふぁ?」
言われたように口を開けたら、コロンと何かを入れられた。少し固くてころころするかと思っていると、琳には噛めと言われたので咀嚼してみる。
シャリ シャリ。
飴でもゼリーでもない。食べたことのない食感が面白くて、何度も噛み続けていく。
「おもろい食感だろ? それ、シューが作った琥珀糖」
「これ、お菓子?ですか?」
「一応和菓子。変わった固め方した寒天だよ。こんなの」
目の前で見せてくれたお菓子とやらは、ガラス細工のように色鮮やかではあるが。少しぼやけた光り方をした表面。何かの細工をイメージしたのか、適当な形ではなかった。
「キレー……多知獺さんの目みたい」
「ぷ。シューの目みたいって、良いセンス」
「? 変です?」
「いや、全然。あいつ、今別の作業してっから。俺とあんたで作るよ。蕎麦」
「はい?」
「掃除に洗濯だけが家事じゃないっしょ? 俺んの職聞いたんなら、『医師指導』として自活教育もしてやんよ。璐羽はとっくに、シューんとこ行ってっし」
「あ!? いない!?」
琳と話しているうちに、なんとなくもふもふが見えないと思ったら。本当にいなかったのだった。メモ書きだけ見つけ、『琳も優しいから、勉強頑張って』とあったが、もっとあのもふもふを堪能したいと思ったのだった。
「重病者ふたり分抱えんのも、これでちょーどいいな? 食育も中途半端ふたりなら、人数増えて食うのもいいしー?」
と言いながら、琳は長い長い麺棒らしきものを軽く回して、調理台の奥の方へと行こうとしたが。すぐに、茉歩を手招きした。
「はい?」
「蕎麦打ちの見学くらいしとき。滞在するんなら、出来るようになった方がいーよ」
「え!? お蕎麦って……そこから??」
「スーパーで毎回茹で麺買うのより、断然美味いって。店出せるくらい美味いの、食いたくね?」
「! 食べたい、です!」
「しょーじき、よし。AI使わずに、自力で覚えんよ」
「あ……はい」
頼りっきりで使い続けていたものを無し、は少し緊張はしたが。久しぶりに美味しいご飯は食べたかたので、自炊レベルを上げるために頑張ろうと意気込んだ。




