第10話 キラキラ綺羅綺羅
服薬を馴染ませるのに、タブレット型の錠剤も口に含んでからの就寝となった。
二十代も前半なのに、十代の子どもに向けたような処方の仕方。でもそれが、すごく心地良くて。この家に居ていいんだと思えたのか。
茉歩は璐羽に抱きついて眠りについた。
意識が浮上したときは、過去の映像を見ているような夢想の空間の中にいるようだった。
症状の中に、『幻惑視認』とやらで現実と幻想の錯覚を見るような興奮状態になるらしいが。
どうもこの空間は、眠りの奥の夢想だろうとはっきり思い出せたのは。
『どこを見ても、今とここでない場所』。
そんな風景の中で、茉歩の意識は溶けていたからだ。
『にーたん、抱っこ! まえ!!』
『茉歩は、ほんと俺の顔見たがるな?』
『キラキラきれいなの! にーたんのお目目は変じゃないん!!』
『ありがと。茉歩だけだ』
過去の記憶らしいが、おぼろげのような映像で相手の顔も見れない。親類縁者もいたかもしれないが、AI発展のおかげもあってやりたい活動が老年層も増えた。
各地へ旅行とか、習い事をやり直すとか。難病患者は療養とか。茉歩もそのひとりだが。川の水面が乱反射して、きれいな色合いに見えたのは今の茉歩でも感じ取れる。
きらら、きらきら。
誰かにそんな言葉も教わった気がするが、溶け込んだ意識と川の水面が同調しているようで、自分の事を言われている気がした。
目が覚めれば、日が昇ったのか部屋は明るく。上から多知獺がこちらを見下ろしていたのには驚いたが。
「……起きたか。寝言はいっちょ前だが、まずは身支度してこい。悪いが荷物は軽くチェックしたから」
「あ……はい。大丈夫、です」
バカ部長の辞令もあったから、一応のセキュリティチェックは想定済みだった。とは言っても、通常旅行以外の荷物は適当に入れたようであまり覚えていない。
それでも、女性のアメニティーとかを見てしまった謝罪はくれる多知獺は紳士ぽいなと思ったが。
『おっはよ〜、茉歩! 井戸の場所教えるから、そっち行こ? 蛇口の水より冷たいよー?』
本当に枕代わりになってくれた璐羽は、抱っこしたまま外へとダッシュした。裏庭にある大きな井戸の使い方を教わり、冷えた水で顔を洗うとすごい爽快感を味わえた気がした。
「はぁ〜、贅沢〜」
『鍛治師に水は付き物とされてるし。ここは清涼な水が多いんだよー』
「そっか」
一応首にぶら下げておいたあのアクセサリーもどきは、AIが組み込まれているかわからないくらいの出来。凹凸が日の光を反射して虹色に光ってキラキラしている感じだ。
「おはー。じゃあ、起き抜けにラジオ体操」
住み込みかはわからないが、イケメン美人の琳も登場してきたが。ラジオ体操の意味は、そのあとに始めた薪割りで茉歩が怪我しないためのストレッチ代わりだと知った。




