第2話 行動に比例して
アナログな生活と半々が主流になった現代社会。茉歩も当然、まだ二十代半ばなのでその生活は日常に組み込まれていた。政府の意向により、完全に『科学』『化学』に傾向し過ぎず。世代に合わせた生活を維持していく政策を……政府なりに維持してきて約二十年。
どれだけ技術革新などがあれ、『人間も自然の一部』に過ぎないという自覚を持てと。かつての世界大戦以降も、規模は違えど人災は幾つか起きたのだ。その過程で、得たものと喪った子のも多くある。しかし、どれほど経験を重ねても行き着く路は同じであると……ある人物が定説を根付かせたのだ。
現在にAIなどの補助システムを組み込んだ第一人者。彼は現在引退したとかで前線を退いでいるものの……十年程度で、老年世代はともかく。中年以下には彼が基本を作ってくれたAIのおかげで、生活が潤ったのは間違いない。
アナログを完全に捨てずとも、最新技術の適度な組込みによる水準の上昇。基盤が根付いたことによって、後継者の卵たちも確実に増えてきていた。
地方はともあれ、それなりの町や市ではAIの組み込みは日常生活に溶け込んでいる。媒体にもよるが、端末内蔵型以外は『特殊形状』があるのだ。高価なので、それなりの収入を確保できる家庭でなければ維持が難しい。まだここ数年で導入したばかりなため、部品維持や交換部品が単純に高い。
そして、それを一般家庭にまで導入可能にしたのが……茉歩が今向かっている関市に引き篭もったと上司から伝え聞いた技術者。多知獺柊司自身が、そうだとされている。正式な公表はないが、周知の事実と定説が出来上がるほどだと。
茉歩と彼の関係は……顔を合わせていない上司と部下の関係でしかない。思い返せば、茉歩が少し休職する前に事務処理していた書類にあったのだ。彼の名前が。自分が平凡なため、珍しい苗字程度だと思ってたくらい。
茉歩はシンプルに『前田』。あだ名が名前の頭文字を取って『ママ』と言われることが多い。コンプレックスだが、世話好きなのはその通りなために完全否定出来なかった。家庭環境などで、そのように育つのはじめ仕方がない。
名前はとにかく、顔を合わせたことがない彼とは部署が違うだけで会わないのは仕様がなくても。社外、しかも彼ほどの技術者が在籍するにしては……地方過ぎる土地にいるものだと。
単線やバスを乗り継いで到着した時に、予算が高くてもタクシーでこれば良かったと後悔したほどだ。
「…………マジで、疲れた」
デスクワークや営業補佐中心でも、普通のOL並みには外回りくらいあったが。休職中は、転職や転居を決意してたので。ほとんど引きこもり。その期間が半年となれば、筋力諸々低下しててもおかしくない。今時らしく、茉歩も最低限のことは備え付けや購入した個人用のAI端末に頼り切りだったのだから。
「……地元、と似てるにしても。交通機関……そのまま??」
到着した時にも感じたが、開発関係者が在籍する地域にも関わらず……そのまま過ぎる。設備のほとんどが。記憶と比較すれば、AIの実用化と導入がされる前。茉歩がまだ中学生くらいの生活基準だった。
令和初期の、天災がきっかけで復興支援にAIを導入する少し前。これから会いに行く予定の、引退した彼の養育者たちの出身地も……このあたりだと聞いてもいた。
なのに、ほとんど『機械のない外観』なのだ。うまく溶け込ませているにしても公共の設備がそのままなのは、こちらには適応しにいくい。かつて利用していたとしても、十年以上の誤差を埋めるのには時間がかかるのだ。
(……にしたって、ガチもんの技術者が滞在しているのに?)
連れ帰って来いと言われた本人は、少なくとも半年以上は滞在しているとの履歴は会社内に残っていた。それだけの期間があれば、本人の仕事の要領さえ迅速に進めば……協会らと連携したら、ひと月程度で景観を壊さないレベルの適応対策は出来そうなのに。
何故、本人がそれをしなかったのは。駅から歩いて少し先に、答えのような場所がひとつ見えたお陰か。茉歩が多知獺の顔写真を初めて見た時の、記憶の引っ掛かりを感じたのだ。
「……綺麗」
休職していて忘れていたが、今は夏で。ここは地形の関係上、猛暑かと予想していたはずが想像以上に清涼感を肌で感知できるレベル。
見えた先に、駅前にも関わらず小さな滝があった。以外のも水量が多く、飛沫が風に混じって冷気が程よく流れていたのだ。
『……気持ちいい?』
魅入っていた景色に相対するかのような、幼児に近い声質の機械音。その方向を見れば、ホログラムでない『実体化』のAIらしき存在が二足歩行で立っていた。外見は、触りたくなるくらいふわふわモコモコの……茉歩より少し低い位置に、スピッツのような外見のそれが笑顔で茉歩を見上げていたのだ。
「…………AI?」
『うん。ボクは璐羽。お姉さん、マスターに用事?』
「え、え、独自に意識維持出来て……る??」
『ふふ。ボクくらいのは初めてなんだね?』