第11話 就労支援とは?
茉歩は、退職後には本入院をする予定ではあった。
それなのに、思いつきで行動しては過疎化に近い大自然の生活に飛び込むという大胆さ。それについて、実家の両親が了承するわけがないというのは普通であるとされるはずなのに。
「私は羅月と申します。はい、こちらの医院で保護入院という形で受けていますのでご安心を。入院費は、ひとまず後日の就労支援での所在費を見合わせていますので。はい、心配なさらないでください」
琳が『医師』らしい対応で、茉歩のスマホへとかけてきた母に大体の処置を説明してくれたこともあり、大袈裟にはならなかった。若手だが、先輩医師でもある父親の稼業を継いでいるせいか。普通なら研修医以下のはずなのに、茉歩の主治医となってくれたのだ。
母からは『しっかり治しなさい』と言われたので、とりあえず適当に流した。ウィルス性でない病について、不治の病に近いとされている心と脳が直結した精神病の完治など聞いたことがないからだ。
とりあえず、本当に入院費と滞在費を『就労支援』ということにして家事全般以外の雑務を琳と共同作業することになったのだ。
「よろしくお願いします」
「ん。買い出しは基本的に無し。というか、ネット通販で肉や魚とか調味料は購入してる。来るとしたら、週末の金曜日。以外は、基本自活」
医師以外はだらけた態度というか、ぼーっとしているのはおかしいかどうかは社会の勝手だ。受け答えはどうだっていい。璐羽は、多知獺と仕事があるからと朝から工房に篭りっぱなし。
あとで、投薬の時にはもふもふさせてもらえるらしい。
「はい。野菜が畑とかは分かりますが、卵は??」
「うち、というか。ここの家じゃ烏骨鶏育ててんの。美味いぞー」
「うこっけ?」
「超高級卵のひとつ。んじゃ、今日一日のがんばり次第で卵かけ食わせてやんよ。まずは畝作りからな」
「! はい!」
「俺も行く」
「あ?」
「……多知獺、さん?」
何故か、朝起きたあとは放置プレイにしてきた多知獺まで加わってきたのだ。本当に農作業をするのかクワまで。璐羽は後ろから水筒をいくつか持っていたので、茉歩にも一個渡してくれた。
『かわいい茉歩、独占イヤイヤ言ってたからねー?』
「……璐羽」
『マスター、こわぁい!』
「俺、いちおー医者だけどー?」
「本職は違うだろ。……ただの気分転換だ。鍛治師の鍛えのためにやる」
「普段からそんくらいしとけよ。茉歩っちは別に取んないしー?」
「琳!!?」
「あのぉ。ケンカはいいんですけど、初心者に教えてもらえますか??」
お茶は冷たくて美味しかったが、本題はそこではない。質問すると、多知獺はくしゃっとした渋い顔をしたあとに謝罪してはくれた。
普通に質問をしただけが、何か気にそぐわない言い方をしたのか。あとで、今日の受診の際に琳に聞いてもらおうと思った。




